神奈さんとアメリちゃん

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第七十四話 新たなお向かいさん ―前編―

公開日時: 2021年4月19日(月) 07:01
文字数:2,124

昨夜ネームも出来上がり、真留さんは今日はちょっと予定がいっぱいなので、明日二時に来るそう。


 さて、一日暇になってしまったけど、どうしたものかな。台所の時計を見ると、十時過ぎ。まりあさんやかくてるの皆さんのとこに遊びに行くのもいいし、インプット・・・・・に費やすもよし、何よりアメリと目一杯遊びたかったり。


 方針が決まるまで、台所でアメリと動画を眺めながら適当に過ごしていると、インタホンの呼び鈴が。時刻はいつの間にやら十一時過ぎ。はて、どなたでしょう?


「はい、どちらさまでしょう?」


「おはようございます。昨日お話させていただいた、T総の白部です」


 ほえ!? これまた意外過ぎる来客!


 うわ! 私、例によってスウェットだよ。だからって待たせるのも悪いし。えーと、どうしよう!?


「五分ほど、お待ちいただけますか!?」


 そう伝え、超特急でお着替え。メイクはすっぴんだけど致し方なし。


「お待たせしました!」


 光の速さで着替え終わり、息荒く門までお出迎え。


「すみません。急がせてしまったみたいで」


「あ、いえ。それで、どういったご用件でしょうか? アメリについて新事実が判明したとかですか?」


「いえ、別件でして。今日からあちらのアパートに住むことになりまして、ご挨拶に伺った次第です」


 そういえば、道路向かいのアパート前に、引っ越し会社のトラックが停まってるな。


「作業の方は見守らなくていいんですか?」


「そちらはもう終わって、引っ越し会社の皆さん帰るところです。荷物配置の再現サービスっていうんですか? あれ、便利ですねえ。ちょっとお高かったけど、ずいぶん楽できました」


「立ち入った話になるかもしれませんが、なんでまたこちらにご引っ越しを?」


 素朴な疑問を呈する。


「それですよ! だって、この近辺に猫み……猫耳人間が三人もいるんですよ!? 研究者として、なにより愛好家として近くに移らざるを得ないじゃないですか!」


 うっかり大声で猫耳人間といいそうになり小声で言い直したものの、後半は背景で波しぶきがたっぱーんと爆ぜてそうな勢いで熱弁する。


 なんというか、昨日のお話で理知的な人だなーとか思ってたけど、実はこっちのノリが本性?


「その、失礼なことを言う様ですけど、アメリを観測対象として間近で調べたい……とかではないですよね?」


 良くない言い方だけど、興味本位でアメリを見られるのは嫌な気分だ。


「いいえ、愛です! 私は、猫耳人間を心の底から愛しているのです! 身近にいられるだけで幸せなんです!」


 ぐっと腕に力を込め力説。また波しぶきが飛んでそう。猫耳人間のところ、小声にするの忘れてますよー。


 研究者の世界というのはよくわからないけれど、多分こういう「好き」が極まっちゃった人が、入門する世界なんだろうな。


「だってもう、耳と尻尾が可愛いじゃないですか~。それでいて、子供なんですよ? もう、可愛さの二乗じゃないですか~」


 今度は、頬に手を当てうねうねと悶え始める。なんていうか、忙しい人だな。少なくとも、昨日の理知的なイメージはもはや粉微塵に崩壊している。


 これだけ濃ゆいキャラの持ち主なら、ぜひ「あめりにっき連載漫画」に登場してもらいたいところだけれど、何ぶん「あめりにっき」は体裁上、普通の猫と飼い主たちを描いた物語だから、彼女を出すとたいそう不自然なことになってしまう。残念!


「そういえば、角照さんたちにはもうご挨拶されたんですか?」


 隣家のほうを見る。


「あ、これからご挨拶に伺おうかと思ってまして」


「でしたら、少し用意するお時間をいただけましたら、ご一緒にいかがですか? 実は私も、今日一日暇を持て余している状態でして」


「はい! ぜひ、よろしくお願いします!」


 ふんすと鼻息も荒く、気合い入りまくりな白部さん。


「では、そうですね……三十分後にそちらに伺います。お住まいはどのお部屋ですか?」


「ええと、一階の向かって右側の部屋です」


 二階建て全六部屋のアパートだから、「ああ、あそこか」と見当がつく。さすがにトラックはもう、いつの間にかいなくなっていた。


「では、少しお待ち下さいね」


 というわけで、一旦台所に戻るとアメリがいない。寝室かな? と思ってそちらへ行くと、ブロック遊びをしていた。


「おお~。お話長かったねー?」


「ほら、昨日病院でお話聞いたお姉さんいるでしょ? 彼女が向かいのアパートに越してきてね」


「おお~! あのかっこいいおねーさんだね!」


 あ~。アメリも彼女の正体・・を知ったらびっくりするだろうなあ。心の中で苦笑する。


「でね、優輝さんたちのおうちに一緒に伺いましょうってことになって、三十分後に迎えに行く予定なんだ。アメリも行くでしょ?」


「行くー!」


「よし、それじゃあお着替えタイムです。私は私でメイクしなきゃだから、よろしくね」


 というわけで、準備開始!



 ◆ ◆ ◆



 約束の時間に白部さん宅のチャイムを鳴らすと、彼女が出てきました。


「お待たせしました」


「いえいえ~! 私からぜひにとお願いしたことですから! アメリちゃん、こんにちは~」


 むっちゃにこやかに、アメリに挨拶する白部さん。猫耳人間を愛してるという言葉に、嘘偽りはなさそうね。


「おお~! こんにちは~!」


 アメリも元気にご挨拶。


「では、参りましょうか」


 いざ、斜向はすむかいのかくてるハウスへ!

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