神奈さんとアメリちゃん

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第四百三十四話 恋多き、ほえほえさん

公開日時: 2021年12月13日(月) 21:01
更新日時: 2021年12月15日(水) 02:04
文字数:2,510

「なー。おしゃべりもいいけど、ゴッドレンジャーごっこしたいぞー」


 ノーラちゃんが不満げな声を上げる。


 もともと、これをやるために今日は自主練ではなく、我が家に遊びに来ることを選んだわけだけど、近井さんの来訪で中断になっちゃったからね。


「おおー。じゃあ、ともちゃん、好きな子選んで」


 小休止込みで、お茶とゆべしもちをいただきながら、成り行きを少し見守る。おもちゃ棚にともちゃんを案内するアメリ。


 おもちゃ棚には、上三段に海産物ファミリーが、最下段にブロック入れと『さかなのおうち謎オブジェ』が納められています。


「この子、なんて名前?」


 コンペイトウの、はこぺんを手にする


「はこぺん! 男の子!」


「女の子はいないの?」


「おおー、ほえほえさんしかいない……このくじら~」


 ともちゃんの手の届かない位置にある、くじらのほえほえさんを、手渡すアメリちゃん。


「おっきい~。じゃあ、とも、ほえほえさんにするー!」


「じゃあ、アメリはしまだくんにしようかな。ノーラ、ともちゃんと一緒に遊ぼ!」


 ニシキアナゴのしまだくんを手に取り、ノーラちゃんに提案。


「いいぞー! ルリ姉、バッドキングよろしくなー」


「はいはーい。近井さん、手持ち無沙汰ですね」


「面白そうなので、見学させていただきます」


 というわけで、劇団結成! さあ、今日の物語は!?


「がおー! きょうこそけっちゃくをつけるぞ、ゴッドレンジャー!」


 開幕踏まれる、私の車そっくりのミニカー。白部さん、もうちょっと手心を加えてください……しくしく。まあ、バッドキングは悪役怪獣だから仕方ないけどね。


「でたな、バッドキング! ゴッドレンジャーがあいてだ!」


 ゴッドレンジャーで、パトカーを踏むノーラちゃん。正義の味方がそのムーブは、NGだと思うの。


「だいじょうぶかい、ほえほえさん!」


「えーと……名前なんだっけ?」


 さっそく、名前を忘れられるしまだくん。


「しまだだよ、ほえほえさん!」


「そうだった! こわいわ、しまださん!」


 お、今日も愛の劇場ですかねえ。やはりともちゃんも、そういうの好きなのかしら?


「きみは、ぼくがまもるよ!」


「ありがとう、しまださん!」


 良きかな良きかな


「バッドビーム! びーっ!」


「うおっ! でもゴッドレンジャーは、これぐらいじゃやられないぜ! くらえ! ゴッドソード!」


「ぐわー! やられたー! おのれー、つぎこそはかつぞ! ゴッドレンジャー!」


 飛んで逃げるバッドキング。退場~。


「せいぎはかつ!」


「きゃー、ゴッドレンジャーさまー!」


 ゴッドレンジャーに駆け(?)寄るほえほえさん。あれれ? 風向きが……。


「すき! ゴッドレンジャーさま!」


「おー? オレもきみがだいすきだぜ!」


 くっつき合う二人というか、二体?


「ほえほえさーん?」


 困惑するしまだくん。


「いきましょう、ゴッドレンジャーさま!」


「とお!」


 ともに飛び立つ二人。ほえほえさん、飛んじゃった。子供って自由ね。


「ほえほえさーん……」


 あとに残されたしまだくん、哀れ。なんか彼、最近不憫な役どころが板についてない?


「こうして、きょうもちきゅうのへいわは、まもられたのであった!」


 切なそうなしまだくんをよそに、ノーラちゃんのナレーションで締め。


 私と近井さんで拍手。


「アメリちゃんとノーラちゃんって、いつもこんな感じで遊んでるんですね」


「そうですねー。でもどちらかというと、ゴッドレンジャーごっこは、割と久しぶりなんですよ。みんなでテレビゲームすることのほうが、最近増えてて」


「そうなんですかー」


 白部さんの説明に、感心する近井さん。


「おお~……。しまだくん、かわいそうなことに……」


「とも、ダメだったかな?」


「ううん! たまには新鮮でいいと思う!」


 フォローするアメリちゃん。うむうむ。いいお姉さんぶりだ。


 しかし、結局最後まで見ちゃったな。まあ、いい息抜きになったけど。


 その後は、再び談話再開。ノーラちゃんも、ゴッドレンジャーごっこが久々にできて、満足したようです。


 私もお仕事しながら、会話に加わりましょう。


「そういえば、人権法案、成立まで至らなかったですね」


 そうおっしゃる近井さん。


「友美に、アメリちゃんというお友達ができてから、猫耳人間のことは他人事ではないなと国会中継見るようになったんですけど、あのとき出てらした白部さんとお会いしたとき、内心びっくりしました。世間って狭いですね」


「恐縮です。今にして思えば、もっとできることがあったのではないか、などと考えてしまうのですけど」


「そんな! 白部さんはとてもご立派で、すごかったですよ!」


 自己卑下する彼女を、慌ててフォロー。近井さんも、うんうんとうなずく。


「ありがとうございます。でも、実際難しい状況なんですよね。学校については。何しろ国内にはまだ十一人しか猫耳人間がいませんから、特別学級をつくるのもコストがかさむんですよ」


 F市の場合、たまたま四人固まってるけど、全国ではきっと、もっとまばらなわけで。ことによると、マンツーマンのためだけに教室を一つ用意する必要が出てくる。


「たしかに、そう言われると……難しいですねえ」


 椅子をくるりと向け、腕組みして考え込んでしまう。


「あ!」


 唐突に思い出し、声を出す。


「そういえば、交流サイトの件、どうしましょうか」


 以前話していた、交流サイトの件が全然手つかずなことを伝える。


「それ、私がやってみましょうか?」


 意外にも、近井さんから助け舟が出される。


「自宅サーバーも持ってますし、そういうサイトの運営経験ありますし」


「よろしいんですか?」


「やるだけやってみる、のレベルでよろしければ」


 ちょっと自信なさげな彼女だけど、私ではにっちもさっちもいかなかったのだから、断る理由がない。


「ぜひ、お願いします! 私では、本当にどうしようもできなくて……!」


 深々とお辞儀する。


「そんな、頭を上げてくださいよ。自信を持ってお任せください! ……とはいえないですけど、やるだけやらせていただきますね」


 なんとありがたい話でしょう。持つべきものは友とは、まったくもって至言。


「あの、お任せするぶん、イラストなんかが必要でしたら、不肖・ワタクシ、描きますので!」


「ありがとうございます。その際にはお願いしますね」


 事態が思わぬ進展! 今日はいい日だ!

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