神奈さんとアメリちゃん

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第三百三十三話 神奈の不安

公開日時: 2021年8月27日(金) 21:01
文字数:2,164

「アメリちゃん。ちょっとおねーちゃんのお電話が終わるまで、イヤホン付けてテレビ見るか、ゲームやっててもらえるかな?」


「おお? なんで?」


 寝室に戻り、テレビに繋いだイヤホンを手渡すと、不思議そうにくりくりとした瞳で見つめられる。


「おねーちゃんにも、ナイショ話したいときがあるのです」


「うーん、わかったー」


 よくわかんないけど、といった様子なものの、応じて適当にテレビを見始めてくれました。


 さて、お仕事を進めつつ、白部さんにコールだ。


「こんばんはー。どうされました?」


「こんばんは。今ちょっと、お時間よろしいでしょうか?」


「はい、構いませんけど」


 OKをもらったところで、アメリの旺盛すぎる自立心と、その速度に対して感じた漠然とした不安を述べる。


「なるほど、アメリちゃんが無理してるのではないかと」


「はい。私も仕事しながらの育児ですから、アメリをきちんと甘えさせてあげられてないのかなあとか、それで自立を急がせてしまっているのかなあとか、色々不安になりまして……」


 ふむ、と考え込んでしまう彼女。


「まず、専門家としての意見を。私もノーラちゃんが今の状態になってから、その成長の速さに驚かされることが多いです。百聞は一見にしかずというのを、日々体験しています。こないだも、包丁の使い方を覚えたいと言ってきたり」


 あ。こないだの、包丁使えないからお手伝いさせられなかったときかな?


「猫耳人間も、サンプル数が豊富というわけでもないので個性に依る部分が大きいとは思うのですけど、たしかに、背伸び・・・と受け取れるような行動を見せる子は、実際多いです」


 私の知る、四人の猫耳幼女たちが頭をよぎる。たしかに、ミケちゃんなんか背伸びしたがり筆頭だ。


「でも、猫って好奇心旺盛じゃないですか。猫のそういうところを受け継いでる気がするんですよね。実際、そのアプローチで研究されている方もいらっしゃいます」


「そうなんですか……。では、アメリについては、とくに無理してるとかそういうことはないんでしょうか?」


「うーん、ここからが研究者としてではなく、一児の親としての私見になるのですけど、それを一番わかってあげられるのは、ほかならぬ猫崎さんご自身だと思うんですよ。一番身近にいて、毎日接しているのですから」


 む。たしかに、そう言われると返す言葉がない……。


「なんていうか、子供は……いえ、子供に限らないですね。無理してたら、絶対サインを出してくれます。それがどんな形で現れるかというのは断言できないのですけど、どうかそれは、見逃さないようにしてあげてください」


 難しいことを言われてしまった。


「そうですね……ざっくりでいいので、具体例みたいのってありますか?」


「……まず、人それぞれ現れ方が違うというのを念頭においてくださいね。例えば寝付きが悪くなったり、やたらトイレが近くなったり、貧乏ゆすりが目立つようになったり、机の上のものをやたら動かすようになったり……。本当に、現れ方が様々なんです」


 はあ~……とため息が出る。


「大雑把な私に、そんな細かい変化を気づいてあげられるでしょうか……」


「突き放すようで恐縮ですけど、そこは猫崎さんの頑張り・気配り次第ですね。ただ、これだけは言えます。とにかく気になることがあったら、いつでも私たち研究者や、宇多野さんや角照さんといった、同じ立場にあるご友人。何より、お父様やお母様を頼ってください。もちろん、私も研究者と友人両方としての協力を惜しみません」


 ありがたいお言葉だ。


「そうですね。育児で大事なのは、一人で悩まないことと何かで聞きました。何かあれば、頼らせていただきます」


「はい。何もないに越したことはないですが、その際はぜひ。では、ノーラちゃんに呼ばれてるので、これで失礼しますね」


 通話終了。やはり、とても頼りになるお方だ。話して、少し気持ちが楽になった気がする。


「アメリちゃん、アメリちゃん」


 テレビを視聴しているアメリに近づき、肩を叩く。


「おお? 何?」


 イヤホンを外し、きょとんと見つめてくる彼女。


「内緒話、終わったよ。イヤホン外していいからね」


「はーい」


「アメリちゃん。どんなの見てるのかな?」


 デスクに戻りながら、問いかける。


「えっとねー、『世界の秘境』とかいうの! すごい深い洞窟があるんだね!」


「そうなんだー」


 そういえば、最近アメリが寝る前に絵本読み聞かせてないな。もう、そういうのは卒業しちゃったのだろうか?


「ねえ、アメリ。今夜寝る前に、絵本の読み聞かせしていい?」


「おお? なんか久しぶりー。読んで、読んでー!」


 まだ幼さが残っていることに、心の底からほっとする。もしかすると、私はアメリが甘えてくれなくなるのが、怖かったのかもしれない。


 そうであるならば、逆に自立しなければいけないのは私のほうだ。


 この距離感がいつまで続くだろうか。私が親離れしたときは、どんなだったかな。あとで、お父さんとお母さんに、私の親離れのときの記憶や所感を訊いてみよう。


 ともかく、先の心配よりは今の心配! 今の私の最優先事項は、読者の皆さまや真留さんにご迷惑を掛けないため、原稿をきっちり仕上げること!


 それが引いては、私やアメリの生活の充実にも繋がる。


 仕事も育児も、頑張ろう! レッツゴー、神奈! ガンバレ神奈! 行け行け神奈ー!! 明るい明日の、そのために!!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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