神奈さんとアメリちゃん

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第五百話 二人の距離感

公開日時: 2022年2月18日(金) 21:01
文字数:2,068

 木曜、十九日。押江先生の授業、再開です。ミケちゃん、クロちゃんも、うちで自習中。


「素朴な疑問なんだけど……お隣のミケちゃんはともかく、クロちゃん、自習のためにこっち来るの大変じゃない? アメリに会いに来てくれて、私も嬉しいけれど」


 お茶菓子を配膳しながら、彼女に問いかける。ちなみに、お茶請けは一昨日いただいたどら焼きです。


「ボクも、アメリと一緒だと嬉しいので……」


 うつむいて、照れるクロちゃん。あらあら。


「私が、アメリ離れできればねえ……」


 頬に人差し指を当て、考え込む。この子たちに、来てもらってばかりというのも、やっぱり良くないよね。


 よし、決めた!


「ミケちゃん、クロちゃん。明日は、アメリをお隣に行かせようと思うんだけど」


「え、いいの!?」


「いいんですか!?」


 むしろこの提案には、二人がびっくり! 二人とも、私の溺愛ぶりと、アメリロスの不調は知ってるからね。


「アメリはどうかな?」


 肝心の本人にも、問うてみる。


「おお? おねーちゃんは?」


「家でお仕事」


「おお~……」


 考え込んでしまうアメリちゃん。


「私は大丈夫だから、ね?」


「うん、わかった。そうする……」


 ううん、元気ないなあ。私は大丈夫よ。きっと、多分、おそらく。


「ええと、猫崎さん。そろそろ、授業を再開してもよろしいでしょうか?」


「ああ、すみません。それじゃ、私はお仕事に戻るからね」


 愛する娘にそう言い、デスクで筆を執る。私も、お仕事ガンバロー!



 ◆ ◆ ◆



「アメリさん? 聞いていますか?」


「おお!? ごめんなさい! ええと、何の話だっけ……」


 むむ? なんだろう?


「あの、先生。アメリがなにか、粗相でもしましたか?」


 心配になって、尋ねてみる。


「いえ、そういった類の話では。ただ、さっきの休憩以来、まったく集中力を欠いてしまいまして」


 ええ~? あのアメリが!?


「アメリ、大丈夫?」


 折りたたみ机に、私もつく。


「おお……。えっとね……う~ん……」


 むーん? どうしちゃったのかしら。こんなに歯切れが悪いのも、珍しい。


 しばし考えこむ、私と先生。ミケちゃん、クロちゃんも、心配そうに見ています。


「アメリさん。もしかして、猫崎さんと離れるのが不安ですか?」


 先生が問うと、娘がびくっと体を震わせる。


「ビンゴですね。菅里すがさと先生から、事情は伺っていましたが」


「と、おっしゃいますと?」


 私も不安になって、尋ねる。


「私は、猫耳人間については詳しくないのですが、アメリさんは、生まれ変わって一年も経ってないのですよね?」


「はい。そうです」


「アメリさん、利発ですから失念しがちですけど、一歳にも満たない子が親元を離れるというのは、不安なものではないでしょうか?」


 ! 背中を雷で撃たれる思い!


「そうなの、アメリ?」


 おずおずと、うなずく我が子。


「おねーちゃんが心配すると思って、言えなかった……」


 ばつが悪そうに、うつむいて、人差し指を突き合わせている。


「ごめんね。お姉ちゃん、自分の焦りを押し付けちゃった」


 私も、しゅんとなってうつむく。


「あの、神奈お姉さん。ボクはこっちに通うの平気ですから、アメリを安心させてあげてくれませんか?」


「うん、ミケもこっち来るの別に大変じゃないし」


「ありがとう、二人とも」


 こんな小さい子たちに、気を使わせてしまった。いけないなあ。


「猫崎さん。子供の成長ペースはそれぞれです。互いに、無理をしなくてもよいのではないでしょうか」


 まいったな。白部さんやお母さんに言われたのと、同じことを言われてしまった。私、まるで成長していない……。


「すみません。私、本当に未熟ですね」


「いえいえ。子供と一緒に成長すればいいんです。私も授業を通して、子供たちから、いろんなことを学んでいますから」


 微笑む先生。なんだか、救われたような気持ちになる。


「アメリ、ごめんね。私、ちゃんとそばにいるからね。先生も、お手数かけてすみませんでした。ミケちゃんとクロちゃんも、ありがとう」


 四人に対して、頭を下げる。


「おお~……。アメリこそごめんね。もっとちゃんとしないと……」


「はいはい。アメリさんもそこまで。猫崎さんも、そう、かしこまらないでください」


「すみませ……あ」


 また謝りそうになって、はっと口をふさぐ。


「互いに愛し合っているのは良いことです。では、話もまとまったところで、続きをしましょうか」


「うん!」


 良かった。アメリが元気を取り戻した。


 愛娘に微笑むと、彼女も微笑みを返してくる。良きかな良きかな


「じゃあ、私は仕事に戻るね」


 お仕事再開。私も、日々これ勉強だなあ。



 ◆ ◆ ◆



「それでは、また来週」


「またねー!」


「はい。また来週もお願いします。ミケちゃんも、またね」


「ばいばーい!」


 先に帰宅したクロちゃんに続き、ミケちゃん、先生もお帰りの時間。二人と、別れのご挨拶をします。


 そして、寝室に戻り!


「アメリちゃん、スキンシップしようか」


「うん!」


 ぎゅーっとハグ。そして、ベッドで膝枕。愛娘の髪を、優しく撫でる。ほんとに、すべすべでいい触り心地。


「えへへ……。おねーちゃん、だーい好き!」


「私もだよ」


 互いに微笑む。


 今の私たちの距離感は、これでいい。改めて、そう実感するのでした。

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