ペンをすいすい走らせていると、スマホがお昼手前を知らせてくれました。
「おっと。それでは行きましょうか」
ぞろぞろとキッチンに向かう私たち。
さて、お昼をごちそうしますなんて意気込んだけれど、実のところお昼の材料はさきほど買いに行こうと考えてたのよね、本来。
えーと、冷蔵庫にあるのは……おなじみ、パン、卵。冷凍庫は……来客に冷食出すものなあ。見るまでもないか。
ふむ、どうしようかな。ピザとかお蕎麦の出前とってもいいけど……。あっ!
「白部さん。アメリ一人で作るごはんってご興味あります?」
ふとしたひらめきを尋ねてみる。
「あ、はい。拝見できるのでしたら、ぜひ!」
「ですって、アメリちゃん。じゃあ、私の指導でサンドイッチを作ってみよう~!」
「おお~! 頑張る!」
災い転じて福となす……は大げさだけど、白部さんもアメリの成長具合をご確認されたいのではないか? という思いつきは、的を射ていたみたい!
お菓子はお隣さんで一緒に作ったことあるけど、あのときは白部さんも自分の調理にかかりきりで、ほかのグループを見ている余裕なんてなかったはずだしね。
アメリが主役でも私の脳内MP3プレーヤーでは例の三分でクッキングするBGMがスイッチオン! それじゃー、いってみましょー!
「アメリちゃん。まずはこの手鍋ね。これにお湯を沸かしましょう~。あ、白部さん。よろしければ、ぜひ間近でご覧ください」
「ありがとうございます。では、近くで拝見させていただきますね。ノーラちゃんも一緒に見よう?」
「おー! アメリの腕前、見せてもらうぜぇ~」
ノーラちゃん一人暇になっちゃうものね。あまり広いキッチンではないけれど、まあ何とか。
「おおー……緊張するー。えーと、お水張って、火をこのぐらいにして……」
「うんうん、その調子!」
パチパチと拍手。私たちの様子を、それは興味深そうに観る白部さん。研究者の瞳だ。
「じゃあ、お湯が沸くまでの間、ツナサンドを作ろう! はーい、冷蔵庫から、パン四枚と戸棚は……ちょっと高いから、私がツナ缶取るね。アメリは、まな板の上にパン二枚載せてちょうだい」
「はーい!」
戸棚からツナ缶二つ取り出してっと。
「そっちは……用意できたみたいね。じゃあ、パンの耳を切り落として取っておいてちょうだい。あとで別のおやつに使うから」
すっと、きれいに切り落とすアメリ。
「お上手! じゃあ、せっかくだから缶詰の開け方も覚えようか。ここにタブ、輪っかみたいのがあるでしょう。これを爪で引っ掛けて起こして」
「ん……固い~」
アメリが何度か挑戦すると、カシャという音を立てて開封できた。
「じゃあ、少しだけめくったら、余分な油を流しに捨てて……そうそう。あとは、完全にめくって蓋を外しちゃって、ツナをお箸でパンの上に、なるべく平らになるように載っけよう」
「わかった!」
もりもりと盛り付けていくアメリちゃん。
「上手、上手!」
パチパチと拍手すると、「えへへ」と照れる。
「じゃあ、次は胡椒を軽く振ろう……そう、OK! で、マヨネーズをかけて。……おけ、そのぐらいでいいよ。あとはパンで挟んで。あとは、サンドイッチを斜め半分に切ろう……そーう、上手上手!」
頭をわしゃわしゃ撫でると、「うにゅう」というおなじみの気抜け声を上げる。
白部さんは、一部始終をくまなくじっと見ている。なんか、私のアメリへの接し方も、しっかり観ているみたい。
「さあ、ツナサンドを作ってるうちにお湯が湧いたね。次はゆで卵を作ろう。作り方は覚えてるかな?」
「大丈夫!」
「何分茹でればいいかも覚えてる?」
「えっと……」
うんうんうなって必死に思い出そうとするアメリ。
「半熟なら七分だったね。でも、サンドイッチ用だから完熟、十二分茹でよう。じゃあ、ゆで卵を二個作りましょー」
