つつがなく数日が過ぎた昼、インタホンの呼び鈴が鳴る。
「はーい、どちら様でしょう?」
「シロネコ便でーす、お荷物をお届けに上がりましたー!」
お、これはアメリ用のもろもろが、やっと来た感じかな。
門を開け、結構な量の荷物を受け取る。送り主から見ても間違いないね。「猫崎」の受領サインを書き記す。
「アーメリ、お洋服が届いたよー」
寝室でがぶがぶにかじりついてるアメリに、にこにこ顔で語りかけると、「おおー」と声を上げる。
「じゃあ、開けていきましょー」
テープを剥がし開封すると、ピンク基調の愛らしい子供服のお出ましー!
「じゃあ、着替え手伝うねー」
手伝いながら、私のTシャツから着替えさせる。
「あら、可愛い!」
「愛らしさ」という概念の擬人化が、顕現しましたよ! いや本当に可愛い。服を引っ張ったり、ジロジロ見たりしてるアメリの様子が、これまた可愛い。
「写真! 写真撮らなきゃ!」
スマホを手繰り寄せ、二人で撮影会。ああ、可愛い可愛い。語彙力が崩壊するぐらい可愛い。SNSで、この可愛さを拡散できないのが無念!
「よし、女豹のポーズいってみよう!」
「めひょー?」
「こんな感じ」
四つん這い招き猫ポーズを取ると、アメリもそれを真似る。今の私は、もはや悪ノリの権化だ。
しかし、正真正銘の猫耳少女による、女豹のポーズの実に様になること! しっぽの角度とか、作り物には出せないリアルさですよ。やっぱホンモノは違うわー。
「いいよ、いいよー! 次はこう、シナを作ってみようか!」
もはや、開封の儀式はどこへやら。なんちゃってグラビアカメラマンと化して、夢中で撮影ボタンをタップしまくる私でした。
◆ ◆ ◆
こんな調子で、我に返ったのは一時間後。まったく荷物の開封が進展していないことに気付き、再度アメリは着せかえ人形状態に。
うん、うん! どれも似合う! カワイイヤッター! と、奇妙な雄叫びを上げたくなる。あやうく、撮影会ラウンドツーを開催しそうになったのをこらえ、サンダルと踏み台も取り出す。そして、本日のメインアイテム!
「よし、被ってみよう!」
ぽん、と白いキャスケットを頭に被せる。うん、パッと見普通の子供にしか見えない。これなら多分大丈夫だ。
「アメリ! お外出てみようか!」
「お外! 行く行く!」
提案に食いつく彼女。これで、やっとお外出られるものね。かくして、アメリ公園デビューへ!
◆ ◆ ◆
アメリの手を引いて、近所の児童公園に向かう途中のこと、どうもすれ違う人々の視線が気になる。あれれ? 偽装は完璧だと思うんだけどな……。
そう思ってアメリを見れば、手のひらを舐めて、顔をくしくしと洗っている。あちゃー。
「アメリー、お外ではそれダーメ」
アメリの目の高さに屈み、人差し指でバッテンを作る。
「なんでー?」
「それは悪い意味でとても目立つの。人間じゃないってバレたら、変な人に追いかけ回されちゃうかもよ?」
びくり、と彼女が震え、こくこくと大きく頷く。うむ、聞き分けが良くてよろしい!
「わかった! ご主人様!」
「あー、それもアウツ。外では『お姉ちゃん』って呼んでね」
外でご主人様なんて呼ばれたら、何のプレイと勘違いされるやら。
かくして、再度アメリの手を引き公園へ。
◆ ◆ ◆
「とーちゃーく!」
やってきました、児童公園! 記念すべき、アメリの公園デビューの瞬間! そこそこの広さがある園内では、子供とそのママたちが、遊びにおしゃべりに興じている。
道中もそうだったけど、本当に色んなものを、珍しそうにきょろきょろ眺めるアメリ。道すがら「あれ何?」攻撃を受けまくったけど、それ以上の再攻撃が始まる。ブランコや砂場といった、遊具について説明していく。
外界は、アメリにとって初めて見るに等しい世界だ。ペットショップからうちに来たときと、ペットホテル、動物病院ぐらいしか外出の機会なかったものねえ。アメリと、こうしてお出かけできる日が来ようとは。しみじみ。
「ブランコ、やってみたい!」
リクエストに応え、ブランコに座らせる。
「そーれ!」
背中を軽く押すとブランコが揺れ始め、アメリが「おおー!」と感嘆の声を上げる。あんまり派手に揺らすとパニックを起こしそうだから、勢いは程々にしないと。
「こーえん楽しい!」
ブランコを満喫し、満面の笑顔の彼女。その後も滑り台やジャングルジムも攻略していく。
砂遊びにも興味を示したけれど、スコップもバケツも持ってきていないし、他の児童に混じらせて遊ばせるのは、もうちょっとアメリに人間としての常識を付けさせてからのほうがいいかな、と今回は見送らせた。
そのうち遊ばせてあげるから、そんなしょんぼりしないの。
さすがにアメリも遊び疲れて、ベンチに並んで座って休憩。ところがこの何気ない行いが、私とアメリにとって大きな転機となったのです!
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