神奈さんとアメリちゃん

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第十二話 アメリとクロ

公開日時: 2021年4月17日(土) 07:31
更新日時: 2022年7月20日(水) 22:21
文字数:2,142

「ねーねー! クロはグラタン食べたことある?」


 私とまりあさんがおしゃべりに興じる中、ソファでクロちゃんの隣に腰掛け、人懐っこさ全開で語りかけるアメリ。でも、クロちゃんは更にまりあさんに密着し、距離を何とか空けようとする。


「オムライスは? スパゲッティーーは?」


 更にグイグイ来るアメリに対し、必死で距離を空けようとするクロちゃん。


「ごめんなさいね。この子、ほんとに人見知りなの。気長に接してあげてね」


 そう言い、まりあさんがクロちゃんの頭を撫でる。


「アメリー。『押してダメなら引いてみろ』って言葉があってね。逆に引いたほうがいいこともあるよ」


 私のアドバイスに、彼女は「むー」と少し考え込んでから距離を空け、「クロは好きなものってないの?」と、足をぶらぶらさせながら問う。


「クロちゃん。お話苦手かもしれないけど、アメリちゃんお友だちになろうとしてくれてるのよ」


 微笑むまりあさんをじっと見つめた後、「お姉ちゃんまりあ……。あと、お魚」とボソリと答えるクロちゃん。


「おお~! アメリもお魚好きー!」


 興奮して再度クロちゃんに詰め寄ろうとするが、はっとして距離を空ける。その様子がなんだか微笑ましくて、ついクスリとしてしまう。


「アメリはね! サメさんでしょー、イカさんでしょー、チンアナゴさんでしょー……えっと、全部好き!」


「ボクは……アジとかシャケとかサンマが好き……」


 内気ながらも勇気を振り絞って、会話に乗るクロちゃん。健気だなあ……ってあれ?


「クロちゃんって女の子ですよね?」


「ええ。でも、なんだか自分のことボクっていうんです。これはこれで可愛いなあって」


 一瞬性別に疑問が湧いたけど、まりあさんの説明で得心が行き、「そうなんですねー」と謎の感心をしてしまった。


 しかし、それとは別にクロちゃんが挙げた魚のリストで、もしかしなくても両者の好き・・は違う好き・・なのではなかろうか、とも考える。


「アメリもご主人様大好き! あとねあとね……」


 またグイグイ距離を縮めそうになるのを、慌てて距離を取り直す。なんでこう、いちいちムーブが可愛いのか。


「あとね、とにかくもう全部好き! 楽しいことだらけ! クロも好き!」


 唐突な告白に、クロちゃんがもじもじする。あら~。いや、子供同士の微笑ましい感情だろうけど、尊い……。


「だから、アメリとお友だちになってよ!」


 キラキラした期待の眼差しを向ける。クロちゃんが、アメリと微笑みを浮かべるマリアさんを交互に何度か見たあとに、「うん……」とぼそり呟き、うなずいた。


「やったー! 初めてのお友だちだああ!!」


 感極まって抱きつくアメリを「や~め~て~!」と言いながら引き剥がそうとするクロちゃん。


「こらこら、クロちゃん嫌がってるでしょ。アメリはもうちょっと、落ち着きを身に着けようか」


 さすがに可哀想なので、アメリを引き剥がす。


「ごめんね、クロちゃん。アメリー。そういうね、距離感近すぎるのが苦手な子っているんだよ。せっかくお友だちになれたのに、嫌われちゃうよ?」


 この一言はてきめんに効いたようで、びくりと震えた後「やだ……クロに嫌われたくない……」と、涙目になる。ちょっと脅しすぎたか。


「じゃあ、クロちゃんにごめんなさいしよう」


「ごめんなさい……」


 しゅんと頭を下げるアメリ。


「まりあさんも、すみません」


「いえいえ、うちの子が人見知りすぎるだけですから……」


 クロちゃん、あまりにもしょぼくれているアメリを気に病んだようで、「あの、ボクも少し嫌がりすぎたかも……」と恐縮する。


「まあ、あれだ。アメリ、今度からやっても大丈夫なことをちゃんと相手に訊こうね」


「はい……」


「ほーらー、そんないつまでも落ち込まないのー。クロちゃんがアメリのこと嫌いだったら、今みたいなこと言ってくれないからね?」


 大凹みモードのアメリの頭を、わしゃわしゃと撫でる。


「クロちゃん。アメリちゃんと握手してあげましょう」


「……うん。ボク、怖がりだから。その、ごめんね」


 まりあさんに促され、おずおずと手を伸ばすクロちゃん。


「ほら、アメリも握り返してあげて」


「うん。クロ、怖がらせてごめん」


 両者が握手を交わす。うむ! 場もまとまったようで、良きかな、良きかな


「あら、もうこんな時間。すみません、長居してしまって」


 まりあさんの声で時計を見てみれば、もうすぐ五時。いやはや、時が経つのは早いなあ。


「表までお見送りしますね。ケーキごちそうさまでした」


「いえいえ、どういたしまして。お見送り、ありがとうございます。今度は、うちにもいらしてください」


 かくして、二人を送り出す。


「それでは、失礼します。今日はありがとうございました」


「こちらこそ、楽しいお話をさせていただいてありがとうございました」


 互いに頭を下げ合う。


「ばいばーい! 今度遊ぼーねー!」


 大きく手を振るアメリ。まりあさんが「またね、アメリちゃん」と手を振り、クロちゃんも、「……またね」と、ちょこんと頭を下げて小さく手を振る。


 手を繋いだ二人の姿が小さくなっていく。


「アメリ、お友だちが出来てよかったね」


「うん!」


 彼女の頭をキャスケット越しに優しくぽんぽんと叩く。


「じゃあ、晩ごはんのお買い物行こうか」


「はーい!」


 そのようなわけで、一度戻って財布と買い物バッグを手に、二人で買い出しに出かけたのでした。

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