神奈さんとアメリちゃん

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第七十八話 野良猫をお迎えしよう!

公開日時: 2021年4月19日(月) 19:01
文字数:2,451

野良猫の相談から一週間後の十時。白部さんは三日ほどまとめて有給を取り、捕獲大作戦に乗り出すことにしたようです。


 すでに捕獲用ケージも、ネットで購入して届いているそうで。今ってほんと何でもネットで手に入るのね。


 アパート前の共用部に置かせてもらうわけだけれど、ペット可アパートだけあって皆さんご快諾くださったとのこと。


 まりあさんの指導でケージの奥に餌を置き、あとは天に運を任せるのみ。あまりちらちら覗いても猫に警戒心を与えてしまうだけなので、監視は必要最低限に留めることに。


 そわそわしながら原稿を進めていると、あれから四時間ほど経った頃、LIZEに白部さんから「かかりました!」との一報が!


 アメリと一緒に慌てて様子を見に行くと、例の猫がケージの中でフシャーッと白部さんに敵対心をむき出しにしていた。


「おお~。たしかにあのときの子ですね」


 アメリみたいに感心してしまう。


「おお~……。すごい怒ってるねー……」


 一方、ちょっと引き気味のアメリ。


「やあやあ、どうも! 捕まえたそうですね!」


 背後から優輝さんの声。かくてるハウスの皆さんも、ぞろぞろと集まってきた。


「はい、おかげさまで!」


「これ、私がまりあさん迎えに行ったほうがいいですね。ちょっと失礼します」


 スマホでまりあさんに電話をかけると、ちょうどこちらに向かおうと準備をしていたところらしい。


「私が車で迎えに行きますので、ご自宅でお待ちいただけますか?」


 と問うと、「では、そのようにします」とのお返事を頂いたので、アメリを乗せて急いで発車する。



 ◆ ◆ ◆



 まりあさんとクロちゃんを乗せて帰宅。そのまま、まりあさんたちを現場に連れて行く。


「この子なんですね。初日で、しかもこんなに早く捕まえられるのは、ものすごく運がいいです。白部さんとこの子は、もしかしたら強い運命で結ばれているのかもしれませんね」


 さすが絵本作家、なんともロマンチックな感想。


「とりあえず、どうしたものでしょう?」


 白部さんが勝手がわからず、心細そうに師匠・・に尋ねる。


「まずは動物病院ですね。神奈さん。以前お話されていた病院付きペットショップはどちらに?」


「あ、はい。国道沿いのですね……」


 場所を詳しく述べる。


「なるほど。車ならすぐの距離ですね。では、白部さんと私が乗るとして、運転は……」


「あ、ついでですから私が」


 挙手して立候補。


「では、お願いします。これに猫ちゃんを入れたケージも乗せるとなると、クロちゃんとアメリちゃんは戻ってくるまで角照さんたちに預かっていただいたほうがいいですね」


「わかりました。二人ともお預かりさせていただきます」


 いやー、チームワークっていいもんですなあ。


「ええー、アメリも一緒に行きたい~」


 珍しくぶーたれるアメリ。


「ごめんね。このケージを乗せたらアメリが座れるとこなくなっちゃうの」


 キャスケット越しに頭を撫でてなだめると、不承不承納得してくれた。


 というわけで、ペットショップにGO!



 ◆ ◆ ◆



 やって来ました、ペットショップ「コジカ」さん。駐車場があるのがありがたい。私も、猫時代のアメリの細々こまごましたものをここで色々買ってたっけ。


 ただ、できたのが割と最近だから、動物病院は近場の別のところを利用していたけど。


 中に入ると、左手から鳥の鳴き声がお出迎え。向かって右には犬猫が並べられている。ペットショップには人により色々是非があると思うけれど、アメリとの出会いを作ってくれたので私は肯定派。


 そんな所感はさておき。


「すみません、野良の子を捕獲しました!」


 白部さんが店員さんにケージを見せると、病院部分に案内してくれた。


 待合に先客が一人いたので、私たちの番を待つ。その間に、白部さんは受付で保険の加入を済ませてしまう。


「野良の子だそうですね」


 呼ばれて診察室に入ると、中年男性の獣医さんと二人の助手さんがいた。白部さんとまりあさんから事情を聞き取る。


「まずは、診察します」


 暴れる猫ちゃんを助手さんに押さえさせながら、聴診器を当てたり目を観察したりする。


「メスですね。生後半年ぐらいです。避妊手術済みですね。地元の保護団体がやってくれたんだな。健康状態はさほど悪くないです。では、ワクチンを投与しましょう」


 押さえているうちに、手際よく注射する。お見事!


「次は、ノミ・ダニの駆除ですね」


 そういうと、シャンプー&ドライヤーをして、ブラッシングしてくれる。


 さらに、獣医さんが何やら液状の薬を猫ちゃんの首筋に垂らす。


「これ、殺虫剤ですからね。猫ちゃんが舐めないような場所、例えば今みたいに首の裏っ側なんかへ、一日一回つけてください。ええと、こちらへの移送はどうやって?」


「あ、はい。私の車で運びました」


「では、シートにもこれを塗っておいてください。このままお渡ししますので」


 さらに、お腹の方の虫の駆虫薬も処方されて、診察は終わり。


「猫ちゃんのお名前はどうしますか?」


 診察券を作るため、受付で名前を聞かれる。ただ、今さっき捕まえたばかりなので、白部さんも特に決めていたわけではなく、少し考え込んでしまう。


「うーん……あ、ノーラ! カタカナでノーラでお願いします!」


 野良だから、ノーラって安直な。いやまあ、アメリカンショートヘアだからアメリ、なんて名付けた私が突っ込めた義理じゃないけど。おそらく、黒猫だからクロなんて名付けたまりあさんも同感のようで、なんともいえない表情をしている。


 こうして、あの子には「白部ノーラ」という名前がつけられました。


 さて、このあとがまた大変で、野良の子は慣れるまでケージから出てこないものらしくて、大型のケージとベッドを購入。まず、新環境に馴らすことが大事なので、頻繁な取替作業で脅かさないために、自動給餌器と自動給水器も購入する。


 ほかにはカリカリやノミ取りブラシなど、細々したものを買っていく。トイレと餌皿と爪とぎは、不要になったアメリのお古を譲ることにした。


 その後、指示通り車のシートに殺虫剤を塗り、まりあさんの野良猫飼育レクチャーを白部さんと一緒に聞きながら帰宅した次第です。

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