神奈さんとアメリちゃん

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第三百九十九話 猫崎家のレイニーブルー

公開日時: 2021年11月4日(木) 21:01
文字数:2,100

「おねーちゃん、この雨っていつまで続くのー?」


 ベッドに腰掛けたまま本から顔を上げ、窓の外で芝生を叩いている大雨を見て、ぽつりと尋ねてくるアメリ。


「うーん、一ヶ月ぐらいかなあ」


「そんなに!?」


 初めて梅雨を経験するアメリちゃん、その長さにびっくり。


「やんなるよねー。まー、だから昨日、しばらく使えなくなるからって、公園で遊ばせてあげたわけです」


 「おお~……」と、感心したんだか、困ったんだかよくわからない声を上げる。


 そんな午前の、アンニュイなひととき。今日も国会中継をイヤホンで聞きながら執筆なう。


「アメリも、国会中継見る?」


「ご本読んでるー」


 相変わらず、読書家ですねえ。


 そうそう。白部さんによると、アメリの視力がもし落ちたら、スポーツ用ゴーグルのような、頭を縛るタイプのもので補強すると良いのではないでしょうかとのこと。なんかのスポーツ漫画にも、そんなのつけてるキャラいたっけ。


 あとは、コンタクト。ただ、子供には管理が大変なんじゃないでしょうかとのご意見で、実際私もそう思います。ほかには、最終手段としてレーシックが考えられるけど、やはりおすすめしにくいとのことで。


 まあ、私みたいに十年以上PCモニタと四六時中向き合ってても裸眼のままの人間もいるし、アメリちゃんの視力が落ちると決まったわけじゃないからね。そのときになったら、改めて考えましょ。


 下書きも終盤戦。早く仕上げて、芦田さんにパスを渡したいものです。


 すらすら、こつこつ、かちゃかちゃ……。


 アメリも読書中なので、右耳から流れてくる中継以外は静かなものです。


 くう~肩凝る~。揉みほぐそ。


 少し、体動かしたほうがいいかなあ? そうだ、まりあさんはお買い物で困ってないかしら。


 イヤホンを外し、スマホを手に取る。


「こんにちは~」


 出られたのでご挨拶。


「こんにちは。どうされました?」


「いえ、この雨でしょう? お買い物に困っていらっしゃるのではないかと思いまして」


「ご心配、ありがとうございます。今日のぶんの買い物は昨日済ませておきましたから、大丈夫ですよ」


「それならよかったです」


 せっかくなので、そのまま執筆しつつ雑談。


「そういえば、クロちゃんどうしてます?」


「詰将棋やってますよ」


「差支えなければ、アメリとはなしさせてあげることはできないでしょうか?」


「ちょっと訊いてみますね」


 しばしの間。


「ぜひ、話したいそうです!」


「では、アメリに代わりますね」


 テレビにつけていたイヤホンを、スマホに繋ぎ替える。


「アメリー、クロちゃんがお話しましょうって!」


「おお! 代わって、代わってー!」


 スマホを手渡すと、そのまま会話に没頭するのでした。


 イヤホン、ほかにもアメリがここ寝室のテレビ見るのに使ってる長~いのもあるけど、これでポータブルテレビ聴くのは邪魔よね。


 人権法案も多分、今日一日で大幅に前進しないだろうし、電源切っとくか。


 BGMを国会中継からアメリの話し声に変え、執筆再開。


 二人はどうやら、大穴牟遅御霊おおなむちみたま神社の話をしているらしい。


 そこは、大穴牟遅おおなむち……大國主命おおくにぬしのみことといったほうが通りがいいかもしれないけど、そういう名前の神様を祀っている神社だ。この神を祀ってる神社で一番有名なのは、出雲大社だろう。


 このあたりではかなり大きな神社で、初詣やお祭りでは大盛況になる。


 何ぶんアメリの声しか聞こえないから詳しくはわからないけれど、神社仏閣大好きガール・クロちゃんから、大穴牟遅御霊神社の魅力をとっくり聞かされているらしい。アメリはアメリで知的好奇心の塊だから、神社や神様について、質問祭り開催中。


 ちなみに、神社の真横には市役所もあるけれど、どっちもそうそう立ち寄る機会がないので、アメリをあの神社に連れて行ったことがない。お祭りになったら、ぜひ連れて行ってあげよう。


 結構長話になってるな。LIZEの通話機能で、無料だからいいけど。


 女同士のおしゃべりって、なかなかきりがないよねー。実際私も、用事さえなかったら、まりあさんたちやりんちゃん幼馴染と、つい、いつまでも話しちゃうし。


 話題は、神社から勉強にシフトしたようで。クロちゃんはまりあさんから勉強を教わっているらしい。クロちゃん、私が迎えに行って勉強会に加わってもらってもいいんだけど、「さすがにご迷惑すぎるので」と、まりあさんに遠慮されてしまいました。


 勉強会といえば、白部さんさえよろしければ近いうちにお願いしようかな。彼女も彼女で、データ取りたいだろうし。


 などと考え事をしながら、筆を走らせキーを叩いていると、PCの時計が、もうじきお昼になることを示している。さすがに長電話すぎるね。


「アメリちゃーん。もうすぐお昼ですよー。そろそろ電話終わろー?」


「おお? あのね、おねーちゃんが電話終わってって。またお話しよーね! ばいばい!」


 スマホを返してもらう。


「クロちゃん、こんにちは。そろそろお昼だから、ごめんね。またアメリと話してあげてね。それじゃ、まりあさんによろしく伝えておいてもらえる? またね」


 通話終了。


 ふう。ごはん食べたら、白部さんに勉強会の打診でもしようかな。今日すぐの開催は無理かもだけど。


 さーて、さつきさん直伝のバインミーでも作りますかー!

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