「頑張る!」
卵のお尻に爪楊枝で穴を空け、お鍋に投入する彼女。この間に、またパンの耳を切っていてもらう。
茹で上がるまでやることがないので、四人で雑談。
「いかがでしょう、アメリの様子は?」
「すごいの一言です。包丁の使い方は、いつ頃から教えられてます?」
「そうですね……まりあさんたちとパッキーゲームした少し前のはずだったんで、十一月の初旬だったかと」
「パッキー……いえ、ということは、包丁歴三ヶ月ですか。上達が早いですね」
まりあさんたちとパッキーゲームというパワーワードに一瞬面食らいながらも、すぐに我に返り、三ヶ月とは思えぬ包丁さばきに舌を巻く白部さん。
「それと、ガスコンロが使えて、ゆで卵も作れるというのに驚きました。ずいぶん熱心に教えられた感じでしょうか?」
「いえ、それぞれ一回教えただけで大体覚えてくれましたよ」
さらに驚く白部さん。
「アメリって、猫耳人間でも特別に物覚えが良かったりするんですか?」
「サンプル数が少ないのでなんとも言えませんが、私たちが把握している限り、かなり良いほうだと思います」
今度は私が舌を巻いてしまう。ううむ、物覚えの良い子だとは思っていたけれど、専門家からお墨付きをもらってしまった。
その後も、私と白部さんはアメリや猫耳人間に関する情報交換を行い、アメリとノーラちゃんは恐竜談義に花を咲かせる。
タイマーが茹で上がりを知らせてくれたので、アメリが鍋のお湯を冷水と入れ替え、ひび割れさせていく。そして、殻剥き。きれいに剥けました!
「じゃあ、あとはこの卵切りで上下左右にそれぞれ一回ずつ切っていこう」
言われた通りに、すっと卵を切っていくアメリ。鮮やかなお点前に、「上手上手!」と拍手する。
あとは、ボウルに入れて胡椒を少し振って、マヨネーズで和えよう~」
スプーンを手渡すと、「わかった!」と混ぜ混ぜ。これも、「上手上手!」と褒め称える。
「よし、できたね。じゃあ、これをパンになるべく平らになるように塗っていこう」
「はーい!」
塗り塗り……完成!
「じゃあ、パンで蓋をして、こっちも斜めに切ったら完成だよ!」
というわけで、完成! 「すごいよー! すごく上手!」と拍手し、ぎゅーっと抱きしめ頭を撫でると、「うにゅう」という気抜け声を上げる。
「お二人とも、お見事です。なるほど、猫崎さんは褒めて伸ばすがモットーなんですね」
「はい。やっぱり、褒められると次も頑張りたくなるじゃないですか。両親、特に父が私にそう接してきたので、私もそれに倣ってます」
「興味深いです。大変参考になります」
やはり、研究者の目をする白部さん。彼女も彼女で、私たちの一挙手一投足が観察対象だから大変そうだね。
「では、いただきましょうか」
白部さんたちが着席し、アメリはサンドイッチの配膳、私は紅茶を淹れる。配膳が終わると、私たちも着席。
「じゃ、アメリちゃん。今回のシェフということで、音頭取ってちょーだい」
「わかった! いただきます!」
アメリの言葉に続き、私たちもいただききますの合唱。うーん、サンドイッチといえど、アメリの作ってくれたものは美味しい!
「美味しいですね」
白部さんも感心している。
「うめー!! すげーな、アメリ! なー、ルリ姉。アタシもこれぐらい作れるよーになっかな?」
「そうね。じゃあ、今度教えてあげるね」
俄然やる気を見せたノーラちゃんに、ふふと微笑む白部さん。
「三時には、パンの耳でちょっとしたおやつを作りますね。油を使うので、これは私がやりますけど」
「楽しみにしています」
微笑む白部さんに微笑み返し、楽しく昼食が進むのでした。
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