神奈さんとアメリちゃん

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第六十三話 ゲーム作りを取材しよう! その三

公開日時: 2021年4月18日(日) 17:31
文字数:2,503

お昼ごはんをいただき終わり、再びそれぞれの部屋へ散って行く皆さん。アメリとミケちゃんは、「食後急に運動すると良くない」という久美さんのアドバイスで、食後しばらくは例の珍映画を見ることにしたようだ。また、変な知識仕入れてこなきゃいいけど……。


 私はというと、先ほど二番目に訪れた縁ってほどでもないけど、さつきさんのお仕事ぶりを拝見することに。


 室内を撮影させてもらい、ベッドに腰掛けさせていただいて、画面を注視する。


 私の画風は大人の女性向けのものだけど、さつきさんの絵柄はいわゆる萌え絵。


「さつきさんは、どんなソフト使ってらっしゃるんですか?」


「自分っすか? 『フリップアトリエ』っす」


「あ! 私も『フリアト』使ってます!」


 なんだか、おそろ・・・に嬉しくなってしまう。


「使いやすいっすよねー、これ。テッパンっすもんね」


「以前、漫画ならではのテクニックについて尋ねられましたけど、逆にゲームならではのテクニックってあるんですか?」


「そっすねー。たとえば、スチルって呼ばれる一枚絵があるんすけど」


 タブレットを操作し、別の画面を呼び出すさつきさん。そこには、カメラを斜めに倒したようなアングルで、さっきの女の子の片方が女の子座りしていた。


「モニタって横長じゃないっすか。キャラ単独の絵を出すとき、バカ正直に真正面からのアングルにすると、横が空きすぎて締まらない絵になっちゃうんすよ。なんで、こんな感じに斜めらせたりするんす」


「おおー! 漫画原稿って縦長だから、その意識はなかったですね……」


 言われてみればもっともな話に、舌を巻いてしまう。


「あとは……そっすねえ。ゲーム特有テクに入れていいのかどうかわかんないっすけど、エロゲ塗りってのがあるっす」


「え、エロ!?」


 唐突なとんでもワードに、声が裏返ってしまう。


「あくまで俗称っす。アニメ塗りっぽくしつつ、一部にグラデグラデーションかける塗り方っすね。自分は水彩塗り派なんで、そっちはあんま得意じゃないんすけど。参考までにってことで」


 ほえー。そんな方法があるんだなあ……。そう言われてみれば、さつきさんの塗りは水彩っぽい。


「じゃあ、ちょっと作業に戻るっすね」


 そう言って、先ほどのキスシーンのラフを手直しする。おお、たしかに優輝さんが指導したような、左の子が押し気味で、右の子はちょっと戸惑ってるような感じに直ってる。


「そういえば、どっちの子が漫画家なんですか?」


「左の子っす。空本光莉そらもと・ひかりちゃんっていうんすけど」


 可愛いなあ。私がモデルだったりしたら、照れくさいというか恥ずかしいけど。てことは、右がひなちゃんとやらで主人公か。


「今、完成度としてはどのぐらいなんですか?」


「うーん……ちょっと待ってくださいっすね」


 そう言って、なにやら横倒しの棒グラフのような画面を立ち上げる。


「自分が五十%弱、全体で見ると四十%ってとこっすね」


「それで進行度を管理してるんですか?」


「そっす。由香里ちゃんが見つけてきてくれた、ナイスなフリーソフトっす。由香里ちゃんがこれ見ながら、全体の進行をスケジューリングするんす」


 いやはや。漫画家とは比べ物にならないぐらい、色んなソフト使うんだなあ。


「ちなみに、うちはプログラミングとかしないからまだ使用ソフト少ない方っすよ」


 おおう。なんか心を読まれた!?


 その後は、特に他愛もない会話をしながら作業を見守る感じで、さつきさんの担当部分の取材はこんなところかな?


「そろそろ次の方の取材をしようと思うんですけど……由香里さんと久美さんどっちがお勧めでしょう?」


「そっすねー。由香里ちゃんじゃないっすか? 同じ二階に部屋があるからってだけの理由っすけど。優輝ちゃんの部屋の向かいっす」


「ありがとうございます。それでは失礼しますね」


 互いにお辞儀し、さつきさんの部屋を去り由香里さんの部屋へ向かう。


 ノックし、私であることを告げると、どうぞと返事が来たので入室する。


 中は、「いかにも女性の部屋です」と言わんばかりの小綺麗な内装。机の上にはデスクトップPCと液タブに花……いや、造花? と、おしゃれなガラス細工。そんな中にデッサン人形が紛れ込んでいるのが、やはり絵仕事の方なのだなー、と。本棚には、ファッション、建物、動植物などなど、様々な資料が収まっていた。ベッドとカーテンも薄い赤紫で、なんだかちょっと艶っぽい感じ。


「お邪魔しまーす。あ、そのソフトさつきさんが使ってたのですね」


 画面に先ほどの棒グラフソフトを確認する。


「ええ。わたしたち共有のツールで……久美さんちょっと遅れてるな」


 LIZEを立ち上げて、何ごとか打ち込む。


「うーん、インスピレーションが湧かないって言われてもなあ……。しょうがない」


 また、何ごとか打ち込む。


「失礼しました。久美さん作曲が難航してるようなので、気分転換にミケちゃんたちと遊んで休憩すること勧めました。そうしてれば、何かひらめくかもしれませんし」


 おおー。さすが進行まとめ役!


「あ、撮影いいですか?」


「はい、どうぞ」


 パシャパシャと、由香里さんの室内をスマホに収める。


「由香里さんも、『フリアト』使って絵を描いてるんですか?」


「いえ。わたしは写真から背景を起こすことが多いので、『フォトグラファー』ですね」


 あー、それも有名なソフトよね。


「進行のお仕事というのは、ほかにどんなことをされるんですか?」


「そうですねー。ホームページの管理とか、声優事務所さんとの交渉やスケジューリング、収入と支出の管理とか、本当に色々やってます」


「はー……大変ですねえ……」


 あまりの多彩な仕事ぶりに、唖然としてしまう。


「まあ、苦労も多いですけどやりがいもそのぶんありますから」


 微笑む彼女。いやはや、まりあさんとはまた別方向で聖人ですなー。


 さらに様々なお話を聞かせてもらい、さすがに聞きたいことは全部聞いた感じなので、失礼しますと一礼する。


「久美さんなら、まだリビングでミケちゃんたちと遊んでいるか、自室に戻ってるんじゃないでしょうか。久美さんの部屋は、リビングの角にある木の引き戸なんですぐ分かると思います」


「ありがとうございます」


 さらにもう一礼して、リビングへ。さあ、ついに取材も終盤戦ですよ!

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