神奈さんとアメリちゃん

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第七十話 名探偵・真留さん

公開日時: 2021年4月18日(日) 21:01
文字数:2,288

約束の二時、真留さんとリビングで打ち合わせなう。


 それはまあ、いいのだけど……。


「なんか、今日のアメリちゃん、いつもと雰囲気違いますね?」


 少々困惑気味な真留さん。


 アメリの彼女への懐き方は、猫時代から「ごろにゃん、すりすり」という感じなのだけど、今日は腕にぴとっと絡みついて、じーっとしている。


「あー、アメリにもちょっと色々あったんですよ」


 我ながらなんとも表現し難い微妙な表情で、言葉を濁す。アメリが歌謡コンテストに落ちた話なんかしたら、また凹ませちゃいそうだし。癒えてない生傷に触れるのは良くないよね。


「それはさておき、どうですか新展開?」


 今回のプロットはわざわざ取材したのだから、当然優輝さんたちが登場するお話。「あめりにっき」にほかのレギュラーが絡んでくるというのは初の試みで、はてさてどうでしょうという感じ。


「このお隣さんというのは、やはりあのお隣さんですか?」


 壁側で見れないけれど、かくてるハウスがあるほうに視線を送る真留さん。


「あ、はい。こないだ、真留さんがいらっしゃったのと入れ替わりに越してきまして。仲良くしていただいています」


「なるほど。このミキちゃんというのも、猫耳人間ですよね」


「うぇっ!? え、あ、その……」


 唐突に、ミケちゃんを猫化させた姿であるミキちゃんの正体をいきなり言い当てられ、心臓が止まりそうになる。


「ああ、口外はしないので安心してください。驚きましたね。ほかにも猫耳人間がこんな近くに……」


 私の反応で確信したようで、こともなげに話を進めていく真留さん。いやはや、かなわないな。


「なんでわかったんですか?」


「簡単な話ですよ。前回から、アメリちゃんのモデルは今のアメリちゃんになっていますから、そんなアメリちゃんと仲良く遊んでたら、これはもう猫耳人間以外にありえないじゃないですか」


 紅茶をひと口飲む彼女。


「あとなんていうんでしょうね。アメリちゃんに対してお姉さん的というか、そういう接し方をしてるので、普通の猫ではないなと気付きました」


 ううむ、さすが真留さん。探偵としてもやっていけるんじゃないかしら。真留さん主人公のミステリとか面白そうね。残念ながら、ミステリ描くのは得意じゃないけど。「ねこきっく」向けの題材でもないしなー。


「ただ……登場人物が一気に四人と一匹増えるのは、ちょっと多すぎる気がしますね」


 人間の脳の働きに、マジックナンバーというものがある。人間が一度に無理なく把握できる事柄は、四つまでなのだ。たとえば、いろんなカードの暗証番号が四桁だったり、クレジットカードの番号が四桁刻みなのもそういう理由からだったりする。


「あー、じゃあ史実・・通りにしましょうか?」


 初日に優輝さんとミケちゃんが越してきて、後日ほかの三人が越してきたことを説明する。


「なるほど、それがいいと思います。ただ、ほかの三人が越してくるのは次々回にしましょう。多分その頃には、ちゃんと無理なく由加ゆかとミキは読者の記憶に刷り込まれているはずなので。まずは、この二キャラを読者さんに覚えてもらいましょう」


 由加というのは、優輝さんの漫画内での偽名。


「わかりました。ではそのように直して、あとでまたプロット送ります」


「はい、よろしくお願いします。また立て続けに伺うのも何なので、そちらは電話で打ち合わせしましょう。ただネームなんですけど、こちらはいただいたら、また打ち合わせに伺ってもよろしいですか? 新レギュラーを出すというのは『あめりにっき』初の試みなので、慎重に行きたいんです」


 真留さん、堅実派だからねー。私がうっかり失念していた、マジックナンバーにも気を回すし。特に、こういうチャレンジ・・・・・にはとても慎重になるタイプなのよね。


「はい。では、そのようにしましょう」


 というわけで、打ち合わせはお開き。


「アメリちゃん。何があったかわからないけれど、元気になってね。今度会ったときは、またいつもみたいな感じで甘えてほしいな」


 真留さんがアメリの頭を撫でると、「うにゅう」と気の抜けた声を上げる。


「では、失礼します」


「あ、門までお送りしますので」


「真留おねーさん、またね」


 というわけで、真留さんを門まで送り再度別れの挨拶を述べ、リビングに戻る。


 ティーカップを片付けてアメリと一緒に寝室に戻り、デスクトップPCのスリープを解除。


「およ?」


 PC用LIZEに新着メッセージが。打ち合わせ中でスマホの電源切ってたから、スマホのほうに来てたのに気づかなかった。ノーパソのほうにはLIZE入れてないし。


 送り主は優輝さん。「F公園の紅葉が紅くなったら、紅葉狩りピクニックでもご一緒にいかがですか?」という内容。グループチャットだからまりあさんも参加していて、すでに賛成済み。


 F公園は私の住まいからそれほど遠くないところにある公園で、その割には意外と遊びに行ったことがない場所だ。


 「いつごろになります?」と送ると、「まだ葉が青いので、おそらく十一月以降ですね」とのお返事。まだ十月中旬に入ったばかりなのに、気が早いなあと苦笑。


 「原稿の立て込み具合にもよりますけど、OKですよ」と返事すると、ガッツポーズ猫スタンプとともに、「楽しみにしてます!」とメッセージが届く。


 紅葉狩りかあ。そんな風流なイベント、なんだかずいぶん久方ぶりだなー。


 まりあさんや優輝さんたちとの出会いで、私の生活も色づいていく。ご近所さんとはそれなりにお付き合いがあるけれど、一人でアメリと暮らしながら漫画を描いているだけだったら、きっとこんな潤いのある日々にならなかっただろうな。


 うん、紅葉狩りが楽しみだ!


 そのためにも、お仕事頑張らないとね!

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