「神奈さん、付き合ってください!」
深々とお辞儀する優輝さん。そんな彼女に微笑みかける、ほかのかくてるの皆さんや、まりあさん、白部さん、親子さん。そして子供たち。
ど……どうしましょ。いえね、彼女イケメンだし、すごくいい人だし、私、女同士とか特に抵抗ないしで、あんまり断る理由もないのだけど。
でも、これはちょっと、唐突すぎるといいますか。
「おねーちゃん! アメリも優輝おねーちゃんに、本当のおねーちゃんになってほしーな!」
笑顔で一足飛びに、ゴールインを提示するアメリちゃん。
「そしたら、ミケはアメリと本当の姉妹になるのね!」
ミケちゃんも嬉しそう。
「神奈さん、あたし本気なんです」
彼女が顔を近づけてくると、心拍数がハネ上がる。
やー……。これは困った。
でも、こうして誠実に交際を申し込まれた以上、こちらも誠実に返さないと。
「優輝さん。私の返事は――」
◆ ◆ ◆
(ぴぴぴぴぴ……)
ん……? アラームが鳴ってる……。
どうも、変な夢を見たらしい。思い返して、顔が熱くなってしまう。
夢を覚えているというのは、よく眠れなかった証拠だと言うけれど、うちのお姫様の腕が、顔の上に乗っていました。アメリが変な寝相とは、珍しい。
しかし、変てこな夢のせいか、朝の寝ぼけた感覚がないのは、いいことなのか、悪いことなのか。
「うにゅ……。おねーちゃん、おはよ……」
愛娘もお目覚め。
珍しくしゃっきりしてることだし、今日は私が、ちょっと凝った朝ごはん作りましょーっと。
◆ ◆ ◆
「ただいまー!」
おうおう、帰ってきましたよ、愛しのお姫様が!
「おっかえりー!」
さっそく、愛のハグ。
「学校、どうだった?」
「面白かった! ミケ、お歌ほんと上手!」
「そっかー。今日は音楽の授業があったんだねえ。積もる話をしたいところだけど、お隣に行かなきゃだね。用意しましょ」
「はーい! 着替えてくるねー!」
着替えを持って、とたとたと脱衣所に向かう娘。
寝室で着替えればいいのにと思うけど、どうせ洗い物出るもんね。
そいじゃ、私もズボラなスウェットから着替えますかー。
◆ ◆ ◆
今日は、かくてるハウスでお茶会。到着すると、いつものメンバーが集っていました。
「どうぞ。今日は、クグロフを焼いてみたんです」
由香里さんの給仕で、波打った、背の高いドーナツのようなお菓子が出てくる。彼女とまりあさんのぶんと、子供たちのぶんだけ、シュガーパウダーがかけられているね。何だろ?
続いて、ティーポットからお茶を注いでいく由香里さん。
彼女の作ということで、実に期待が高まりますねえ!
由香里さんの音頭取りで、いただきますの合唱をし、フォークで切って、口に運ぶ。
あら、お酒の香りがいい風味! ラム酒ね、これ。ああ、ということは、シュガーパウダーは「ラム酒抜きで作りました」って印かな。
「いかがでしょう?」
パティシエールが塩梅を尋ねてくるので、満場一致で「美味しいです!」の合唱。
「ありがとうございます。上手くできたみたいですね」
微笑む彼女。
「ところで神奈さん」
「はい、何でしょう?」
妙に神妙な顔つきで話しかけてくる優輝さん。
今朝の変な夢のせいで、なんだか緊張してしまう。
「その……付き合っていただけませんか?」
!?
え、えええええ!?
まさかの正夢!?
なんか、皆さん微笑んでらっしゃるし。デジャ・ヴュ!
「ええと、お気持ちは嬉しいのですけど、その、レンアイ的にお付き合いとなると、なんというか、返答に困ってしまって、どうお答えしたものか……」
しどろもどろで、わたわたする。
すると優輝さん、ぷっと吹き出すじゃない!
「失礼しました。まさか、そっちに受け取られるとは。いえね、子供たちも明日から冬休みでしょう。ですから、近々みんなでロッジで二泊三日ぐらいキャンプしましょうか、なんてお話してたんですよ」
朗らかに笑みながら、説明する彼女。思わず、脱力。
「いや~。神奈さん、まんざらじゃない感じだったっすねえ~」
口元に手を当て、ニヤニヤするさつきさん。うあ~! 穴があったら入りたい!!
「あ、あのですね! 思わず珍対応してしまったのには、理由があってですね……!」
今朝の変な夢を、みんなに話して聞かせる。
「そりゃまた、キグウっすねえ。でも、そーゆー夢見るってことは、神奈さん、優輝ちゃんのコト、アリアリのアリってことっすかね~?」
あう~。さつきさんが悪ノリしてくるよお~!
「あたしは、神奈さんとそういう意味でのお付き合い、割とアリですよ」
冗談か本気か、嬉しそうに紅茶を飲みながら、そう仰る当人。
「もーう、優輝さんまで~」
私の本当の気持ちは、どうなんだろ。いつぞや海でドキッとしてしまったし、今もこうして、ちょっと変な感じだけど。
……今は、整理が付かないや。
「とりあえず、用意するものを教えていただければ、キャンプはお付き合いさせていただきます。いいよね、アメリ?」
「うん! 楽しみ!」
「で、別の意味のお付き合いのほうは?」
もーう、蒸し返さないで、さつきさーん!
「ひとまず、ノーコメントでお願いします」
「りょーかいです! でも、その気になったら、あたしはオッケーですよ!」
サムズアップして、からからと笑う優輝さん。敵わないなあ……。
なんだか変な空気の中、お茶会は進み、お開きとなりました。
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