もみもみ。
(ん……)
もみもみもみもみ。
お腹をもみもみされる感触で、ぼんやりと目を覚ます。
「うおっ!」
目の前には、猫耳幼女。一瞬驚いてしまったけど、そういえばアメリは、この姿になったんだった。
「おはよーアメリー」
「ご主人様ーごはんー」
もみもみアタックは猫特有のムーブのひとつで、「ごはんちょーだい」のサイン。猫飼いの朝ではおなじみの攻撃だったりする。ちなみに、仔猫が母猫の母乳分泌を促す行為の、名残なのだとか。
「んー……顔洗うから、ちょっと待っててー」
まったく自慢ではないけど、私は寝起きが悪い。起きてから楽に一時間弱は、頭のしゃっきりしない状態が続く。ぼーっとした状態で洗面所に向かい、洗顔料を使って顔を洗う。あとをついてきたアメリが、興味深そうに私の映っている鏡を見ている。
「あっ」
洗顔後、続いてアメリのご飯を用意したはいいけれど、つい今までの癖で、餌皿の方にキャットフードを入れてしまった。改めて、人間用のお皿に移し直す。
「じゃあ、今度は自分でスプーン使って、ご飯食べてみようか」
着席した彼女にスプーンを手渡す。持ち方を教えるものの、幼児独特の鷲掴みになってしまった。
「まあ、最初はそれでいいや。少しずつ慣れていこう。食べてみて」
ふわあ、と大あくび。ほんと朝はニガテ。こんな私でも、昨日変わり果てたアメリを見たときは、一発で覚醒したけれど。こんなだらしない日常が帰ってきたのは、本当にありがたいことです。
アメリがたどたどしい手付きで、キャットフードを口に運び頬張る。うん、大丈夫そうだね。
続いて、自分用の食事の用意。何ぶん朝はこの有様だから、たいていトーストと牛乳で雑に済ませることが多い。
「ご主人様って色んなもの食べるよねー」
アメリが興味津々で言葉をこぼす。ああ、こういう好奇心の強いところ、全然変わってないなあ。
「人間は逆に、食べるものちょくちょく変えないとダメなのよ」
しかし、孤独な一人暮らしで、話し相手ができるなんてねえ。まあ、猫時代からこの子には、色々一方的に話しかけてたんだけどね。
アメリはスプーンでの食事が慣れないのか、食べるスピードが遅い。後から食事を始めた私のほうが先に食べ終わってしまったので、頬杖をついて食事光景を眺める。猫と子供が合わさり、最強に可愛く見える。
そういえば、昨日あれから猫耳人間についてネットで調べてみたけれど、やはりというか、ろくな情報は得られなかった。
少しずつ頭がしゃっきりしてきたので、これからのことを考える。まず、この大きさになってしまったら家の中に閉じ込めっぱなしというのも可哀想。私だって外出ぐらいするから、目の届く範囲にいてくれたほうがありがたい。
それに、シミーズの着たきりスズメというのもあんまりだし。まずは、アメリのために服を買おう。そうしよう。
アメリも食事を終えたので、食洗機にお皿を入れて歯磨き後 (アメリも歯磨きさせた)、裁縫箱からメジャーを取り出し、彼女に適切なサイズを測る。続いて、一緒に仕事用デスクに向かう。
PCを起動すると、児童服の販売サイトを検索してアクセス。本当は実物を試着させて買うほうがいいのだけど、猫耳丸出しシミーズ姿の幼女を連れ歩いて買い物するわけにもいかない。
「この中で、気に入った服があったら言って」
席を交代し、マウスをいじりながら、サイズの合う服を見せていく。ただし、衣服はどれも丈の長いスカートタイプのものだ。猫耳人間だと知れたら大騒ぎになってしまうので、なるべくしっぽが隠せるものがいい。
「これ! ……これもー!」
いくつか候補を絞ってもらい、外着と部屋着と下着を五着ずつほどポチる。
続いて、子供用サンダルもポチ。スニーカーなり買ってあげたいところだけど、私は足のサイズの測り方がわからないので、まずは近所の靴屋に行くための履物を確保。サンダルなら、そうサイズ違いで困ることもないと思う。幸い、まだ外も暑い。
続いてもう一つ、大事な買い物がある。
「この中だったら、どれがいい?」
アメリに、大きめの子供用キャスケットを見せる。何しろ、猫耳は一番隠さなくてはいけない部分だ。あと、大きめのものならアメショ独特の模様をした目立つ髪も、多少ごまかしが効くでしょう。
そういえば、アメリの人間耳はどうなっているのだろう。
「ちょっとごめんねー」
横髪をめくってみると、見事に人間型の耳がない。おお、ワンダホー。
アメリはしばらく悩んだ末に、白いキャスケットを選びました。
さて、だいたい買い物終了かな。あ、そうだ。アメリも今後一人で洗面所とか使うよね。踏み台も買っておかないと。ついでに子供用の歯ブラシと歯磨き粉も注文しよう。別の通販サイトでそれぞれポチ。
よし、これで今度こそOKかな。
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