神奈さんとアメリちゃん

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第九十話 ハッピー・ハロウィン! ―後編―

公開日時: 2021年4月20日(火) 22:01
文字数:2,406

白部さんのお隣さんのチャイムを鳴らすと、六十代半ばぐらいのおじいさんが扉を開ける。


 「こんにちは」と皆で挨拶した後、三人娘が例の文言を繰り出す。


「あー。あれか、今日ハロウィンかー。すっかり日本でもおなじみになったよねえ。ええと、何かあったかな……」


 一度戻るおじいさん。ややあって再度扉を開け、「ごめんねえ。ハロウィンのことすっかり忘れてて、お菓子用意してなかったよ」


 申し訳なさそうに自らの後頭部を撫でる。ありゃ、困ったな。これはいたずらコースだけど……。


「おねーちゃん、いたずらってどんなことすればいいの?」


 困り顔で尋ねてくるアメリ。ミケちゃんとクロちゃんもどうしようという表情。うーん。本場では、かなり過激ないたずらをするって何かで聞いたけど。


「くすぐりの刑……とかどっすか?」


 さつきさんが無難なアイデアを出してくれたので、皆も「じゃあ、それで」と同意する。


「それじゃあ、おじいちゃんを三人でくすぐろう~」


 私の号令でアメリたちに体中をこちょこちょされ、くすぐったさで変な笑いを出してしまう彼。


 なんかおじいさん笑い疲れてそうだし、こんなもんかな。


「はーい、ストーップ」


 制止をかけると、魔女っ子たちのいたずらが止む。


「いやー、すみません。大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫大丈夫。いやー、こっちこそうっかりしててごめんねえ」


 互いに頭を下げあって別れの挨拶を告げ、アパートを攻略していく。二階部分は通路が狭いこともあり、子供たちと大人代表ということでまりあさんだけで行くことになった。私たちはそれを下で見守る形。


 この後もご近所さんを順繰りに訪問していき、通路の狭いところは順番で大人代表が一人ついていく形になった。ただ、優輝さんには「二階以上は基本的に無理なんで」と、お断りされてしまう。彼女、高所恐怖症だもんね。


 そんな感じで練り歩いていると、子供連れの三十代半ばぐらいと思われる女性と遭遇した。子供は女の子と男の子で、女の子はアメリたちと同じように魔女。男の子は狼男のコスプレ。


 互いに「こんにちは」と挨拶し、五人の子供が例の言葉を唱え、お菓子交換会となる。


「はい、私からはキャンディね。好きな味選んでー」


 フルーツキャンディの袋を差し出すと、女の子はオレンジ、男の子はアップルを選ぶ。


「ありがとうございました!」


 子供たちが、互いの保護者にお礼を述べる。ああ、実にほほえま! 私たちも続けてお礼を述べた。


 別れを告げ、次なるお宅へ。


「あら、こんにちは。可愛いわねえ」


 一軒家から、五十代ぐらいの女性がでてくる。挨拶を返し、例の言葉を言う魔女っ子たち。


 「ちょっと待っててねー」と一度奥に引っ込み、戻ってきてチョコを四つ・・差し出してくる。


 恐る恐る、「ウチの?」と自分自身を久美さんが指差すと、おばさんがにこにことうなずく。


「ありがとうございます……」


 勘違いとはいえ、善意で差し出されたものを断ることもできず、大変低いテンションで受け取る久美さん。


 お礼と別れを告げ、次の家を目指す。


「仮装、してねーのになあ……」


 がっくりとうなだれ、とぼとぼ歩く久美さんに、大人一同、なんとも言えない視線を送る。


「まあまあ、姉さん。自分ら欲しくてももらえないっすから。自分らの子供の頃、ハロウィン一般的じゃなかったっすからね。キチョーな体験じゃないっすか」


 そんな中、からからと慰めになってるのかわからない言葉をかけるさつきさん。


「嬉しくねーよ。いや、そんなこと言ったらあの人に失礼だよな。うう……」


 頭を抱え、悩む久美さん。彼女も変に義理堅いものだから、難儀よねえ。


「とにかく、これはあとで酒の肴にするわ。チョコが合う酒も持ってるかんな」


 そして、切り替えも早い。良きかな良きかな


 そんなこんなでご近所巡りも終わって、かくてるハウスにゴールイン!


「お疲れ様でしたー!」


 大人一同、互いにねぎらいの言葉をかける。子供たちも、「お疲れ様でしたー」と真似をする。


「いやー。大漁だねえ、ミケ」


 三人のお菓子袋はパンパンだ。


「まあ、これもミケのミリョクのなせるワザね!」


 ふぁさぁ……っと三毛色の髪をかきあげる彼女。この背伸びしてる感、実にほほえまだこと。


「こっちではあんまり和菓子もらえなかったな……」


 ちょっとしょげ気味のクロちゃん。


「でも、よかったじゃないの。これでしばらく、おやつに困らないでしょう?」


 まりあさんの言葉に、「うん……」とはにかむ。


「アメリもいっぱいもらったねー」


 と言葉をかけると、「うん!」と満面の笑み。初ハロウィン、満喫できてよかったねえ。


「では、解散しましょう! あ、このままうちでピザパーティーでもいいですよ」


 優輝さんが締めの言葉を述べると、「ピザはヤメロ」と、久美さんから速攻でツッコミが入る。思わず苦笑する一同。


「まあ、普通に解散でいいと思いますよ。宇多野さんたちは、わたしが送っていきますね」


 由香里さんが、代わりに締める。


「ありがとうございます。ただ……」


「なんでしょう?」


「わたしのことも、神奈さんみたいに下の名前でまりあって呼んでいただけたら嬉しいです」


 ちょっと照れくさそうなまりあさん。年上に言うのも何だけど、可愛い。


「わかりました。じゃあ、あたしたちも下の名前でお願いします、まりあさん。みんなも、それでいいよね?」


 優輝さんが残りの三人に問うと、「異議なーし!」と快諾。


「ありがとうございます。優輝さん、久美さん、さつきさん、由香里さん。今後ともよろしくお願いしますね」


 ぺこりとお辞儀するまりあさんに、かくてるの皆さんもぺこりとお辞儀を返す。


「では、行きましょうか」


 由香里さんがバンに向かうので、まりあさんとクロちゃんもあとに続く。


「では、私たちもお暇しますね。今日は楽しかったです。お付き合いありがとうございました」


 頭を下げ、お礼を述べる。アメリも、「ありがとーございました!」と可愛くお辞儀。


 こうして、今年の楽しいハロウィンは終わりました。

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