「そういえば、『松風』いるじゃない? あの子って、クロちゃんの中では男の子、女の子どっちなの?」
三時になり、二度目の休憩タイム。私も仕事を一休みし、談笑の輪に加わっています。
そこで、例によって湧いてしまった素朴な疑問を、ぶつけてみることに。
ちなみに、三時ということでおやつにおせんべいを出しています。クロちゃんがせっかく来てくれているし、クッキーはさっき出したからね。お茶も、全員緑茶。もちろん、クロちゃんは濃ゆいの。
「松風ですか? ボクの中では男の子ですね」
まあ、予想通りか。松風なんて名前で女の子だったら、ちょっとあれだし。
「じゃあ、松風くんとして。彼、元気してる?」
「はい。ただ、長雨で手入れできなくて困ってます。お姉ちゃんも、花壇の手入れができなくて参ってるみたいです」
ふーむ。うちの庭で育てててるというか、生やしてるのは芝生ぐらいだけど、屋外園芸勢にとっては切実な問題だね。
逆に、うちのトマトとバジルは室内で育ててるから、そのへんは気楽だな。うちのトマトの木も、だいぶ大きくなったものです。実、早く成らないかなー?
アメリの育てている「みどりん」も、元気そのもの。ずいぶん蔦葉がにょきにょき伸びました。ポトスの丈夫さは、アメリみたいな子供が育てるのにちょうどいいかも。白部さんに感謝だね!
ほかに、クロちゃん関連の話題といえば……。
「話変わるけど、クロちゃんって将棋の強さ、今どのぐらいなの?」
「棋力ですか? まだ試合はしていないので、教室的にはわからないですけど、アプリでは三段の称号をもらってます」
ううむ、数字で言われてもピンとこないな。
「それって強いの?」
「先生によると、非女流でプロを目指すなら、あと二段欲しいレベルだそうです。ボク、女流じゃなくて、男性に混じって指したいんで。ただ、アプリでの順位付けですから、正確な棋力は教室の試合の結果次第ですね」
女流? 頭脳競技の世界にも、男女別けがあるんだ。まあ、競技人口が男女で圧倒的に違うだろうから、そうなるのか。ただ、クロちゃんの口ぶりからすると、女性が男性の世界に混ざるのはできるのね。
詳しくはわからない世界だけど、一歩一歩、プロへの門戸へ近づいているというのだけは、なんとなく伝わった。
クロちゃんとお話していると、くいくいと裾を引っ張られる。
その主は、アメリちゃん。
ははーん、クロちゃんとばかり話してるから、やきもち焼いちゃったか。可愛いなあ。
「アメリ、お勉強はどのぐらい進んでる?」
「小数っていうの習ってる!」
ほほー。
「どのぐらいまで理解できてる感じ?」
「えっとね、足し算と引き算をさっきやってた!」
おおー!
「すごいね! ありがとうございます、白部さん」
「いえいえ。本当にスポンジみたいに知識を吸収するので、すごく教えがいがありますよ」
「ミケだって負けてないわよ!? 同じとこ教わってるもん!」
「おー、ミケちゃんもすごいね!」
妹に対抗意識燃やしちゃうあたり、やはりプライドが高い。でも彼女の場合、それが向上心になっているからいいことだ。
「ボク的には、四年の漢字覚えてくれると、パズルの作りがいがあるんだけどな」
「う……それだってちゃんとやるわよ! だから、待ってなさいよね!」
ミケちゃん、テンション高いな。対象的に……。
「頭がフットーしそーだぞー……」
ノーラちゃんは、机に突っ伏してへばってました。
「ルリ姉~。体育館行きてー。運動してえ~」
「週末ね。文武両道っていってね、勉強できることも大事よ」
「暗記が多すぎるんだー。恐竜とか、そういうので楽しく覚えたいぞー」
それは同感。日本の学校教育、暗記多すぎよね。私は日本史取ったけど、年号ラッシュに人名ラッシュの暗記祭りは、二度とやりたくない。漢字覚えなくていいぶん、世界史にすれば良かったかな、なんてしょうもない後悔もしたっけ。
「そうね。楽しく勉強できる方法、帰ったら練ってみるね」
そう応える白部さんも、暗記で苦労した口かなー?
大学では、高校までとはガラリと学習方法が変わるそうで。先生から一方的に教わるのではなく、自分から貪欲に知識を求め、研究の成果を発表していくのが重要なんですって。やっぱり、大学行ってないとピンとこない感覚だなー。
「あー、でも歴史はキョーミあるぞー! あの山で見たような鎧着て戦ってたとこ、勉強してー!」
はは、ノーラちゃん……。歴史こそ、暗記祭りですよっと。
「あ、少し休憩時間を長く取りすぎたかな。では、再開ね」
「はーい」と、子供たち。
「では、私も仕事に戻ります」
お茶とおせんべい一袋を手に、デスクに着席。
来月末までには、次々号の連載と読み切り、両方の原稿ができてなければならない。そう考えると、あまりうかうかしてられる状況でもない。
袋の中でおせんべいを割りながら、気合を入れる。
とにかく、仕事をこなしつつ生活もしっかりと! 読者の皆さんに、「作者急病のお知らせ」を見せることだけは避けないとね!
そんな羽目になったら、特に自責の念からお手伝いに来てくださった優輝さんが、後悔と絶望でどうにかなりかねない。
おせんべいをかじりながら、すいすい筆を走らせる。途中、芦田さんと佐武さんに進捗を問うと、お二人とも順調なようだ。
子供たちもお勉強頑張ってるし、私も頑張るぞー!
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