神奈さんとアメリちゃん

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第四百八十九話 天才の育て方 ―後編―

公開日時: 2022年2月7日(月) 21:01
文字数:2,862

 結局初日はテスト三昧で終わり、アメリちゃんへろへろ。勉強でこんなに疲弊してるアメリ、初めて見た。


 「申し訳ないですが、明日もテストですので」とは、押江先生の弁。アメリちゃんげっそりです。


 「これが終わったら、好きなことだけできるからね」と、先生はおっしゃるけれど。


 まあ、そんなこんなで二日目です。


 今日はクロちゃんが早く来たため、緑茶でおもてなし。今日のお茶請けはきなこ棒。素朴でいいよね。


 仕事しながら雑談を交わしていると、間もなくほかの皆さんもやって来ました。忙しいね。


 今日は、ちょっと引き気味なアメリちゃんだけど、「今日を乗り越えれば、やりたいことだけ待ってるよ!」という押江先生の言葉に、気合を入れます。頑張れー!


 私も頑張る中、三人娘も頑張る! 途中、「お、おお~?」と困惑するアメリの声が聞こえると、「わからないなら、わからないでいいからね」と押江先生がアドバイスします。


 多分、小学校高学年。下手すると、中学校レベルのテストをしているかもしれないわけで。わかんなくて、当然よね。


 こうして授業は進んでいき、アメリのテストは終了~。合わせるように、ミケちゃんたちも休憩を入れます。


 新しいお茶菓子を手に戻ってくると、押江先生、採点の真っ最中。


「どうですか、アメリは?」


 配膳しながら、気になって尋ねてみる。


「素晴らしいですね! 算数・漢字以外も、教科書での自習と考えると完璧です!」


 ちょっと興奮気味な、押江先生。


「アメリさん。漢字の書くほうには、どれぐらい興味がある?」


「おお? うーん……読めれば十分かなって、最近は思ってる……」


「じゃあ、読みだけに専念しましょう! 書く方はポイです!」


 思い切った決断に、私と当のアメリ、そしてミケちゃん、クロちゃんもびっくり!


「え、その……いいんですか?」


「はい。今のご時世、機械が漢字書いてくれますからね。自分の名前と住所以外、読めれば十分じゅうぷんです」


 なんとまあ、合理的というか……。アメリカンだなあ。


「歴史も、必要とあらば年号は度外視して、エピソード中心で教えます。人の記憶に結びつくのは、丸暗記ではなくエピソードですから」


 ほあ~……。徹底してるぅ。


「もちろん、やりたくないことはしなくて大丈夫! どうかな、アメリさん」


「おお~……生き物について、勉強してもいーい?」


「もちろん! 全面サポートしますよ!」


 はー……。こんな教育スタイルって、あっていいんだ……。私が学んできたものの根底が、足元から、がらがら崩れていく感じ。


 大好きな生き物の勉強をしてもいいということで、先ほどまでの疲弊は何処へやら。瞳をキラキラ輝かせる、うちのお姫様。


「いいなあ、アメリ。ミケも、ダンスと歌の勉強だけしてたいわ」


「ごめんなさいね。できればミケさんたちにも、特別カリキュラムを施してあげたいものだけれど」


 嫉妬というほどではないけど、アメリの境遇を羨ましがるミケちゃんに、謝罪する押江先生。でも本当は、アメリが受けるような教育こそ、本当の教育の、あるべき姿なのかもしれない。


「ボクも、ときどき思うんですよね。将棋をやっていく上で、どのぐらい算数とか役に立つのかなって」


 クロちゃんまで。


「おお……なんかごめんね?」


 責任を感じてしまって、謝罪する愛娘。


「謝らなくていいのよ!? アメリが特別スゴイこと、ミケ理解してるもん!」


 慌ててフォローするミケちゃんに、クロちゃんも、うんうんとうなずく。


「アメリは、ミケたちを気にして止まらないで。ドンドン進んじゃってよね!」


 サムズアップして、励ますミケちゃん。ほんと、いいお姉さんになったなあ。


「ありがと……アメリ、頑張るね!」


 ふんすと気合を入れるアメリちゃん。三人の士気も回復したようで、一安心。


 とりあえず、これ以上見守る必要はないかな。真留さんが来るまで、ラストスパートだ!



 ◆ ◆ ◆



 で、できた~。いやー、真留時報まで、時間ギリギリ! さっそく作業を保存し、データをUSBメモリにコピー。


「もうすぐ担当さんが来ますので、中座しますね」


「はい、こちらはお任せください」


 押江先生の心強い言葉を受け、リビングのノートPCをセットし、立ち上がるまでに、お茶菓子の用意。


 ちょうど配膳が終わった頃に、インタホンが鳴りました!


 応対すると、果たして真留さん。さっそく、出迎えに行きます。


「先生、こんにちは」


「こんにちは。今日も来客中ですけど、リビングは使える状態ですので」


 というわけで、中にお通し。


「こちら、ファンレターです。一通り目を通しましたけど、アメリちゃんの年齢を気にする手紙が、ほかにもちらほらありますね」


 リビングで、紙袋たっぷりのファンレターを受け取る。ありがたいことです。ただ……。


「やっぱり、もうごまかし効きませんよね。なので、今月はこんな感じで進めようと思うのですが」


 プロットデータを呼び出す。改めて、確認する真留さん。


「概ね、良いのではないかと。そういえば、今日、ネームも拝見できるとのことですが」


「はい。頑張って仕上げました。こちらです」


 後半絵が雑だけど、まあ、ネームだし、突貫工事だしね……。


 無言でスクロールしていく真留さん。うう、緊張するなあ……。ボツったらどうしよう……。


「いくつか手直しいただければ、大丈夫です。まずここと……」


 微細な修正案をいただくので、その場で書き込んでいく。


「ありがとうございます。では、修正したもので、下書きに入らせていただきます!」


「お盆進行で、ご苦労をおかけします」


「いえいえ。私も、帰省楽しみですし」


 一段落つき、互いに茶を一服。


「そういえば、今日はアメリちゃんも、ほかの猫耳人間の子も、こっちに来ませんね。ありがたいですけど、少し寂しくもあります」


「ああー……アメリ、天才向け教育受けることになりまして、ほかの子も、それに引っ張られてか、真面目モードなんです」


「天才……!? 利発な子だとは思ってましたけど、天才なんですか!」


 真留さんもびっくり。


「はい、そのようです。IQ131だそうで」


 は~……と、ため息を吐く彼女。


「すごいですね。先生のご負担が、増えたとかはないでしょうか?」


「いえ、自業自得で昨日今日と、デスマーチしたぐらいですね。特別カリキュラムでは、契約締結に一日外出したぐらいです」


「仕事に差し障りがないようでしたら、うち編集部としては一安心ですが」


 アイス緑茶の二口目を、口に含む真留さん。外回り、喉乾きますよね。お手数をおかけします。


 遠慮する真留さんに、「お気になさらず」と、二杯目のアイス緑茶をお出しします。


「私が八日に私用で一日出払って、お盆は帰省する予定ですので、下書きの完成は、十七日以降になると思います」


「先生は締切を破ったことがありませんから、信頼しています」


 ありがたいお言葉。信頼って大事!


「お茶菓子、ごちそうさまでした。では、次の仕事に向かわなければいけませんので、これで失礼します」


「お疲れ様です。門までお送りしますね」


「ありがとうございます」


 というわけで、お見送り。


 さーて、ほぼGOサインももらったことだし、下書きに取り掛かりまっしょい!

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