神奈さんとアメリちゃん

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第四百四十話 分岐点

公開日時: 2021年12月20日(月) 21:01
文字数:2,054

 朝。ニュースとLIZEのチェックを終え、ネーム切りに取り掛かろうとしたものの、どうにもエンジンがかからない。こういう日って、たまにあるものだ。


 こういうときは思い切って一日休んでしまうのも手だけど、繁忙期だからなー。そうもいかない。


 というわけで攻め口を変え、真留さん経由で渡されたファンレターを読むことにしました。


 ファンの声援は、作家のやる気の源。熱心な読者さんたちの存在が、本当にありがたい。


 どれもこれも、心がこもってるなあ。胸の奥が、じーんと熱くなってくる。


 しかしそんな感慨も、新たに手にしたファンレターで、吹っ飛んでしまう。


「拝啓


 いつも、『あめりにっき』や読み切り作品を楽しみにしています。


 アメリちゃんも、もう十五歳ぐらいですよね。とても長生きで、先生が大切に育てられているんだと伝わってきます。


 ただ、少し気になったのが、去年あたりより妙に元気だなあと。アメリちゃん、最近調子がいいのでしょうか?」


 以下略。……そうだ、「あめりにっき」のアメリはもう十五歳と半年ぐらい。よぼよぼなはずなんだ。


 ただ、今のアメリに引きずられて、つい元気はつらつに描いてしまっていたことに気づく。


 猫の長寿記録がどのぐらいかわからないけれど、去年の十一月号あたりで、あめりにっきはアメリが虹の橋を渡って最終回を迎えているはずのものだった。


 しかし、こうして猫耳人間として生き返ったおかげで、今も連載を続けているわけだけれど……。


 どうしたものだろう?


 「あめりにっき時空」にして、時が進まないようにする?


 それも一つの手だけど、今までほぼリアルタイムで描いてきたから、急な方向転換は唐突にもほどがある。


 アメリの死自体は公表して、想像で描いてますって宣言する? ……これはこれで、ボロが出そうだな。実際、おかしな点を指摘された。


 むーん……。


 よし。こういうときは、頼れる相棒である真留さんに相談だ! スマホ~。


「おはようございます。どうされました?」


「折り入って、ご相談したいことが……あ、仕事の話ですよ。ちゃんと」


 私、前科あるからね……。


「そういう事でしたら、ぜひご相談に乗らせていただきますが」


「実はですね……」


 ファンレターから始まった、年齢問題を持ちかける。


「なるほど。たしかに、このまま続けるのも不自然ですね。かといって、あめりにっきはうちねこきっくの屋台骨の一つですから、可能な限り続けていただきたいというのはあります」


「ですよねえ」


 私も、連載を失うのは困る。


「そこで、今ひらめいたんですけど、今回の読み切りで、今のアメリちゃんのお話を描くわけですよね」


「ええ」


 はて、どんな妙案が?


「それを、パイロット版としてですね。好評なようなら、あめりにっきから、今のアメリちゃんを主人公にした、『新・あめりにっき』にシフトしてみるのはいかがでしょう?」


 なんとダイタンな!


「大丈夫でしょうか?」


「とりあえず、猫耳人間の存在は周知の事実になってしまっていますし、矛盾を抱えたまま連載するよりは、自然なお話が描けると思うんですよね。もちろん、うちの読者は基本、が目当てですから、一種の賭けになりますけど」


 はー、こりゃ難しい二択だ。読み切りでは好評でも、いざ連載してみたらパッとしなかった作品というのは、ねこきっくに限らずよくある。


 それに、ねこきっくにたまに載る「猫又物」も、やはり純猫ものに比べると、アンケート結果がイマイチなことが多いらしい。実際、私もファンレターでそれは肌で感じる。


 ただ、このまま嘘を吐き続けるのは、色んな意味で苦しい。


「……読み切りのアンケートを見てから、判断してよろしいですか?」


「はい。それで構いません。ただ、連載を仕切り直す形になりますから、一度編集会議にかける必要があるので、アンケート後は早めにご判断願います」


「わかりました。ありがとうございました。失礼します」


 ふう。意外と大事おおごとになってしまった。困ったね。


「おねーちゃん、何のお話してたの?」


 スマホで何やら調べ物をしていたらしい愛娘が、顔をこちらに向けて問うてくる。


「んー? アメリって生まれ変わったでしょう? でね、このまま連載を続けていくと、どんどん話がおかしくなりそうなんだ。たとえば、今の漫画のアメリは、去年よりむしろ元気だったりね」


「おおー? それ、良くないの?」


「そだねー。読者さんに嘘を吐き続けるのは、正直心苦しいよ。あと、想像で描くのって、やっぱり結構やりにくい」


 「うにゅう」と気抜け声を上げ、考え込んでしまうアメリ。


「アメリはさ、どっちの自分を描いて欲しい? 猫としての自分? 今の姿としての自分?」


「うにゅにゅ~……。難しい、よくわかんない……」


「まあ、すぐに答え出さなくていいらしいんで。よければ、一緒に考えてくれると嬉しいな」


「わかったー」


 アメリちゃん、少しまだ悩んでいたみたいだけど、調べ物の世界に再度没入していきました。


 とりあえず、今悩んでも仕方ないよね。


 今私がやるべきは、二つの原稿を完成させること!


 ファンレターからエネルギーももらったし、頑張りまっしょい!

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