今日は一月十五日。白部さんのお誕生日です。
いい加減庭の草が伸びすぎなので芝刈り機で草を刈っていると、かくてるハウスからスパーン、スパーンと小気味よい音が響いてくる。はて、布団叩きの音とはだいぶ違うな?
妙に気になって作業を中断し、お隣さんの門前から様子を見てみると、グラブをはめてボールを追いかけていたノーラちゃんと目が合った。
「おー! カン姉、おはよー!」
小走りでこちらに駆け寄ってくる。
「おはよう。キャッチボール?」
「うん!」
息が多少上がっているものの、楽しそうなノーラちゃん。すると、屋敷の角っこから白部さんと久美さんも姿を表した。
「やー、神奈サン。おはよーさん。まだパーティーには早いぜ?」
久美さんもグラブをはめている。ああ、フリマのときのやつかー。白部さんも、「おはようございます」と挨拶してくる。
「おはようございます。妙に小気味よい物音が聞こえてきたので、何の音だろうと思いまして。キャッチボールだったんですね」
うんうん、と頷く久美さん。
「逆に、白部さんたちお早いですね?」
パーティー開始はお昼。あと、一時間以上あるはずだ。
「ノーラちゃんがキャッチボールしたいというもので、斎藤さんにお願いしたんです。そしたら、快く引き受けてくださいまして」
「そういうワケ。ウチも体動かすの好きだからさ」
久美さん、本当に楽しそうだ。やっぱり音楽とお酒と同じぐらい、運動が好きなんだろうな。
「なるほど、腑に落ちました。それでは、草刈りの途中なので。また改めて伺いますね」
三人と別れを告げ、自宅に戻る。
さて、もうひと刈りいきましょー!
◆ ◆ ◆
シャワーを軽く浴びた後、パーティー用衣装に着替え、メイクも済ませて準備万端! 写真集もよし!
「じゃーアメリちゃん、行こうか」
「おお~!」
アメリも画用紙をくるくると丸め、それを写真集ともども紙袋に入れる。
そしてお隣に行きチャイムを鳴らすと、応対に出た久美さんと改めて挨拶を交わし、中に入れてもらう。
「こんにちはー」
リビングに通されると、そこにいたのは優輝さんと由香里さんを除くいつものメンバー。
皆さんも、口々にご挨拶を返してくる。やがて、料理担当のお二人がキッチンから顔を出し、準備完了を知らせて来たので、一同移動。白部さんと優輝さん以外は、テーブルに着席。
「それでは白部さん、ご挨拶をお願いします」
優輝さんが促す。
「本日は、私の誕生祝いに素敵なパーティーを開いていただき、ありがとうございます。私も今日で二十八になります。その人生の中でも、今年は実に色んな出来事があった年でした」
ノーラちゃんを見て、微笑む彼女。
「改めて、お祝いのほどありがとうございます!」
深くお辞儀する。優輝さんがろうそくに点火し、それを吹き消す白部さん。火が消えると、一同から大きな拍手と「おめでとうございます!」という声が起こる。
白部さんも着席し、ホストである優輝さんが切り分けていく。今日のケーキは、リンゴのミルフィーユだ。
「白部さん、リンゴお好きですからね。これしかないかなって思って」
そう仰るのは由香里さん。
白部さんが主賓ということで、呑める組にはアップルサイダー、そうでない組にはリンゴジュースがすでに、グラスに注がれている。
「ふふ、リンゴ尽くしですね。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑み、ケーキを食む白部さん。「美味しいです」と、さらに笑顔が増す。
やがてケーキも食べ終わり、優輝さんが本日のメインを出してくる。
「さすがにこちらはリンゴではないですけど」
そう言いながら、温め直した白身魚とアサリの、おしゃれな料理を並べていく。
「これは何という料理でしょう?」
「アクアパッツァです。ナポリの料理だそうですよ」
配膳も終わり、一同フォークをつける。あら、美味しい! この魚は真鯛かな、多分。
「美味しいです!」と、白部さん、まりあさんともども絶賛。「ありがとうございます」と恐縮する優輝さん。
ノーラちゃんも、うめーうめーといつもの調子で大絶賛!
ほかの子供たちも、美味しい美味しいと食んでいる。本当に、優輝さんこういうの作るの上手よね。
食事と談話を楽しみ、やがてそれもお開き。リビングでプレゼントを渡す段となりました。
「ウチからは、大体予想が付いてると思うけど」
と口火を切ったのは久美さん。やはりというか、品はアップルサイダー。
「LIZE見たら意外と呑まないって書かれててさ、慌ててみんなで相談して酒まみれになるのを回避したよ」
というわけで、続くかくてるの皆さんからは、小ぶりな猫の置物やアロマキャンドルなどが贈られる。
「後からLIZE拝見したのですけど、買ってしまった後だったので……恐縮です」
ばつが悪そうに、アップルサイダーを差し出すまりあさん。
「いえいえ。ゆっくりですけど呑ませていただきますね」
笑顔で受け取る白部さん。
「私からは、こちらを。猫の写真集です」
「あらー、ありがとうございます」
これも笑顔で受け取ってもらえた。ほっ。
ミケちゃんはマイソングのCD、クロちゃんとアメリは似顔絵を贈り、白部さんが「宝物にするね」と微笑む。良き哉良き哉。
「本日は、本当にありがとうございました。誕生パーティーなんて子供のとき以来ですから、年甲斐もなく心が弾んでしまって。とてもいい思い出になりました」
深々とお辞儀する白部さん。
こうしてパーティーはお開きとなり、門前で再度別れの挨拶を交わし、それぞれの住まいへと戻っていきました。
祝ったり、祝われたり。私たちって、素敵な関係だなあ。
そんなささやかな幸せを、きゅっと噛みしめるのでした。
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