神奈さんとアメリちゃん

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第三百七十五話 クロ謹製パズル、再び

公開日時: 2021年10月8日(金) 21:01
文字数:2,966

「いやー、本当に夢を見せるプロの仕事でしたね。私、最後のパレードなんか心が小学生まで戻ってしまいましたもん」


 ぐっすり眠った翌朝、仕事しながらまりあさんと電話でお話し。ピュアランドの感想で盛り上がり中です。


「わたしも生まれからF市お隣ですけど、あんなに素晴らしいところに今まで行っていなかったことを後悔しました。絵本作家として、本当に収穫だらけで」


 「ねこきっく」の主読者層は成人女性だけど、そこで漫画描いている私でも、すごく得るものがあったのだ。児童向け絵本を描いている彼女は、さらに大きな影響を受けたことでしょう。


 あそこには、大人すらも夢の世界へいざなう仕掛けや心構えが徹底されていた。


 私も、まりあさんやかくてるの皆さんも、お客さんに現実からひととき離れてもらい、物語の世界へ没入させることと引き換えに、お金を得ている。


 そういう意味では、ピュアランドの皆さんのお仕事と、何も変わらない。


 むしろ、私はあの域に達しているだろうか? と、自分を見つめ直してしまう。


「あ、そうだ!」


 まりあさんが、何ごとか思い出されたか思いつかれたような声を上げる。


「昨日の今日で恐縮なんですけど、今朝、クロちゃんがお勉強会に参加したいと言っていまして」


「あいにくと昨日サボったぶん、今日はお仕事に打ち込まなければなりませんで……。白部さん次第ですね。場所を提供するのは、一向に構いませんよ」


「わかりました。私から、LIZEで皆さんにお声がけさせていただきますね。では、一旦失礼します」


 うちを使う以上、私も顔を出さないわけにはいかないね。先ほどご挨拶したばかりだけど、LIZE再起動~。


 まりあさんが勉強会をご提案すると、皆さんお子さんに意思確認。うちも、お嬢様に訊いてみましょう。


「アメリー。今日、お勉強会しようって話が立ち上がってるけど、どう?」


「おお、みんなも来るの!? やりたい、やりたい!」


 理科の教科書を読んでいた愛娘が顔を上げ、キラキラした瞳を向けてくるので、「アメリもノリ気です」と答える。


 ほかの子も同様なようで、白部さんも例によって教員としてご参加表明。まりあさんが「わたしが言い出しっぺですから、クロちゃんにお菓子持たせますね」とおっしゃるので、ご厚意に甘えさせていただきましょう。


「クロちゃん、自転車ですか? 危なくないでしょうか」


 由香里さんが心配される。


「毎回、神奈さんに送り迎えしていただくわけにもいきませんし、いつかはやらせなければいけないことですから」


 まあ、そうね。クロちゃんだって、そろそろ一人で色んな所行くの再開したいだろうし。


 幸い、このへんは不審者が出たとかいう話も聞かない。


 それじゃあというわけで、一時にうちに集合という話になりました。昨日、買い物もサボっちゃったからな。みんなが来る前に行っときますか。



 ◆ ◆ ◆



 一時手前になり、最初のお客さん。誰かなー? と応対すると、ミケちゃんでした。


「あら、今日は送りの方なし?」


クロが一人で来るのよ? お姉ちゃんがそれじゃ、恥ずかしいじゃない」


 さすが、プライドガール。まあ、彼女も猫耳モードになった今でも、自由に一人で出歩けるようにならなきゃだしね。


 ミケちゃんとそんな会話をしていると、白部姉妹が家から出てくるのが見えました。手を振ってアピール!


 こちらにやって来た二人とご挨拶。


 クロちゃんは遠いし、もう少しかかるかな? とりあえず、三名様ご案内~。


 三人を寝室に通すと、再びインタホンの呼び鈴。クロちゃんかな?


