シアター・かくてるで談笑しながら映画を楽しんでいると、優輝さんが「できましたよー」と声をかけてきたので、皆でぞろぞろとダイニングへ移動する。
例によって椅子を一脚無理やり増設して九人掛けにしてあり、粛々とテーブルにつく。優輝さんが配膳し、由香里さんが各人好みの飲み物を用意する。もちろん、例によって久美さんは白ワイン。休肝日ちゃんと設けてるのかしらなどと、妙な心配をしてしまう。
私はというと、さすがにパエリアにマスペはどうだろうと思い、砂糖抜きのミルク多めでホットコーヒーをいただくことに。
「ん、準備オーケーですね! じゃあ、いただきましょう!」
エプロンを外して最後に着席した優輝さんがまとめの言葉をかけると、いただきますの九重唱。
いやー、パエリアなんてオシャレねえ。サフランライスの黄に、イカ、アサリ、エビ、パプリカの豪華さが映える。ミケちゃんのお皿からは、きちんとパプリカが除かれていた。
「すごいですねえ。作るの大変だったでしょう?」
「まあ、楽ではなかったですけど、あたしこういう会食大好きですからね。苦にはならないですよ」
からからと明るく応える優輝さん。本当に、こういうの好きなんだなー。
とりあえず、ひと口いただく。あら、とっても美味しい! ほかの皆さんも彼女の腕前を褒め称えると、「いやあ、それほどでも」と照れる。
「優輝って料理の腕前、うちらでは由香里と一、二を争うよな」
「いやー、由香里が一番じゃないですかねー? でもまあ、キャンパーですからね。外で色々作って食べるのって、キャンプの醍醐味ですから。慣れですよ」
久美さんが、ワイングラスを傾けながらべた褒め。優輝さん、ほんとに照れくさそう。褒めるときは素直に人を褒めるところが、チーム年長者としての人望なんだろうな。
「ところで、肝心のハロウィン衣装のほうはどうするっす?」
「あー、そだね。その話しないと。そのために集まったわけだし。ちなみに、服を仕立てるのに自信ある人ー」
優輝さんが問うと、まりあさんと由香里さんが挙手。さすが。この二人、絶対女子力が五十三万ぐらいあるよね。
私も、アメリの服を少し改造できるぐらいの腕前はあるけれど、さすがにゼロから一着作るほどのスキルはない。
「とはいえ執筆が佳境なので、あと十日ほどで一着仕立てるのはちょっと難しいですね」
まりあさんが難色を示す。こういうところ、私とまりあさんのネックよね。シングルマザーやってるようなものだから。
「さすがに、由香里に丸投げ……ってわけにもいかんよなあ」
「ですね。わたしもまだ、だいぶ仕事ありますし」
「背景描くだけだったら、自分が代わってもいいんすけどねー」
久美さんの言葉を受け、肩をすくめる由香里さん。そうよねえ、彼女背景以外にも管理職やってるものね。
「いっそ耳と尻尾フルオープンして、『がおー、猫娘だぞー』ってのはダメっすかねー」
「さすがに、色々問題になると思うよ」
紅茶片手に、首を横に振って苦笑する優輝さん。
「よし、仕方ない。サンチョ・パンサあたりのありもんで済ましますか」
優輝さんが代案を示すと、皆から賛成の声が上がる。
サンチョ・パンサというのは超有名ディスカウントストア。種々雑多なものが売られており、こういうパーティーグッズを手に入れるなら、たしかにここだろうというチョイス。
「んじゃ、それはそれでいいとしていつ買いに行くっす?」
「あたしは今からでも構わないけど……神奈さんと宇多野さんのご予定は?」
「私は特に問題ないです」
「わたしも、車に乗せていただけるのでしたら、サンチョへ買い物へ行くぐらいなら特に問題ないですね」
ふむふむと、優輝さんが頷く。
「久美さんたちには留守番してもらうとして、六人は……子供が三人でもちょっと無理そうだな。神奈さんは神奈さんで車を出していただけますか?」
「わかりました。まりあさんは、どちらに乗っていかれますか?」
「そうですねえ……。では、神奈さんのほうでお願いします。さっきバンに乗せていただきましたけど、キャンプ道具が多かったので、荷物を乗せるなら神奈さんの車のトランクのほうがいいかな、と」
「なるほど、了解です。ではお願いします、神奈さん」
「はい。あ、素朴な疑問なんですけど……この会食、白部さんはお誘いしなかったのでしょうか?」
彼女は今回のハロウィンと縁がないわけだけど、優輝さんの性格的にお誘いしないというのも引っかかる。
「あー……お誘いはしたんですけど、ノーラちゃんが気になるのでと、恐縮されながらお断りをいただきました。なのでせめて、あとでパエリア持っていこうかなと」
なるほど。確かにノーラちゃんのこと、色々大事な時期だもんね。
「あ、それだったらわたしが持っていくよ。だから、優輝ちゃんはサンチョのほうへ行っちゃって大丈夫」
「んじゃ、洗い物は自分がやっとくっすかね。まあ、食洗機に突っ込むだけの簡単なお仕事っすけど」
「助かる。じゃあ、お願いするよ」
頭を下げる優輝さん。こういう協力関係っていいなー。ほほえま!
話もまとまったところで、再び雑談を交えて食事。例のゲームの話を振ってみると、ベータ版とやらができるまであと四割程度らしい。順調そうで、良き哉良き哉。
食後は優輝さんにお礼を述べ、まりあさん、クロちゃん、さらにミケちゃんと一緒に自宅に戻り、ガレージから車を出す。
なんでミケちゃんまで一緒かというと、道中アメリたちとお話したいから、とお願いされたのです。三人は仲良しさんだね! 実にほほえま!
ではいざ参りましょうぞ、サンチョ・パンサへ!
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