神奈さんとアメリちゃん

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第二十五話 カレーのお姫様たち

公開日時: 2021年4月17日(土) 14:01
文字数:2,902

ただいまの三重奏でゴールイン!


「ご……おねーちゃん、お風呂入る?」


「今日は火を使うし、カレーは食べると汗かくからね。ごはんの後にしよう。ミケちゃんも一緒に入りましょ?」


「え、ええ~恥ずかしい……まあ、いいけど」


 あらまあ、クロちゃんみたいなシャイなこと言っちゃって。可愛いこと。


「じゃあ、さっそく作ろうか。でも、今回は二人に手伝ってもらうことないから、向こう寝室で遊んでてね」


 まだこの子たちに、刃物使わせるの危ないものね。特に、ミケちゃんにケガさせたら角照さんに申し訳ないし。いつかは使い方を教えなきゃいけないんだろうけど、こういうのっていつが頃合いなのかな。


 さて、すっかりおなじみ三分でクッキングする例のBGMが脳内で流れる中、まずは炊飯器のスイッチオン! 寸胴鍋でもお湯を沸かしておきま~す。


 続いて、玉ねぎの皮をむいて角切りに。う~、目に染みるゥ! 続いて、人参の皮をピーラーでむいて半月切りに。これをジュウジュウとフライパンで炒めて、いい感じに火が通ったら、お湯の沸いた寸胴鍋に玉ねぎと人参をイン! あとは一旦弱火でコトコト煮込むだけ~。


 キッチンタイマーを十五分に仕掛け、寝室へ。



 ◆ ◆ ◆



「あれ? もうお料理できたの?」


 文字のお勉強をしていたアメリが、あまりにも早い戻りに少し驚いた顔をする。


「んーにゃ。カレーは調理そのものより煮込む時間が割とね。お勉強はかどってる?」


「ミケにお任せよ! この子アメリ、数字は完璧にマスターしたわ!」


 えっへんと胸を反らすミケちゃん。


「えー、すっごーい! 普段、お仕事があってなかなか教えてあげられなくてねー。ありがとう、ミケちゃん」


 二人の頭を撫でると、アメリは嬉しそうに、ミケちゃんは照れくさそうに表情を崩す。


「他にはどんなことしてたの? それとも、ずっとお勉強?」


「サメのお話!」


 アメリが元気に答える。さ、サメの話?


「へー……例えばどんな?」


 泳ぎ続けないと死んじゃうとか、そういうアカデミックな話してたんだったらすごいな。


「あのね。サメってすごいんだよ! 砂の中とか氷の中とか泳ぐし、あと竜巻に乗って飛ぶの!」


 は……はい?


「あの、ミケちゃん。アメリにどんなこと教えたの?」


「どんなって、そのまんまよ。優輝と一緒に見てた映画では、そんな感じだったもの」


 アッハイ。いわゆるB級映画で知識仕入れちゃったのね。ミケちゃんのことは角照さん次第だけど、アメリの間違った知識は後で訂正しておかないとなー……。ていうか、角照さんってB級映画好きなのね。


