神奈さんとアメリちゃん

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第二百八十九話 こういうときこそ楽しげに!

公開日時: 2021年7月13日(火) 21:01
更新日時: 2021年9月1日(水) 19:00
文字数:2,901

 台所で、ふう、と一息つく。賑やかなのもいいけれど、アメリと二人きりが落ち着くは落ち着く。


 炊飯の用意を整え、寝室へ戻る。


「アーメーリーちゃーん」


 そして、戻るなりハグからの頬ずり。


「おお? おねーちゃん、困ってる?」


 頭を撫でられ、よしよしされてしまう。


 うう、いけないなあ……。スキンシップのつもりだったのに、内心を見抜かれてる。賢い子だ。


 決意をしたのはいいけれど、白部さんの会議が不調に終わったらどうしようとか、いざ意見発表の場を得たとして、世間様に受け入れられるのだろうかなどと、後ろ向きな考えがどうしても頭から抜けてくれない。


 これじゃダメよね。愛する我が子を心配させてどうする、猫崎神奈!


「ぬん!」


 両手で自分の頬を、ぴしゃりと叩く。


「ごめん。お姉ちゃん弱気になってました。というわけで、ごはんが炊けるまで、アメリちゃんのやりたいことになんでも付き合っちゃうよ!」


「お外行きたい!」


「あー、ごめん。それ以外で!」


 合掌して頭を下げる。謝ってばっかりだね、私。


「んー……じゃあ、漢字読み書きできるようになったか見てー」


「はーい。それならお安いご用ですよー。じゃあ、テスト用紙作るね」


 PCとプリンターで、ささっと作成!


「ほいほい、お待たせさん~。じゃあ、いくよ~……開始!」


 こつこつ、すらすら。鉛筆が机を打ち、紙の上を滑る音だけが響く。


 うん、うん。すごい! 今のところ全問正解!


「はい、そこまでー」


「おお~! 頑張った!」


 さて、採点ですが……横でずっと見てたからね。あとは書くだけ。くるっ、くるっとマルを描いていく。


「はーい、結果発表! 文句なし、花マル百点満点でーす!」


「やったー!」


 バンザイするアメリちゃん。可愛い。今度は、下心なくハグ&頬ずりでスキンシップ。


「すごいねー、アメリちゃん」


 頭を撫でると、「えへへ~」と照れるお嬢様。ほんと可愛いなあ。


 せっかくなので、今度は小四向け漢字の一覧をプリントアウトしていると、スマホのアラームがごはんの炊きあがりを知らせてくれる。


「ん。ごはんが炊けましたよ。行きましょーか」


「はーい」


 二人仲良く、キッチンへ向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「さて、アメリシェフ。今日はサバの味噌煮とネギのいかだ・・・、わかめのお味噌汁を作りますよ」


「おお? いかだ? そめごろうイカ?」


「イカもそめごろうも関係ないのよね、これが。まあ、作ってみればわかるよ」


 アメリちゃん、いかだを知らなんだか。後で動画で見せてあげよう。


 では、明るくいつもの脳内BGMを流しましょう! こういうときこそ楽しげに!


「アメリシェフ。このおネギをいつもの斜め切りじゃなく、五センチ幅に垂直に切ってくれるかな? で、出来上がったら、この竹串にこう、お腹の部分を貫くように重ねて通してほしいんだ」


 横向きに揃えた指を、反対の人差し指で貫くような仕草を見せる。


「わかった!」


「じゃあ、私はサバさんを調理するね」


 サバ二切れの皮にバッテンの切れ目を軽く入れ、サバのフライパンに水二百ミリリットルにチューブ生姜、料理酒大さじ三杯、みりん大さじ二杯、お砂糖大さじ一杯、お醤油大匙半分を入れ、煮立たせる。煮立ったら、中火にに切り替えてサバを身を下にして投入!


 煮汁をかけながら、サバの色合いを見ていく。ん、色が変わりましたね。今です! 落し蓋をして、弱火で五分。タイマーをセット!