 応対すると、やはりそうでした。挨拶を交わした後、さっそく中へ通します。


 こうして、今日も猫耳ガールズの勉強会の始まり始まり~。



 ◆ ◆ ◆



「あ、もう三時。早いなー。みんな、休憩しましょうか」


 白部さんの声で、私も随分熱中していたことに気づく。


「私も少し休憩しますね。今、お茶菓子用意します」


「お手数おかけします」


 うーん、と伸びをした後、五人に見送られキッチンへ。クロちゃんに渡してもらったお菓子を用意する。あら、芋羊羹。美味しそうね。


 緑茶とともにトレイに載せ、寝室に戻り!


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


 白部さんと子供たちからお礼を言われ、私も座布団を出して机を囲む。


「アメリ、調子はどう?」


「結構、漢字書けるようになった!」


「そっかー。頑張ったねー」


 頑張る我が子に、微笑む。


「白部さんから見て、アメリはいかがですか?」


「相変わらず、勉強熱心ですね。飲み込みも早いです。あとで、漢字テストを出してみようと思います」


 ほほー、もうそんなとこまで!


「あ、そうだ」


 不意に、クロちゃんが声を上げる。


「また作ってきたよ、二字熟語パズル」


 鞄から、紙を四枚取り出す彼女。


「お姉さんたちのぶんもあります。もしよければ」


「あら、ありがとう。あとで、やらせてもらうね」


「はい。今回は、アメリとミケが小三向け漢字を覚えたので、それに合わせました」


 ちょっと自信気なクロちゃん。可愛い。


「アタシのはないのかー?」


「ごめんね。せめて小二向け漢字を覚えてからじゃないと」


 申し訳無さそうなクロちゃんに、「ちぇー」と言うノーラちゃん。


「こら。わざわざ作ってくれるのに、そんな口聞いちゃダメでしょう」


「ゴメン」


 白部さんにたしなめられてしまいました。


「教科書買われたんですね」


 本棚の教科書に気づいた白部さんが、話題を振ってくる。


「はい。昨年のものなら安いし実用に堪えるかなと、中古で買ってみました」


「教科書だけで、学習十分そうですか?」


「アメリも読み始めたばかりなので、まだなんともという感じですね。ただ、順調そうな感触は受けます。そこのところどう、アメリ?」


「おお? 結構ためになる!」


 真に力強いお言葉。


「そっかー。うちも、買ってあげようかしら。ノーラちゃん、読んでみる?」


「んー……漢字と算数だけじゃダメかー?」


「そうね。理科とか社会も知っておいたほうがいいと思うよ」


 「うーん……」と、いまいちノリ気じゃない様子。やっぱり、体動かすほうが好きなんだろうな。無理強いしても能率って上がらないからねえ。


 とりあえず、私が口を挟む問題でもないので、お二人で話し合ってもらうほかないね。


 そんなこんなで、休憩時間終了。お皿と湯呑を片付け、デスクに戻る。お仕事再開~!



 ◆ ◆ ◆



 うーん、目がしぱしぱするぅ~。目薬、目薬~。


 ……ふう。もう四時か。早いなー。ちょっと、さっきのパズルでもして休憩しようかしら。どれどれ、どんな問題かな?



  今   短   年   黒   命

 時?日 元?合 時?金 面?線 地?間

  待   温   行   次   心



 ほうほう。ええと……一問めはこれかな? 二問めは……。


 ふむ、これで多分正解じゃないかな?


「クロちゃん、勉強の邪魔してごめん。これ、合ってる?」


 問題用紙に記入した答えを見せる。


「……はい、全問正解です。お見事です」


 あら、嬉しい。褒められちゃった。


「楽しかったよー。また何か作ったら遊ばせてね」


「はい」


「じゃ、お勉強頑張ってねー」


 るんるんとデスクに戻り、お仕事再開~。


 その後、子供たちの勉強も順調に進み、お開きとなりました。アメリちゃんの漢字テストの成績は、マスターまではまださすがにいかないけど、なかなかだったようです。


 そんなうちのお嬢様が、勉強会後の息抜きにパズルをやったので、私が代わりに採点。


 全問正解! さっすがアメリちゃん!


 今日も一日が、こうしてのどかに過ぎていきました。

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