 とまあ、こんな感じで弛緩した会話を繰り広げていると、タイマーのアラームが聞こえてきたので、二人を連れ立ってキッチンへ。


 一旦火を止め、ルウを割り入れて溶かしたら、ツナとコーンをイン! 特にツナは多めにドーン! あとは再度温める程度に加熱。


 続いてカットサラダを小鉢に開け、アスパラとコーンを載せてマヨで味付け~。


 炊けたお米をよそい、出来上がったルウをかける。


「はい、お待ちどう様! じゃあ、いただきますしましょ」


 いただきますの三重奏で、皆でカレーを口に運ぶ。私にはちょっと甘口すぎるけど、この子たちには多分ちょうどいいかな。


「どう?」


「美味しい!」


 二人がハモる。アメリも、人参に特に抵抗ないみたいね。


「そう言ってもらって嬉しいわ~。ミケちゃんのお口に合うか、ちょっと不安だったけど。私、子供の頃このツナコーンカレーが好きだったから、思い出を参考に作ってみたの」


 そう言ってさらにもうひと口ほおばると、子供時代の和やかな食卓の思い出が蘇ってくる。故郷のお父さんとお母さん元気してるかな。あとで、久しぶりにメールを送ろうっと。


 カレーとサラダを美味しく食べ終わったら、軽く洗って食器のカレーを流した後、食洗機へ。寸胴の残りは明日食べましょ。


 その後、角照さんのお宅に寄ってミケちゃんの着替えを出してもらった後 (お風呂まで入れていただいて申し訳ないです、と恐縮されてしまいました)、仲良くお風呂へ。


 さすがに三人で入れるほど浴槽が広くないので、子供組の体を洗った後はまず二人を湯船に入れる。私はその間、自分の体を洗う。


「見て! ふぐたくん!」


 ミケちゃんに例の魚くんちゃんを見せびらかすアメリ。いつの間にやら名前が決定していたらしい。ちなみに、形は正直フグに似てない。まあ、イカが「そめごろう」になるアメリセンスだしねー。


「こうやってお湯に入れるとねー……」


 青色の魚くんちゃん改め、ふぐたくんが真っ赤になっていく。


「へー。面白いねー。ミケはこれ!」


 そう言ってミケちゃんが湯船に投入したのは、おなじみお風呂のお供であるアヒルちゃん。さっき、着替えと一緒に角照さんが渡していた物だ。


「名前なーに?」


「ハナコよ!」


 アメリの問いに、えっへんと胸を反らすミケちゃん。うん、アメリのネーミングセンスもどうかと思うけど、ミケちゃんも割と残念だわ。……全国の「ハナコ」さん、ごめんなさい。


 三十数え終わって、二人に「一人で着替えられる?」と尋ねると、「うん!」という頼もしい返事のアメリと、「当たり前よ! お姉さんだもの!」と、ドヤ顔のミケちゃん。タイプは違うけど、二人とも可愛いなあ。


「じゃあ、二人で先に上がっててね。私ももうすぐ出るから」


 入れ替わりに湯船に浸かり、今日の疲れと汗を流す。


 角照さんとミケちゃんか。角照さんは私の大ファンだし、人柄もいい。ミケちゃんもアメリやクロちゃんとはまた違うタイプの性格だけど可愛い。これから、お隣さんとの交流が楽しくなりそうだな。


 ほかに入ってくるという三人は、どういう人たちなんだろう。ちょっと楽しみ。



 ◆ ◆ ◆



 湯船から上がった後、二人の遊びを見守りつつネーム作業を再開していると、インタホンが鳴る。応対に出ると、果たして角照さんだったので、アメリとミケちゃんを連れてくる。時刻も九時を回ろうとしていた。


「こんばんは。今日はミケの面倒を見ていただいて、本当にありがとうございました。ミケ、いい子にしてました? これ、引っ越し蕎麦です。どうぞ」


 お礼とともに、約束通り引っ越し蕎麦をいただいてしまった。


「どうもありがとうございます。ミケちゃん、それはもういい子でしたよ。アメリに文字を教えてくれたり、とても素晴らしいお姉さん・・・・・ぶりでした。褒めてあげてくださいね」


 私の言葉を受け、えっへんと胸を反らすミケちゃん。


「そう仰っていただけて、一安心です。偉かったねー、ミケ。アメリちゃんも、ミケと仲良くしてくれてありがとうね」


 二人の頭を撫でる角照さん。今度は、二人とも純粋に嬉しそうだ。当たり前だけど、やっぱりミケちゃんは角照さんとのほうが感情の出し方がストレートね。アメリは相変わらず誰にでも人懐っこいけれど。


「じゃあ、戻ろうかミケ。今日は、本当にありがとうございました。ほら、ミケもお礼言おう」


「ありがとうございました!」


 二人がぺこりと頭を下げるので、私たちもお辞儀で返す。


「またいつでも、頼ってください。ミケちゃん可愛いですから、大歓迎ですよ」


 こうして、お隣の門戸に消えていく二人を見守り、今日のイベントはつつがなく終わりました。


 さあ、アメリを寝かせたらお仕事もうひと頑張りだ!

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