ぺたぺた、ぞろぞろと優輝さんについていくことしばし。おおう、BBQの設備がいっぱいですよ! ていうか、ビーチからずいぶん外れるのね。
肝心の彼女は、受付で何やら話しています。
「予約の確認が取れましたので、三人を待ちましょう」
設備を囲んでしばし雑談にふけっていると、優輝さんが手を振り振り。向こうを見ると、由香里さんたちがこっちにやって来るのが見える。
「これ、現地で買ったほうが楽じゃなかったか?」
クーラーボックスを二つ降ろし、久美さんが深く息を吐く。計三つ+炭と炉とは大荷物ですねえ。
「お疲れ様です。誰だっけ、うちから持ってこようって言い出したの」
四人が、それぞれ輪のように指差し合う。
「あっはっはっ。全員ギルティかー」
からからと笑う優輝さん。今はサングラスを畳んで胸元にかけており、素顔を晒してイケメン度がさらにアップしています。
「ま、時間と料金がもったいないんで、さくさくいっちゃいましょう。火はあたしが起こすんで、三人は具材のほうを」
「りょうかーい」といって、炊事施設に向かう残りのお三方。
「あの、私も何か手伝いましょうか?」
「あー、いえいえ。氷からビニール上げて、具材カットして串に刺すだけですからね。それには及びません。お子さんたちの相手をしてあげていてください。やはり、親に構ってもらえると安心しますから」
炭に火を点けながら、私たちを見上げる優輝さん。鮮やかな手並みだなー。さすが、キャンパー。
「あの、これ冷やしていただいてもいいですか?」
まりあさんが、レジ袋から缶を二つ取り出す……って!
「ビール!?」
近井さんご一家を除く、皆が驚愕。
「違いますよー。ノンアルのです~」
あ、ほんとだ。ノンアルコールって書いてある。みんな、ほっと一息。
「あの、皆さん何をそんなに驚かれたんでしょう?」
「あー、それは……あはは……」
親子さんに問われるも、まりあさんの名誉に関わることだからなあ。どうにも言いよどむ。
「わたし、めちゃくちゃお酒弱いんですよ。その上、酒癖も悪くて、ご迷惑かけてばかりで……。でも、こういう場で雰囲気だけでも味わいたいなあって、ノンアルの買ってきたんです」
自白する当人。一同、「なるほど」とノンアルの持参に納得。
「おまっとさーん。火は?」
「完璧です」
久美さんと優輝さんが、塩梅をやり取りする。
「じゃあ、焼いていきましょう」
おお、お肉だけではなく、エビ、イカ、ホタテなんかも! さすがかくてるの皆さん、海気分満載だ!
「すみません、ごちそうになってしまって」
「いえいえ。楽しくやれるのが一番ですから!」
朗らかに微笑む優輝さん。
うちからも持って行きたかったけど、クーラーボックスないのよねえ。今後に備えて、クーラーボックスぐらい買っといたほうがいいかな。
空いた氷入りのボックスには、代わりにまりあさんのノンアル飲料缶がイン。
「泳ぐ予定の人は、酒飲まんでね。ウチも、遠泳したいから今日はこいつ」
と、マスペを印籠のように掲げる久美さん。
「斎藤さんの仰るように、飲酒後に海に入らないでくださいね。危ないですから」
白部先生も、禁忌を念押し。
「あたしは、ビールいただきましょうかね」
プシュ、とビール缶を開ける優輝さん。
「お前、海来て、入らないで帰るのかよ!?」
これには、久美さんもびっくり。
「入るは入りますよ~。あれやりたいんですよ。やったな、こいつぅ~、ばしゃばしゃっての」
ベタベタなシチュエーションを語りながら、カラカラ笑う優輝さんに、やれやれと首を振り肩をすくめる久美さん。
「というわけで、相方募集です。早いもの勝ちで」
一同周りを見回すも、どうしようという感じ。ここはひとつ、と思い切って挙手!
「お、神奈さん! さすが!」
何がさすがなのか、わからないけど。
「いやー、漫画家としては、一回やってみたかったんですよね、それ」
なるほど、なるほどと。頷く提案者。
「姉さん、自分らもどっすか?」
「そういう、恥ずかしいのはパス。ていうか、泳ぎてえ」
「つれないっすねー」
おやおや、凸凹コンビは成立せず。
「じゃ、わたしとやる?」
「お。さすが由香里ちゃん! 気配り名人っすねー! じゃあ、頼むっす!」
代わりに、由香里さんとペア成立したようです。
「それはそれとして、焼けましたよー。食べましょう!」
というわけで、由香里さんが希望者に望む食品の串を渡してくれます。
「私、ホタテいいですか?」
「はい、どうぞ~」
ぱくっとな。うーん、美味しい! 海で海産物BBQってのもオツねえ。アメリも、ホタテにしたようです。
「美味しいね!」
「うん!」
キラキラお陽様笑顔のアメリちゃんに、笑顔で返す。
ミケちゃんは、当然のようにエビ三昧。ほんと好きなのね、エビ。
クロちゃんは、いわゆるポッポ焼き状態のイカをいただいてます。
ノーラちゃんは、ガッツリ肉!
ともちゃんも、ホタテ組。
いやー、五者五葉だなあ。
「そろそろ冷えたでしょうか?」
まりあさんが、飲料の具合を気にする。
「……大丈夫だと思いますよ。どうぞ」
冷え具合を確認した優輝さんが、缶を手渡す。
「ああ……憧れていたシチュエーション……。いただきます」
プシュ、という景気のいい音に続き、まりあさんがぐいっといく。今まで、アルコールではトラブル続きでしたからねえ。さぞ嬉しいことでしょう。
「うふふ、美味しいです~」
すごく上機嫌な彼女。……なんだろう、この妙な胸騒ぎは。
「もう一本いきますね~」
早くも二本目! 何かがおかしいと、本能が告げる!
「あの、まりあさん。まさか、酔ってないですよね?」
「酔ってないですよぉー。やだなー。うふふふふふ」
絶対酔ってるゥ~!! まさか、ノンアルで酔う人がいるなんて……。
一同、困り果てて顔を見合わせる。近井さんたちは、ハッピーまりあさん初体験。
「ノンアルも、わずかーにアルコール入ってるからなー。しかし、この量でねえ……」
空き缶を手に取り、ため息をつく久美さん。
演歌を歌いながら、ノリノリでダンスを始めたまりあさんを、とりあえず席に座らせる。近井家の皆さん、ご愁傷様です……。
とりあえず演歌をBGMに、気を取り直してBBQを再開する我々でした。やれやれ。
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