「おねーちゃん、クロとお電話したい!」
ミケちゃんアタックの翌朝、もっそもっそと朝食のハニーバタートーストを食んでいると、対面のアメリがそんなことを切り出してきた。
「んー……? 別にいいけど、ご飯食べ終わって、頭がしゃっきりしてからでいーい?」
ふわあ、と大あくび。
「うん! 楽しみ!」
にこにこお陽様笑顔のアメリ。
ほんじゃー、頑張って頭しゃっきりさせますか。ふわあ……。
◆ ◆ ◆
「おはようございます。実はアメリがクロちゃんにお話があるそうで、代わっていただけますと。はい、よろしくお願いします。……おはよう、クロちゃん。アメリがお話したいんだって。代わるね」
最初にまりあさんを経由する必要があるのでまず彼女を通し、それぞれ子供たちにバトンタッチする。おっと、イヤホンイヤホン。
「おはよー、クロ! 今日、遊ばない? ……大丈夫だよ、ちゃんとミケとノーラも誘う! だから安心して! うん、うん。じゃあ、これから二人に声かけてくるね!」
アメリがスマホを返してくる。
「あのね、これからクロが遊びに来る! でねでね、その前にミケとノーラも誘ってくる! お出かけしていい?」
へえ。さっそくフォロー作戦ってわけね。朝だし、お隣さんとお向かいさんぐらいならアメリ一人でも大丈夫かな? このぐらいの距離でいちいちついて行くのも、過干渉な気もするし。
「いいよー。でも、白部さんのところに行くときは車に気をつけるんだよ」
「わかった!」
アメリがいそいそと着替え始める。あ、子供たちが来るなら私もスウェットじゃアレよね。着替えましょ。
◆ ◆ ◆
「ただいまー! あのね、ミケとノーラ、あと少ししたら来るって! あと白部せんせーも!」
アメリがとてとてと寝室に戻って来た。
「おかえり。じゃあ、おもてなしの準備しないとね」
とはいえ、もうすぐ来るんじゃお菓子買いに行ってる時間ないよね。コンビニなら間に合うかな?
「あ! あのね、優輝おねーちゃんが『ミケにお菓子と飲み物持たせるのでお構いなく』って伝えて欲しいって言ってた!」
あら、ありがたいこと。
では、引き続き原稿を描きながら待ちましょうか。
しばらくかりかりと筆を走らせていると、インタホンの呼び鈴が。さて、一番手は誰かな?
「おはよー、神奈おねーさん。あの……昨日はごめんなさい!」
応対すると、開幕ミケちゃんがお詫びしてくる。
「おはよう。大丈夫よ、私もアメリも別に気にしてないから」
「あの後、優輝にお説教されて……。ミケ、お姉ちゃんシッカクだわ……」
うーん、しょげちゃってるなあ。
「とりあえず、インタホン越しの立ち話も何だから、今迎えに行くね」
というわけで門へ。すると、ちょうど白部さんとノーラちゃんがお向かいから出てくるところが目に入りました。
とりあえず、ミケちゃんとお話してましょうかね。
「改めておはよう、ミケちゃん。大丈夫よ。失敗しない人なんていないから。大事なのは、反省と成長すること。多分、優輝さんもそう言ってたんじゃないかな?」
「おはよう。うん、優輝もそんな感じのこと言ってた」
優輝さんの性格だと、怒る・叱るというより説得するはずだからね。
「おはようございます。ミケちゃんもおはよう」
「おーっす! おっはよー!」
白部さんたちも合流。
「どうしたの、ミケちゃん。なんか元気ないね?」
白部さんがミケちゃんの、珍しい気弱な様子を心配する。
「あー、昨日ちょっと。あまり触れてあげないでいただけますと」
「わかりました」
その一言だけで、白部さんは承知していただけたご様子。
「あ、手ぶらも何だと思いましたので、こちらをどうぞ」
白部さんが、何かが入ったビニール袋を渡してくる。
「あら、ありがとうございます」
「そうだ、おねーさん。優輝から『お詫びも兼ねて』って」
ミケちゃんも、紙袋を渡してくる。
「ありがとう。あとでお礼言わないと。とりあえず、立ち話も何ですので中へどうぞ」
三人を寝室に通し、いただき物を開ける。ミケちゃんからはおなじみコラ・コーラ一.五リットルとマスペ五百ミリボトル一本ずつ。それとクッキー。白部さんの手土産は一リットル紙パック入りのリンゴジュースでした。
ミケちゃんとアメリにはコーラを、白部さんとノーラちゃんにはリンゴジュースを注ぎ、クッキーをお皿に空けて寝室へと運ぶ。
「どうぞー」
「ありがとうございます」
白部さんに続き、子供三人もお礼を述べる。まあ、みんなのいただき物出しただけなのだけど。
クロちゃんを待っていることを伝え、折りたたみ机を囲みしばし雑談に興じる私たち。白部さんは、アメリの包丁の扱いの上達速度に興味津々。やはり、仕事柄そこが気になるのねー。
ややすると、インタホンの呼び鈴が。クロちゃんかな?
「ちょっと、出てきますね」
リビングでインタホンに応対すると、果たしてクロちゃんでした。門まで迎えに行く。
「おはようございます……」
「おはよう」
うーん、やっぱりちょっと元気ないな。
「ミケちゃんね。昨日のこと反省してたよ。だから、クロちゃんもあまり自分を責めちゃダメ」
「ありがとうございます。ボク、ミケとぎくしゃくしないか心配で……」
「うーん、大丈夫だと思うよ。自然体でいこう」
「はい」
そういうわけで、クロちゃんも寝室に通す。
「あ、クロ……。おはよう」
ばつが悪そうなミケちゃん。
「おはよう。皆さんも、おはようございます」
白部さんがいるので、丁寧に挨拶するクロちゃん。やはりこちらも気まずい感じ。
「はいはい、二人ともこれ以上引きずらない! 楽しく遊びましょう」
二人とも、「はい」と返事する。
「あら、これはちょっと大人数ですね。すみません、猫崎さん。ベッドに腰掛けさせていただいてもよろしいですか?」
「あ、はい。ご自由にお使いください」
「ありがとうございます」
そう仰り、ベッドに腰掛け愛用のノートPCを立ち上げる彼女。今日は、四人の観察に徹するみたいね。私も仕事机に着席。
ちょっとぎくしゃくした感じの出だしだけど、どうなりますことやら。
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