神奈さんとアメリちゃん

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第百七十六話 白部さんのお誕生日!

公開日時: 2021年4月25日(日) 21:01
文字数:2,263

今日は一月十五日。白部さんのお誕生日です。


 いい加減庭の草が伸びすぎなので芝刈り機で草を刈っていると、かくてるハウスからスパーン、スパーンと小気味よい音が響いてくる。はて、布団叩きの音とはだいぶ違うな?


 妙に気になって作業を中断し、お隣さんの門前から様子を見てみると、グラブをはめてボールを追いかけていたノーラちゃんと目が合った。


「おー! カン姉、おはよー!」


 小走りでこちらに駆け寄ってくる。


「おはよう。キャッチボール?」


「うん!」


 息が多少上がっているものの、楽しそうなノーラちゃん。すると、屋敷の角っこから白部さんと久美さんも姿を表した。


「やー、神奈サン。おはよーさん。まだパーティーには早いぜ?」


 久美さんもグラブをはめている。ああ、フリマのときのやつかー。白部さんも、「おはようございます」と挨拶してくる。


「おはようございます。妙に小気味よい物音が聞こえてきたので、何の音だろうと思いまして。キャッチボールだったんですね」


 うんうん、とうなずく久美さん。


「逆に、白部さんたちお早いですね?」


 パーティー開始はお昼。あと、一時間以上あるはずだ。


「ノーラちゃんがキャッチボールしたいというもので、斎藤さんにお願いしたんです。そしたら、快く引き受けてくださいまして」


「そういうワケ。ウチも体動かすの好きだからさ」


 久美さん、本当に楽しそうだ。やっぱり音楽とお酒と同じぐらい、運動が好きなんだろうな。


「なるほど、腑に落ちました。それでは、草刈りの途中なので。また改めて伺いますね」


 三人と別れを告げ、自宅に戻る。


 さて、もうひと刈りいきましょー!



 ◆ ◆ ◆



 シャワーを軽く浴びた後、パーティー用衣装に着替え、メイクも済ませて準備万端! 写真集もよし!


「じゃーアメリちゃん、行こうか」


「おお~!」


 アメリも画用紙をくるくると丸め、それを写真集ともども紙袋に入れる。


 そしてお隣に行きチャイムを鳴らすと、応対に出た久美さんと改めて挨拶を交わし、中に入れてもらう。


「こんにちはー」


 リビングに通されると、そこにいたのは優輝さんと由香里さんを除くいつものメンバー。


 皆さんも、口々にご挨拶を返してくる。やがて、料理担当のお二人がキッチンから顔を出し、準備完了を知らせて来たので、一同移動。白部さんと優輝さん以外は、テーブルに着席。


「それでは白部さん、ご挨拶をお願いします」


 優輝さんが促す。


「本日は、私の誕生祝いに素敵なパーティーを開いていただき、ありがとうございます。私も今日で二十八になります。その人生の中でも、今年は実に色んな出来事があった年でした」


 ノーラちゃんを見て、微笑む彼女。


「改めて、お祝いのほどありがとうございます!」


 深くお辞儀する。優輝さんがろうそくに点火し、それを吹き消す白部さん。火が消えると、一同から大きな拍手と「おめでとうございます!」という声が起こる。


 白部さんも着席し、ホストである優輝さんが切り分けていく。今日のケーキは、リンゴのミルフィーユだ。


「白部さん、リンゴお好きですからね。これしかないかなって思って」


 そうおっしゃるのは由香里さん。


 白部さんが主賓ということで、呑める組にはアップルサイダー、そうでない組にはリンゴジュースがすでに、グラスに注がれている。


「ふふ、リンゴ尽くしですね。ありがとうございます」


 嬉しそうに微笑み、ケーキを食む白部さん。「美味しいです」と、さらに笑顔が増す。


 やがてケーキも食べ終わり、優輝さんが本日のメインを出してくる。


「さすがにこちらはリンゴではないですけど」


 そう言いながら、温め直した白身魚とアサリの、おしゃれな料理を並べていく。


「これは何という料理でしょう?」


「アクアパッツァです。ナポリの料理だそうですよ」


 配膳も終わり、一同フォークをつける。あら、美味しい! この魚は真鯛かな、多分。


 「美味しいです!」と、白部さん、まりあさんともども絶賛。「ありがとうございます」と恐縮する優輝さん。


 ノーラちゃんも、うめーうめーといつもの調子で大絶賛!


 ほかの子供たちも、美味しい美味しいと食んでいる。本当に、優輝さんこういうの作るの上手よね。


 食事と談話を楽しみ、やがてそれもお開き。リビングでプレゼントを渡す段となりました。


「ウチからは、大体予想が付いてると思うけど」


 と口火を切ったのは久美さん。やはりというか、品はアップルサイダー。


「LIZE見たら意外と呑まないって書かれててさ、慌ててみんなで相談して酒まみれになるのを回避したよ」


 というわけで、続くかくてるの皆さんからは、小ぶりな猫の置物やアロマキャンドルなどが贈られる。


「後からLIZE拝見したのですけど、買ってしまった後だったので……恐縮です」


 ばつが悪そうに、アップルサイダーを差し出すまりあさん。


「いえいえ。ゆっくりですけど呑ませていただきますね」


 笑顔で受け取る白部さん。


「私からは、こちらを。猫の写真集です」


「あらー、ありがとうございます」


 これも笑顔で受け取ってもらえた。ほっ。


 ミケちゃんはマイソングのCD、クロちゃんとアメリは似顔絵を贈り、白部さんが「宝物にするね」と微笑む。良きかな良きかな


「本日は、本当にありがとうございました。誕生パーティーなんて子供のとき以来ですから、年甲斐もなく心が弾んでしまって。とてもいい思い出になりました」


 深々とお辞儀する白部さん。


 こうしてパーティーはお開きとなり、門前で再度別れの挨拶を交わし、それぞれの住まいへと戻っていきました。


 祝ったり、祝われたり。私たちって、素敵な関係だなあ。


 そんなささやかな幸せを、きゅっと噛みしめるのでした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート