「久しぶりー。そっちはどーう? うん、うん。そうなんだ。相変わらず元気そうで良かった。うん、こっちも元気でやってるよー。仕事も順調! このペースなら今年は二十九日には帰れると思う。でね、ぜひ会ってもらいたい人がいるんだ! え? 男の人じゃないよー。孫の顔、見せられなくてごめんねー。でも、お母さんもよく知ってる人だよ」
お母さんと通話なう。帰郷の予定について、打ち合わせ中です。そして、通話しながらもすらすら執筆できる、私の特殊能力ともいえるマルチタスク。
「今回も新幹線だから、駅まで迎えに来てもらえる? うん、ありがとう。じゃあ、積もる話は向こうでね。また、四日まで滞在するつもりだから」
通話終了。お母さんもお父さんも息災なようでよかった。まあ、なにかあったら連絡来るものね。
「おねーちゃん、誰と話してたの?」
「んー? お母さん。二十九日からアメリも一緒に懐かしの福井へ帰るんだよー。アメリ、向こうのことどのぐらい覚えてる?」
アメリが背後から声をかけてきたので、くるりと椅子ごと振り返り尋ねる。
「おお~……? あんまり覚えてないー」
「そっかー。猫にとっては、七年なんて大昔だものねえ」
腕組みし、しみじみと頷く。スマホを手繰り寄せ時刻を確認すると、もうすぐ五時半。さつきさんの誕生パーティーが六時からだから、そろそろ準備を始めたほうがいいね。
それじゃあ、アメリと一緒に最大限のおめかしをしましょうか!
◆ ◆ ◆
「はーい。お、神奈さんようこそ~! 今開けるっすね!」
呼び鈴を押すと、門前のカメラで私たちの姿を確認したさつきさんが門のロックを外してくれる。
「こんばんは~。おじゃましまーす」
「こんばんはー!」
アメリと一緒にそのまま上がると、「来てもらえて嬉しいっす!!」と、さつきさんに順番にハグされてしまった。照れくさい。
「こんばんは。一足先にお邪魔しています」
ソファから立ち上がり、ぺこりとお辞儀する白部さん。ノーラちゃんも、それに倣う。
「まりあさんと、ほかの皆さんはどちらに?」
「まりあさんは、由香里ちゃんが迎えに行ってるっす。姉さんと優輝ちゃんは、台所で作業中っす。自分も何かしようかって申し出たんすけど、祝われる側だからくつろいでていいって言われて。白部さんたちとおしゃべりしてたっす」
お。噂とすればなんとやら。玄関のほうから、「お邪魔しまーす」という、聞き慣れたまりあさんの透き通った声が聞こえてくる。
「みなさん、こんばんは」
リビングに通されたまりあさんが、ご挨拶してくるので、皆で挨拶を返す。クロちゃんも「こんばんは」と続き、ぺこりとお辞儀するので、これまたみんなで挨拶返し。
フルメンバーになったところで、リビングで談笑。
「さつきー、こっち終わったぞー。みなさん、こんばんはー」
久美さんが、ダイニングからひょっこり顔を出す。これまた、ゲスト勢でごご挨拶返し。
「お。どうもっす、姉さん。じゃあ、行きましょっか」
というわけで、ぞろぞろとダイニングキッチンへ移動。
「あーどうも、みなさんこんばんは!」
優輝さんが気さくに挨拶してくるので、またもやご挨拶。
「うはー、美味しそうなケーキっすねえ。由香里ちゃんが作ったんすよね?」
「そうだよー。さっちゃんのために、心を込めて作りました!」
ピンク色のいちごケーキの上に、二十五本のろうそくと、「Happy birthday Satsuki!」という文字がチョコペンで書かれたホワイトチョコの板が立っている。相変わらず、見事な出来栄え。味のほうも、今までのお点前で間違いなく折り紙付き!