「アメリシェフ。そちらはいかがですか?」


「もうちょっとー」


 うい。じゃあ、ごはんでも切ってましょうかね。


「できた!」


「はーい、お疲れ様ー。ちょっと貸してねー」


 ネギ串、通称いかだが計四本できたので、塩を振る。あとは、サバ&お味噌汁とタイミングを合わせるべく放置。


「おねーちゃん、もっとやれることない?」


「じゃあ、お味噌汁をお願いしようかな。作り方わかる?」


「大体!」


「おっけーです。じゃあ、わかめは乾燥わかめ使ってね」


 おっと、タイマーが鳴りました。


 サバの落し蓋を取り、お味噌を大さじ二杯を溶く。再び落し蓋をして、弱火で十分じゅっぷん


 アメリのほうを見ると、煮立ったお鍋に乾燥わかめを入れている。


「あー、そこでストップ。結構増えるからね、それ」


「おお~。わかめすごい!」


 続いて、いかだを焼きましょうか。オーブントースターに入れ、タイマーをセット。焼き加減を見ながら微調整するため、やや短めに。


 アメリのほうを見ると、火を点けたままお味噌を溶こうとしてました。


「はい、ストーップ。お味噌入れるときはね、火を止めるの。グツグツ煮ちゃうと、お味噌の菌が死んじゃうのよ」


「おお? どゆこと」


「まあ、平たく言うと美味しくなくなっちゃうのね」


「おお~……気をつける……!」


 火を止めてお味噌を溶くアメリシェフ。ふう。まあ、これから慣れていけばいいからね。


 トースターがチン! と鳴ったので、様子を見る。ふむ、ひっくり返してもう一分ぐらいかな?


「おねーちゃん、味見してー」


「ほいほい。ん、もう少し濃いほうがいいかな? アメリはどう?」


「んー……たしかにそうかも」


 お味噌をちょい足しするお嬢様。


 さて、そろそろ全体的にフィニッシュですね。サバももうすぐ出来上がり。


 お茶の用意しとこうかな。


 急須にお湯を注いでいると、トースターがまたチン! と鳴りました。よーし、この焼き色は完成ですね。


 続いて、キッチンタイマーのほうも鳴ったので、落し蓋を取り、煮汁をサバにかける。


「おねーちゃん、もう一回味見してー」


「はいはーい」


 忙しいにゃあ。ん、いいお味です。


「バッチリです、アメリシェフ!」


「やったー!」


「じゃあ、お椀によそってもらえる?」


「はーい」


 私もサバを盛り付け、いかだを別のお皿に載せる。ごはんをよそい、お茶もれたら配膳~。


「よし、いつものいこう!」


 ハイタッチの構え。


「「いえーい!」」


 パチン! では、実食といきましょう。エプロンを外し、アメリの対面に座る。


「「いただきます!」」


 まずは、メインのサバ味噌。うーん、美味しい! 塩焼きもいいけど、やっぱりサバ味噌よねえ。サバの油っこさが、味噌と生姜の風味とよく合っている。


 続いて、いかだ。シンプルにして美味。たまには、こうやって素材の味を楽しむのもいいよね! ……なんて、通ぶってみたり。


 そして、お味噌汁。アメリシェフ謹製の品は、実にいいお味です。良きかな良きかな


 アメリも、美味しい美味しいと食べている。ほほえま。


「「ごちそうさまでした!」」


 仲良くフィニッシュ! お茶でさっぱりした後は、アメリに食洗機の使い方をレクチャーする。


 後片付けも終わり、歯を磨いて寝室へ。


 LIZEの様子を確認すると、真留さんから返信が来てました。


「騒ぎについては、私も把握しています。ただ、アメリちゃんのことはほかの編集部員にも内緒にしていますので、猫崎先生の話だとは思われていないようです。もし、マスコミが嗅ぎつけて強引に取材になど来たら、こちらに遠慮なく振ってください。迅速に対処しますので」


 おお、力強いお言葉!


「ありがとうございます。この先どうなるかわかりませんが、仕事に穴は開けないつもりです」


 と返信する。


 ふう。明日はどうなるのかな。私にできるのは、祈ることぐらいだ。自分ではどうにもできないことって、もどかしいね。

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