神奈さんとアメリちゃん

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第六話 初めての遭遇!

公開日時: 2021年4月16日(金) 07:01
更新日時: 2022年5月23日(月) 02:50
文字数:1,871

「こんにちは」


 ベンチでくつろいでいると、黒髪長髪の温和そうな女性……三十歳ぐらいかな? に挨拶をされる。彼女に手を引かれている、茶色いキャスケットを被った、同じく黒髪長髪のアメリぐらいの歳の女の子が、お姉さんの背後にささっと隠れる。


「こんにちは。アメリもご挨拶」


「こんにちわー!」


 会釈して挨拶を返すと、アメリもそれにならう。


「娘さん、アメリちゃんていうんですね」


 はっ! そういえばアメリなんて名前、日本人のそれじゃないじゃなーい! まあ、今どきならキラキラネームで通じるでしょう、うん。いけるいける! そう信じよう。


 しかし、「娘さん」か……。いやまあ、私ももう二十七だし? これで姉妹だったら、お父さんとお母さん、いい歳して頑張りすぎでしょって感じだけど。それでもやはり、なんというかまあ、ショックじゃないといえば嘘になるなあ。


「クロちゃんも、ちゃんとご挨拶しましょう?」


 お姉さんに促されると、片目だけちょっと出して「こんにちは……」とぼそりと呟く。


「すみませんね、ほんとに人見知りで」


「いえいえ。可愛いですね」


 などとほのぼのトークを繰り広げていると、びゅうと強い風が吹き、白いキャスケットが眼前を横切っていく。


 って、え? キャスケット?


 アメリのほうを見ると、猫耳がご開帳! お姉さんを見ると、口に手を当てて驚愕の表情! 魂が口から抜けそうになるとはこのような感覚か。一瞬頭が真っ白になるが、とりあえず買いたてホヤホヤのキャスケットを回収! 幸いすぐそばの低木に引っかかっていて、すぐに回収成功! 急いでアメリに再装着!


「えー、えーっとですね! 最近の付け耳ってすごく良く出来てますよね!」


 苦しい。我ながら苦しい。もうちょっと気の利いた言い訳を思いつかないかと、パニックを起こしながらぐるぐる思考なう!


「アメリちゃんもなんですね……」


 お姉さんが、変てこなことを言い出す。彼女もショックで、どうかしてしまったのかしら。


「クロちゃん、見せてあげて」


 お姉さんが促すと、クロちゃんが私たちだけに見えるように、キャスケットを持ち上げる。すると、そこには猫耳が!


 今度は私が、意外な光景にびっくりする番で、アメリはのんきに「おお~!」などと感心している。



 ◆ ◆ ◆



「クロちゃん以外にも、猫耳人間の子がいたんですねえ」


「いや~、私もびっくりしてます。まさか、ご近所に同じような子がいるとは……。さっきは、思わずパニックになりかけましたよ」


 四人でベンチに並んで座っておしゃべり。何ぶんクロちゃんが非常に人見知りなため、私とお姉さんを挟んで、左右にアメリとクロちゃんが座っているという構図。


 アメリが、クロちゃんと仲良くなろうと色々話しかけているが、話しかけるほどに天の岩戸に隠れた天照大神の如く、お姉さんの背後に隠れていってしまう。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。わたし、宇多野うたのまりあっていいます。この子は」


「クロちゃん、ですよね。猫崎神奈《ねこざき・かんな》です。この子は先ほどもご紹介しましたが、アメリっていいます」


 キャスケット越しにアメリの頭を優しくぽんぽんと叩くと、「うにゅう」という気の抜けた声を上げる。


「実は、うちの子アメリがこうなったのは……」


 猫アメリの他界から、今に至るまでをかいつまんで話す。


「猫崎さんも、そうだったんですね。うちのクロちゃんも一年前に亡くなったんですけど、同じようにこうなって……」


 ううむ、なんと運命的な。ともかくも、猫耳人間の育児経験者である先輩から、色々と貴重なアドバイスを聞くことが出来た。


 人間用の食事をさせても大丈夫なこと、病気になったらS町にある「松戸まつど内科・小児科医院」を頼ればいいこと、などなど。


「ごしゅ……おねーちゃん、お腹へったー!」


 まだ明るいからうっかりしてたけど、スマホの時計を見ればもうすぐ五時。ずいぶんと話し込んでしまった。


「じゃあ、今日は人間食デビューもしようか! 宇多野さん、よろしければ連絡先を交換しませんか?」


「ええ、ぜひ。わたしもこういう話をできる人が、松戸先生しかいなくて困っていたんです」


 快く承諾してもらい、通話・メール用アプリ「LIZE」の連絡先を相互登録。


「では、折を見てご連絡差し上げますね」


「はい、私からも色々ご相談すると思いますので、よろしくお願いします」


「またね~!」


 宇多野さんとクロちゃんに別れを告げる。ぶんぶんと手を振るアメリに、ちらりと顔だけ向けてぺこりと無言で会釈するクロちゃん。つくづく好対照な二人だこと。


 さあ、公園デビューに続いて記念すべきアメリの人間食デビュー! 今夜は何を作ってあげようかなあ。

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