飲み物として、大人勢には久美さのん秘蔵らしいシャンパン、子供と下戸勢には発泡ぶどうジュースが配られる。
「このあと、あたしのオードブルも出すんでお楽しみに! 久美さんにかなり手伝ってもらいました」
「うーん、姉さんとの愛の共同作業、優輝ちゃんに取られちゃったっす」
「何を言ってるんだ、お前は」
優輝さんがサムズアップ&ウィンクし、さつき久美コンビが漫才を始める。相変わらず、楽しい方たちだこと。
「ささ、着席しましょう。じゃあさつき、みなさんにご挨拶を」
ろうそくに点火した優輝さんの勧めで、さつきさんを除き一同着席。
「えー、今日は自分のためにこうして集まっていただいて、ほんと嬉しいっす! これで、二日間だけ姉さんと同い年っすよ! というわけで、よろしくっす久美ちゃん!」
「チョーシに乗んな」
久美さんから腰にチョップをもらい、「あた!」と大げさに痛がるさつきさん。でも笑顔だから、久美さんが全然力を入れてないことがわかる。一同から、恒例のどつき漫才に対し微笑ましい笑いが起きた。
「じゃあ、行かせてもらうっす!」
ふーっと勢いよく吹き消すさつきさん。すべて消えると、皆から「ハッピーバースデー、さつきさん!」と拍手が起こる。ただし、二人称は割とばらばら。照れくさそうに、自分の後頭部を撫でる彼女。
さつきさんがケーキを切り分け、皆に配っていく。そして、最後に自分のぶんを取り着席。
「では、乾杯っすー!」
めいめいグラスを掲げ、隣の人と打ち鳴らし合う。
まずは、ケーキをひと口いただきましょ。うーん、美味しい! あっま~い! それでいて、苺の酸味が爽やか!
ここでシャンパンをくいっと。うーん、上品でフルーティ。口で弾ける刺激、爽やかなのどごし! さすが、久美さん秘蔵の逸品!
ケーキとシャンパンを交互に口に運ぶ。ああ、ここは天国かしら……。
「おねーちゃん、ケーキ美味しい!」
アメリも、キラキラした瞳を向けてくる。良き哉良き哉。
「さて、頃合いですかね。オードブルいきまーす」
優輝さんがレンチンして、フライドチキンやフライドポテト、オニオンリングなどの載った大皿を置き、取り皿を皆に配る。
「ありがとうございます」
では、さっそくいただきましょう! まずはチキン……んー、カラッとして、それでいてジューシィ! さすが優輝さん!
「いやー。こんな素敵な誕生パーティー、一生の思い出に残るっすね……」
眼鏡を持ち上げ、ハンカチで目元を拭う彼女。
「ガラじゃねーぞ」
と言う久美さんの表情は、言葉に反してとても優しい。
「ふふ、そっすね。明るくにぎやか、これモットーっす!」
メガネを掛け戻し、満面の笑みを浮かべる。
私のパーティーもそうだったけど、本当に素晴らしいな。なんて素敵な人たちだろう。
◆ ◆ ◆
パーティーも終わり、リビングでプレゼントを渡すことになった。皆さんから、様々な贈り物を受け取る彼女。
私の番の前に、アメリが絵を渡す。
「これ自分っすか? ありがとっす、嬉しいっすよ!」
さつきさんが頭を撫でると、「うにゅう」というおなじみの気抜け声を上げるアメリ。
「私からはこちらを」
包装された、ピュアリリーちゃんの入った箱を渡す。
「リリーちゃんっすよね? ありがとうございますっす! 大、大、大感謝っす!」
さつきさんに思いっきりハグされてしまった。うにゅう、照れくさい……。
そして、全員のプレゼントを受け取り終わると、「自分、今日という日を一生忘れないっす! ありがとうございましたっす!!」と深々と頭を下げる。そんなさつきさんに、皆から改めて祝辞が贈られる。
こうして、和やかで温かな空気の中、誕生会は終わりました。
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