アメリの予防接種の抗体も出来ており、松戸医院で来週別の予防接種をしましょうという話になりました。
道中の「ウェイラン」で雑多な買い物を済ませ帰宅すると、「今週の金曜一時から、渋谷のスタジオで収録予定です」と、スタジオ名とともに優輝さんからのメッセージ。
そしてカレンダーは進んでいき、現地集合のためドライブと相成りました。まりあさんたちは、私が拾っていくことに。
「声優さんの生収録とか、なんだかこっちが緊張しちゃいますねー」
「そうですね。わたしもテレビの特番でちょっと見たことがあるぐらいですから、興味深いです」
後部座席のまりあさんとお話なう。
「おお~! せいゆーってなーに?」
「んー? アメリ、スポンジ・トム好きでしょ? ああいうのに、声を入れる人だよー」
「おお? スポンジ・トムがしゃべってるんじゃないの?」
どうも、キャラクターが直接しゃべってると思いこんでいるアメリ。
「うーん、まあ実際見てみたらわかると思うよ」
「おおー! 楽しみ!」
良き哉良き哉。
「そういえば、クロちゃんはアニメとか見るの?」
「はい。ノラえもんとか、アサリさんとか、そういうのを見てます」
ほほー、いわゆる国民的アニメね。
「クロちゃんは声優ってわかる?」
「とりあえずは……」
ほむほむ。クロちゃんには説明不要かな。
こんな会話を繰り広げながら、目的地のビルに到着!
「今着きました」とメッセージを送ると、優輝さんから「二階の第二スタジオに来て下さい」とお返事が。
エレベーターで上がり、少し道に迷いながらも到着! そっと分厚い防音扉を開けると、優輝さんと由香里さん、そして見知らぬ女性が四人、さらに見知らぬ男性が一人いた。久美さん、さつきさん、ミケちゃんがいないな。まあ、後で訊いてみよう。
「こんにちはー。今、大丈夫ですか?」
「あ、どうぞどうぞ。こちら、女性は声優さんたち、男性は収録スタッフの方です」
優輝さんが、ざっくり説明してくれる。
「はじめまして、猫崎神奈と申します。今日は、収録にご同席させていただくことになりました。よろしくお願いします」
「はじめまして! ひょっとして、『あめりにっき』の猫崎先生ですか!? 私、ファンなんです!」
声優さんのお一人が、私の名前に反応する。
「あ、はい。たしかに私です」
すると、握手を求められてしまった。照れくさい。優輝さんも、私について語りたそうにうずうずしてるけど、我慢している模様。
ともかくも、全員挨拶を交わし終わり、「では、始めましょう」と、収録開始。声優さんたちはガラススクリーンの向こうに入っていき、男性スタッフが機材の操作を始める。
「じゃあ、アメリちゃん、クロちゃん。ここから先は静かにね」
優輝さんが唇の前で人差し指を立て、二人に小声で言い聞かせると、「おお~……」「わかりました」と、二人も小声で了承する。
そして、スクリーンに映されたゲーム画面と台本を見ながら、声優さんが演技していく。
「私、あなたがとても他人とは思えないの」
声優さんが、落ち着いた声でセリフに命を吹き込む。画面に晴美って書いてあって同じセリフを言ってるから、彼女がいつぞや久美さんが言ってたあのキャラかな。
「すみません」
優輝さんが、挙手して声を上げる。
「晴美なんですけど、もう一……いや、二歳年齢上げてもらえますか?」
えっ!? 何そのファジーな指示!? でも、声優さんは「わかりました」と承諾。そして、同じセリフを言うんだけど……うわっ! ほんとに声の感じが二歳上がってる! すごい!
さらに、光莉……漫画家の女の子役の声優さんが、キスシーンで自分の手の甲にキスしてちゅぱっという音を立てる。へー、こうやってキス音出すんだ……。
その後も収録は進んでいき、一旦休憩タイムに突入。休憩所の自販機で、飲み物を買う。おお、マスペ! マイ・ソウルドリンク! この自販機、わかってるわー。でも、ダイエット中につき、泣く泣く無糖紅茶をお買い上げ。アメリにも、コーラを買ってあげる。
「いやーすごいですね、声優さんって」
「でしょう? あたしも初めて収録したときは、そのすごさに驚いたもんです」
コーンポタージュスープを飲んでる優輝さんが、頷きながら応える。
「わたし、感動しちゃいました。映画やアニメの声も、あんな感じに命を吹き込むんですね」
まりあさんも同感を示す。
「アメリちゃんたちはどうだったかな?」
「なんかすごかった! スポンジ・トムもああやってるの?」
「そうだよー」
「へー」と、感心するアメリ。クロちゃんは、何やら言葉にならないようで、「すごかったです……」とだけ言って、ぼーっとお汁粉を飲んでいる。
「そういえば、今日はお二人なんですね?」
「あ、はい。ミケの性格だと、長時間じっとしてるとか無理ですからね。なので、久美さんたちと一緒にお留守番です」
「なるほど」
「優輝ちゃん、そろそろ再開」
由香里さんが腕時計を見て、ハリーアップを促す。
「おっと、では行きましょうか」
スープを飲み干し、ゴミ箱に入れる優輝さん。私たちも飲み物を飲み切り、あとに続く。
こうして、後の収録もつつがなく終わりました。
「お疲れ様でしたー!」
全員で、頭を下げ合う。
音声データの入ったメモリや、多分ゲーム映像が入ったディスクを渡してもらう由香里さん。
収録室を出て窓の外を見ると、すっかり夜。
「どこかで食事でもしていきませんか? せっかく渋谷まで来たことですし」
「そうですね。家に帰ってから作ったら、もうアメリが寝る時間になってしまいますし」
優輝さんの提案に、一同合意。イタリアンをいただいて帰りました。
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