「こんばんは~」
アメリ、まりあさん、クロちゃんと一緒にかくてるハウスへやって来ました!
お空にはまんまるなお月様が浮かんでいて、実にいいお月見日和!
「どうも、こんばんは。入ってください」
角照さんが門を開けて、私たちを中に招き入れる。上がって案内されるまま家の窓辺に向かうと、窓を開け放って他のメンバーとミケちゃんが月を愉しんでいるところだった。
もちろんというか何というか、斎藤さんの横には高級そうな日本酒の酒瓶が佇んでいる。
「こんばんは~」
これで、全員と挨拶を交わしたことに。
「おーっす、宇多野サン! 猫崎サン! アメ子にクロ子! 待ってたぜー! 早く、こいつ開けたくてしょうがなかったんだ」
酒瓶をぽんぽんと叩く斎藤さん。やはり、自慢の逸品なのだろう。
「本日はお日柄も良く……なんて挨拶は要らないか。月を見て、お団子とお酒をいただいて、めいめい楽しみましょう!」
角照さんの音頭取りで、お月見会が始まる。飲酒組のお猪口に、斎藤さん秘蔵の銘酒が注がれていく。斎藤さん本人は盃で一杯やるようで、まさに風流。下戸の木下さんと飲酒を遠慮したまりあさん、そして子供組には湯呑にお茶が注がれる。
お茶の注ぎ手は木下さんだけど、ちゃんと折り返しながら回し淹れていくあたり、実に気配りが細かい。きっと温度も、六十度ぐらいの適温なのだろう。
各自が持ち寄ったお団子は、いくつかの大皿に載せられた。
「いいお月様ですねえ~」
本当に、見とれてしまうぐらいきれいなお月様。昨日までの雨で雲が一掃されたおかげか、文字通り一点の曇りなき美しさ。
「本当ですね。風流ってこういうのをいうんでしょうね」
まりあさんが同調する。
「この、うさちゃん団子かわいいっすね! 誰が作ったんすか?」
「あ、それはアメリか私です」
早速「耳付きうさちゃん団子」に興味を示した松平さんに答える。
「じゃあ、ありがたくいただくっす。なんか食べるのもったいないっすけど……。ん、美味しいっす!」
「ありがとうございます」
お団子は冷やすと固まってしまうので、出かける前に軽くレンチンして柔らかくしてある。美味しかったようで良かった。
私は私で、斎藤さんの秘蔵っ子をきゅっと一杯。くう~、いい香りが鼻を抜けていく! そして、効く! これは間違いなくいいお酒!
「斎藤さん、これ美味しいですねえ」
「秋田の酒造から通販で直に買ったやつでね。お気に入りの銘柄の一つだよ」
彼女も、愉しそうに杯を傾ける。
「うーさぎ、うさぎ。なーにみてはねるー」
月を眺めながら、自然とおなじみの歌を歌いだす。
「おお~? 何の歌?」
「んー? 『うさぎ』っていう歌だよ。お月様にね、黒い染みがあるでしょう。あれが、うさぎがお餅ついているように見えるって、昔の人は考えたのね。で、月のうさぎを見ながらこれを歌うの」
「おお~」
アメリが感心する。
「みんなで合唱しましょうか」
子供たちに歌詞を教えた後、角照さんの音頭取りで合唱が始まる。
「そうだ。写真撮りましょうよ。優輝ちゃん、三脚借りるね」
合唱が終わると、木下さんがぱたぱたと家の奥に駆けていく。ややあって、三脚とデジカメを片手に戻って来た。
「タイマーセットしますね。よし、じゃあ笑顔でお願いします」
パシャリ! フラッシュとともに、木下さんも入った集合写真が撮影される。彼女が撮影具合を確認すると、「OK」と頷く。
「せっかくだから、月も撮りましょうか」
再度ぱたぱたと奥に行き、望遠レンズ片手に戻ってくる。そして、それをカメラにセットしてパシャリ。
「うん、いいのが撮れた。あとで、お二人にも送りますね」
私とまりあさんを見ながら笑顔を向ける。
「そうそう。月といえば小惑星が衝突して、亀裂が入ってね……」
「ミケちゃん」
滔々と語りだすミケちゃんに釘を差すと、「まあ、作り話なんだけど」と付け加えてくれた。それにしてもお月見会で、月が壊れるB級映画の話を始める幼女って一体……。当の角照さんはお酒が入ってるからか、その様子を見て変な苦笑してるし。
クロちゃんは、黙々と三家の月見団子の食べ比べをしている。
「クロちゃん、うちのお団子どう?」
「美味しいです……。二種類のうさぎさん、すごくかわいい……」
はにかむ彼女。ほんと、こういうリアクションがすごく可愛い。
私も、まりあさんのお団子をいただいてみよう。黄色やピンクに茶色とカラフルで、私が作ったのとはまた別の華々しさがある。黄色いのをいただくと、かぼちゃの味がする。かぼちゃを練り込んで黄色くしてるんだね。
角照さんたちのは、お団子にあんこやきなこをまぶしたもの。これもうまし。
「アメリ、お月見どう?」
「楽しい! またやりたい!」
「そっかそっか。じゃあまた来年、晴れていたらみんなでやろうね」
キャスケット越しに頭を撫でると、いつものように「うにゅう」という気の抜けた声を上げる。
お団子とお酒が尽きると、しばし月を眺めた後、誰ともなく「そろそろお開きにしましょうか」と声を上げる。
名残惜しいけど、このままぼーっとしてても何だし、もうすぐ九時。そろそろアメリを寝かせないと。
「そうですね。また来年、楽しみましょう」と、お開きに同意する。
私が飲酒しているため、まりあさんとクロちゃんは木下さんがバンで送ることに。七人に手を振り、別れを告げる。
優しく光るお月様に見守られながら、手を繋いで家に戻りました。
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