「よーし! 送しーん!!」
突然大声を上げた私に、窓際で座っていた白部さんが驚き、こちらを見る。
「何かありましたか!?」
「あ、すみません。下書きが出来上がったもので。これからアシさんに送信するんです」
頭を下げながら説明。
「びっくりしました。とりあえず、何か異常が起きたとかではなくて良かったです」
彼女も頭をちょこんと下げて、子供たちの観察モードに戻る。
おっと、肝心の送信をっと……。ヨシ!
指示も送ったし、コーヒー牛乳のおかわりとアイスでも取ってこようかなー。
……戻り!
にょ? 子供たちが走り回ってますねえ。「だるまさんがころんだ」の動きじゃないな。
「遊びを変えたんですか?」
アイスの袋を開けながら、白部さんに尋ねる。
「はい。日差しも少し弱くなってきたのと、そろそろ別の遊びがしたいというので、シンプルに鬼ごっこを」
へー。
おーおー。やっぱりこういうシンプルなのは、ノーラちゃんのフィジカルが活きるわ。ミケちゃんも善戦してるけど、やっぱり走るための筋肉と、ダンスのための筋肉じゃ違うのか、なかなかノーラちゃんには追いつけないようだ。
かくれんぼでもさせてあげられるといいんだけど、うち隠れられるとこ、物置とガレージぐらいだものねえ。
おっと、いかんいかん。私のお仕事は、作画にそのまま移行なのですよ。
アイスを舐めながら、筆をすいすいっとね。
んーっ、シンプルなオレンジ味が美味しい。さすがの白部さんも、リンゴ味のアイスキャンディーは見つけられなかったか。だいたい果汁物アイスって、オレンジかグレープよね。
そんなこんなで、お仕事することしばし。
「猫崎さん。休憩タイムを取りたいと思いますので、また冷房を強めと、残りのスポドリをご用意いただけますか?」
「あ、はい」
PCの時計をちらりと見ると、鬼ごっこを始めてから四十分ほど経っていた。
とりあえず、窓閉め、リモコン、スポドリ~っと。
折りたたみ机と座椅子をそのままにしておいたからか、先に戻れたので、配膳しておく。
お、廊下からみんなの「ただいま」が聞こえてきましたよ。デスクに戻っておきましょ。
「ただいま戻りましたー」
「「ただいまー……」」
子供たち、ちょっとグロッキー状態。もう三時過ぎとはいえ、炎天下を四十分も全力疾走してたらね~。お疲れ様。
「おかえりなさい」
深い溜め息を吐きながら、着席する四人。ノーラちゃん、フィジカルは高めだけど、なんだかんだでまだ人間換算で八歳、しかも最年少だものねえ。
先ほどの白部さんのアドバイスも忘れて、みんなでスポドリ一気飲み。苦笑しながら、ちびちびやる白部さんでした。
「くはー! 生き返るぜー! 疲れたけど、やっぱ単純に運動っていいな!」
お、さっそく一人め蘇生。でも、相変わらず言葉がオヤジ臭いね。
「結局、一度もノーラを捕まえられなかったの、悔しいわ」
二人め、ミケちゃん蘇生。悔しいとは言うけれど、嫉妬心がこもってる感じはない。アメリ以外に対しても、吹っ切れたんだね。
「次はもっと、動きの少ない遊びがいいなあ」
三人め、クロちゃんも生き返りました。もともと、動き回るタイプじゃないもんねー。
「せんせー、何か新しいのなーい?」
ラストに、アメリちゃんも復活。
「そうねー。昨日調べたのだと……『夜行列車』とかどう?」
「ナニソレ?」
「四人で肩を掴んで並んでね、一番後ろの子以外は目をつぶるの。で、最後尾の子が、右に曲がるときは右肩、逆のときは左肩を握って、それを前にどんどん伝えていくのね。で、そうやって歩きながらゴールに着けたら成功って遊び!」
「ちょっと面白そうじゃない。あんまり疲れなそうだし。みんな、それでどう?」
ミケちゃんノリ気。みんなも、同意しました。
「じゃあ、それでいきましょう。危ないから、私がそばで見守るからね」
子供たち、「はーい」と元気にお返事。だいぶ体力が戻ってきた感じかな?
「良ければ、スポドリのおかわり持ってこようか? いいでしょうか、白部さん?」
「はい。だいぶ汗かきましたからね。ちょうど、二杯目飲ませたほうがいいなって思ってたぐらいです。今度こそ、ゆっくり飲んでね」
ふふ、と微笑む彼女。
スポドリの載ったトレイを手に戻ると、お礼を述べられる。
その後は、一同でちびちびやりながら雑談。
その最中、「お、おおおおお……」と、突然アメリが震え、マナーモードに突入。みんなが、一斉に心配する。もちろん、私はまっ先に。
「どうしたの?」
先ほど覚えた嫌な予感が、的中した!?
「わかんない。『明日、頑張りなさいよね』って言ったら、急に……」
ミケちゃんが、不安そうにこちらを見る。
「明日のこと考えたら、急に緊張してきた……」
IQ検査か!
「アメリ。もし特別カリキュラムが受けられなかったとしても、今まで通りが続くだけだから、緊張しなくて大丈夫よ。逆に受けられても、別に怖いことなんてないから」
「そーよ、ミケが認めたジマンの妹なんだからね! しゃきっとしなさい、しゃきっと!」
気持ちはありがたいけど、今のアメリにはプレッシャーになるだけかな、ミケちゃん。
「大丈夫。猫崎さんの仰る通りだから。何も心配しなくていいのよ」
白部さんも落ち着かせようと言い聞かせる。
「未来に備えるのは大事だけど、心配までいっちゃうと逆に良くないよ。ね?」
愛娘の頭を撫でて落ち着かせる。この子はしっかりしてるけど、ちょっとプレッシャーに弱いところがあるのよね。
「怖くない?」
私と白部さんを交互に見て、尋ねてくる。
「うん、怖くないよ。ですよね、白部さん」
「ええ。もっと気楽に構えよう?」
大人二人で必死に落ち着かせる。少し、震えが止まったかな? 巻いてしまったしっぽの緊張も、若干解けた気が。
「アメリ。ボクも、試合前はすごい緊張するよ。でも、リラックスって大事なんだ」
「おお……」
ん、震えが完全に止まったかな?
「落ち着いた?」
「うん」
「この後、ゲーム楽しめそう?」
ミケちゃんが色んな意味で心配になってか、尋ねる。
「大丈夫だと思う!」
気丈に、ガッツポーズとともに答える愛娘。
「うん、元気が出てよかった! では、よろしくお願いします、白部さん」
「はい。じゃあ、スポドリ飲みきったらお外行きましょうね」
「はーい」と四人。
その後、夕方までみんなで遊び、帰っていきました。
「アメリ、明日は気楽にいこうね!」
「うん!」
頑張ろうとは言わない。この子は頑張り屋さんだから、肩の力を抜くぐらいがちょうどいい。
「とりあえず、お風呂入ろっか」
こうして、心身ともにリラックスタイムに突入し、明日に備えるのでした。
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