神奈さんとアメリちゃん

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第四百九話 思いっきり甘えてください!!

公開日時: 2021年11月16日(火) 21:01
文字数:2,112

 うずうず。


 うずうず。


 また、私のよろしくない虫が、うずき出してしまった。


 愛しい愛しいアメリちゃんを、構い倒したい!


 とにかく最近、お仕事や集団行動が多く、一対一でじゃれ合う機会がなかったんですもの!


 先ほどから、仕事も手につかない有様だし……。


 これではいけないので、朝のうちに、欲求不満を解消しておきたいのデス!


「アメリちゃん、お願いがあります!」


「おお?」


 ベッドに腰掛け、いつものように教科書を読んでいた愛娘に語りかける。


「思いっきり甘えてください!!」


 深々と頭を下げるワタクシ。


「おお~……。おねーちゃん、何で頭を下げるの?」


「だって、私のワガママだもの」


 突き出した唇に、人差し指を当てる。


「アメリは、おねーちゃんに甘えるの大好きだよー!」


 そう言い、本を置いて私の横に立つ。


「おねーちゃん、お膝~」


「ありがとう! おいで~」


 椅子をひねり、膝をぽんぽん叩くと、ちょこんと腰掛けてくる。ああ……幸せ~!


「アメリ、また重くなったかな?」


 愛娘の成長を、ひしひしと膝の重みで感じる。


「おお? これ、できなくなっちゃうの?」


「しばらくは大丈夫だと思うよ」


 アメリの思春期の訪れが早いか、肉体の成長で膝の限界を超えるか。どっちが早いだろうね。多分、前者かな……。


 膝に乗せたまま、ぎゅーっと抱きしめ、頭に頬ずりする。白部さんの奇行をどうこう言えないレベルだな、私も。


「アメリ、大好きだよ。この世で一番愛してる」


 お父さん、お母さん、ゴメンナサイ。でも、やっぱりアメリが私にとって一番なの。


「アメリも、おねーちゃんがこの世で一番好きー」


 娘も、預けた頬に頭を擦り付けてくる。鼻頭に当たる、猫耳の感触がこそばゆい。


 親子のスキンシップ。いつまで、できるのかな。アメリが大人になってもこうできたらいいけど、それはきっと無理な話。そのときは、悲しむのではなく、娘の成長を素直に喜ぶ自分でありたい。


 どのぐらい、幸せな時間が過ぎていっただろうか。


「おねーちゃん、絵本読んでー」


「うん。膝枕しながら、読んであげるね」


 嬉しいリクエスト。


 「何がいい?」と問うと、「うどんのめがみさまと あいのてんし」がいいとのことで、膝枕して読みかせる。


 読んでいる最中、視線をしっぽにやると、ゆっくり振っている。リラックスして、聴いてくれている証拠だ。


 幸せだな。なんて幸せなんだろう。十四年、一緒に暮らしてきて、そして一度お別れしたアメリとの、ボーナスタイム。


 ペットを愛するあらゆる人が、「虹の橋の女神様」の恩恵に預かれたらいいのに。


 白部さんによると、今のところ「犬耳人間」とか、「鳥翼人間」とか、そういう存在の報告例はないらしい。


 猫にだけ稀に起こる、不思議な現象。


 なぜ猫だけなのか、どういう基準で転生させているのか。それは女神様に訊いてみないとわからない。


 この世に二百人弱、こういった幸運に恵まれた人がいる。……転生しても、早世してしまった子もいるようだけど、それでも私たちのように、再び幸福な暮らしを手に入れた家庭がそれだけあると思うと、感無量だ。


 その中には、大切な友人が三人もいて。不思議なご縁……特にまりあさんとは、そうして親しくなった。


 子供たちも、愛を受けて育った素敵な子たち。猫耳人間の存在がオープンになった今、交流コミュニティを作るのもいいかもしれないな。


 外国語はわからないけど、少なくとも国内の猫耳人間の親御さんたちとは、ご縁を持ってみたい。どんな人がいて、どんな風にかつての愛猫と接しているのだろう。女神様が選んだ人たちだから、きっと優しい人たちなはずだ。


 そんなことを得意のマルチタスクで考えながら絵本を読んでいると、穏やかな寝息が聞こえてくる。


 リラックスしすぎて、寝ちゃったんだね。


 しばらくこのままでいよう。テレビを無音にして、適当にチャンネルをつける。料理番組がやっていた。字幕をオンにする。


 八宝菜かー。今度作ろうかな。


 アメリの吸収力はものすごく、料理についても、ほとんど教えることがなくなってしまった。もっと料理に慣れたら、一人でちょっと凝ったメニューを、作れるようになるかもしれない。


 この子はすごいな。白部さんがおっしゃるには、猫耳人間の中でもことさら学習能力が高いらしい。こういうのを、ギフテッドというのだろうか。


 でも、たとえアメリが凡才でも、あるいはそれより劣っていたとしても、私の愛は決して変わらない。アメリはアメリなのだから。


 能力の優劣で愛情を変える……そんなことは絶対しないと、心に誓ってはっきり言える。


 ただこの子には、優しい子に育って欲しい。より幸せな、第二の人生を送ってほしい。そのために、私はあらゆる愛情を注ぐことを辞さない。


 ……む。トイレ行きたい。アメリと戯れる前に行っておかなかったことを悔やむが、後悔先に立たず。やむなく、膝枕を解除。


「……おお? アメリ寝ちゃってた?」


「ごめん、起こしちゃったね。ちょっとおトイレ行ってくる」


「アメリにも、次行かせて~」


 寝ぼけ眼をこすりながら、予約する。


 今日も我が家は平和だ。


 アメリちゃん成分も十分チャージしたし、さすがに、トイレから帰ったら仕事再開しないとな。


 頑張るぞー! えい、えい、むん! あ、その前にトイレ~!!

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