神奈さんとアメリちゃん

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第百六十八話 猫崎家のなんでもない平和な一日

公開日時: 2021年4月25日(日) 17:01
文字数:2,093

駅前ショッピングの翌お昼すぎ。今日は午前中に、昼夕のお買い物を済ませてしまったのでマイペースにネームに取り組んでいると、LIZEに着信音が。はて、どなたでしょうと見てみると、まりあさんからメッセージが。


 「こんにちは。お年賀葉書、ありがとうございました」と、お辞儀猫スタンプとともに書かれています。


 「こんにちは。いえいえ、どういたしまして」とお返事。


 アメリが一所懸命クロちゃん宛ての年賀状に牛を描いたことなど伝えたいところだけど、ちょっと今手が離せない。けどお話はしたい。うーむ。


 「通話でもいいですか?」と切り出すと、「はい」とお返事が来たので、電話をかける。


「改めましてこんにちは。ちょっと今仕事中だったので、右手を使いたかったもので」


「あ、すみません。ご迷惑でしたか?」


「いえいえ。私何ていうか、いわゆるマルチタスクが得意で、こうやって話しながら描くとかできるんですよ」


 と説明すると、「ご器用なんですねー」と感心されてしまった。


「私デジタルですから、別用で左手使いながら描けるというのもありますし」


 紙の原稿用紙だとどうしても左手で押さえる必要があるが、うちの液タブは重量があるのでそういうことがなくて便利。


「あ、で、話を戻しまして……アメリがですね、頑張ってクロちゃん宛ての葉書に牛描いたんですよ。それはもう、心を込めて」


「はい、わたしも見せてもらいました。可愛かったですー」


 ブロックで変てこなオブジェクトばっかり作ってるアメリだけれど、そちらはセンスが独特なだけで絵心がないわけではない。実際、私のお手本を見ながら描いたら、なかなかぷりちーな牛さんが出来上がった。


「ありがとうございます。あ、それとですね! 昨日やっと『うどんのめがみさま』の続編を入手しまして。アメリ、ほかにも古生物の本にハマっちゃったみたいで、あれもこれもと欲張りモードで、今私の後ろで読んでますよ」


「まあ、ありがとうございます! 読み終わったら、感想をもらえたら嬉しいです」


「はい、伝えておきますね」


 こんな感じで和やかに話と原稿は進んでいったわけだけど、突然まりあさんの「あっ、ごめんね」という小さな声が聞こえた。


「すみません。クロちゃんと駅前に行く約束の時間になってしまいました」


 言われてPCの時計を見ると、もう一時間も話し込んでいた。あちゃー。


「いえ、こちらこそすみません。長電話してしまって」


「いえいえ。後でまたお電話差し上げたいと思いますが、構わないでしょうか?」


「はい。先にメッセージをいただければ、それに合わせますので」


「わかりました。それでは失礼します」


 通話終了。ふう、ちょっと根詰めてたからいい気分転換になったかな。とはいえ、体のほうはあちこちこわばってしょうがない。


 少し休憩しましょ。


「アメリー。お茶にしようと思うんだけど、どうかな?」


「おおー。飲むー」


 「うどんのめがみさま」から視線を上げて、ちょっと疲れ気味に答える。アメリもアメリで、読書休憩が必要みたいね。お茶菓子用意してきましょっと。


 本日のお茶請けは、特売のおせんべい。なので、飲み物は緑茶をチョイス。


「ただいま~」


 戻ってくると、本を机からどかすアメリ。配膳して頭を撫でると、「うにゅう」と気抜け声を上げる。


 包装パックの中でおせんべいを砕くと、アメリも真似する。そしてパックを開き口にすると、アメリもそれにならう。ふふ、ほほえま。


 ぽりぽりという歯ごたえが心地よい。そしてお茶で流し込むと、ほっと一息。


「あ、そうそう。『うどんのめがみさま』の新しいの、読んだ感じどう?」


「あのね、遠い星からお姫様がね、お蕎麦が食べたくて地球に来るの! でね、うどんの女神様と出会って、うどんとお蕎麦どっちがいいかで喧嘩しちゃうんだけど、仲直りする!」


 うーん、申し訳ないけどわけがわからないわ、まりあさん……。


「面白い、面白くないでいったらどっち?」


「すごく面白い!」


 キラキラ瞳。ふーむ、筋書きを聞いただけじゃ面白さがわからないタイプのお話みたいね。まあ、まりあさんの作品って筋書きだけ聞くとシュールなお話多いものねえ。


 しかし、あのときのビールから生まれてしまった筋書きだと考えると、妙に納得してしまう。


「そうなんだー。アメリが読み終わったら、私も読もうかなー。……あ、そうそう。まりあさんがアメリの書いた牛さん、可愛いって言ってたよ」


「おお~!」


 再度輝く瞳。ほほえま!


「ふふっ」


「どうしたの?」


「うん? 幸せだなーって思って」


 アメリがいて、素晴らしい友人に囲まれて、仕事も順調で、両親も健康で。こんなに恵まれていていいのかなってぐらい、私は幸せ者だと思う。


「おお~! おねーちゃんが幸せだと、アメリも嬉しい!」


 しゅびっと挙手。


「おうおう、アメリちゃんはいい子じゃねえ~。ふぉっふぉっふぉっ」


 頭を撫で撫ですると、「うにゅう~」と、おなじみの癒やし系気抜けボイスを上げる。


「さて! 休憩も十分じゅうぶんしたし、お仕事に戻りますか~。アメリも勉強熱心なのはいいけど、ほどほどに休みながら読もうね」


「はーい」


 湯呑とお皿を片付けにキッチンへ向かう。


 こういう、何もない日もいいもんだね~。

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