神奈さんとアメリちゃん

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第四百十三話 アフリカの風が吹く ―後編―

公開日時: 2021年11月21日(日) 21:01
文字数:2,138

「ホワイトボードにも描いたっすけど、見たほうが早いと思うんで実践するっすね。実際の作業はコンロ組二組とカセットコンロ組で分散して欲しいっす」


 そう言いながら先生が、卓上コンロの鍋でお手本を見せ始める。


「まず中火にして、オリーブオイルを引くっす。で、熱し切る前に、これ重要っすよ。生姜投入して香り付けっす。熱されてからだと、香りが飛んじゃうっす」


 生姜独特の。いい香りが漂ってくる。


「で、玉ねぎ投入。よく炒めてくださいっす。油が回ったら、豚ひきも投入っす。色が変わるまで炒めたら、トマトとオクラちゃんも投入っす」


 ああん、これだけでもう匂いが香ばしい。お腹空いてきちゃった。


「トマトが崩れたっすね? ここまで炒めたら、重曹、水、カレーパウダーを入れて強火で沸騰させるっす。沸騰したら、弱火にしてコトコト十分じゅっぷん煮るっすよ。後は時短のために、十分じゅっぷん煮終わった前提で話すっすけど、煮終わったら、レモン汁と塩コショウで味を整えて完成っす。ここまでで、何かわからないことはあるっすか?」


 一同顔を見合わせるが、説明がわかりやすいので特に不明点はない。強いていえば、慎重派の白部さんが手順を再確認したぐらいだ。


「手順、それで問題ないっす。じゃあ、自分のは一回鍋敷きに置いとくんで、カセットコンロは順に使ってくださいっす」


 というわけで、残りのメンバーで順にコンロを使いながら調理開始。私たちは、ありがたいことにIHコンロの一番手をいただきました。


「アメリ、やってみる?」


「やるー!」


 アメリちゃん、貸していただいた踏み台に乗って調理開始。おお、我が娘ながら見事な手際。きちんとさつき先生の教えを守っている。さすが、基礎抑えガール。……意味不明な称号を与えてしまった。


「冷めたら美味しくないんで、できた組から食べていっちゃってくださいっす。ごはん、切っとくっすね」


 かくてるハウスの大釜内をしゃもじで切るさつきさん。彼女をちゃらんぽらんだと、久美さんはおっしゃるけど、見事な先生ぶりだ。


 失礼な言い方だけど、かくいう私も、ちょっと見る目が変わったな。


 こうして十分じゅっぷん経ち、第一陣のスープが完成。ごはんをよそう。


「では、いただいていいですか?」


 着席して、一応再確認。


「どーぞどーぞっす。冷めないうちに、ぐいっといってくださいす」


 では、いただきましょうか。スプーンですくって……。


 ごくっ……美味しい!


 体の中を、アフリカの熱風が駆け抜けた気がした。日本みたいに湿気をはらんでなくて、乾いた熱い風が。


 アフリカの人って、こういうの食べてるんだねえ。まあ、トマトが入ってるからあくまでも「「風」なんだけど。それでもまさしく、現地の風を感じる。


 ああ、辛くて酸っぱくて美味しい。これはごはんがすすむ。


「美味しい! アフリカの料理って美味しいね!」


 アメリちゃんも大満足。あくまでも「風」だというのは言わないでおく。気分って大事よね。


 ほかの第一陣である宇多野姉妹、白部姉妹も美味しくいただいていて、ノーラちゃんの「うめーッ!」シャウトが響き渡る。


 白部さんたちは、白部さんが主に火作業したようだ。


「クロちゃん、美味しい?」


「うん。たまにはこういう外国! って感じのもいいね」


 和食党の宇多野家も、たいそうこれを気に入ったようです。


「そういえば、飲み物も皆さんからいただいてたっすね。手持ち無沙汰だから配るっす」


 そう。私たち全員、かくてるハウスの皆さんも含めて、気を利かせて飲み物を持ち寄ったから、ドリンクまみれになってしまったのだ。かくてるハウスの冷蔵庫が大きくて良かった……。


 私にはマスペ、アメリにはコラ・コーラが配られたので、さつきさんにお礼を述べる。


 くぅ~! 辛いスープに、甘~いマスペ! サイコーね!


 第二陣も調理が終わり、最後に先生がカセットコンロで調理再開。


「自分、思うんすよね。エスニック料理っていいなって。こうやって日本にいながら、アフリカを感じることができる。バインミーではベトナムを、ボルシチではロシア……正確にはウクライナっすけど、それを感じることができるって、素晴らしいことだと思うんす」


 調理しつつ、いつになく真面目モードなさつきさん。でも、その意見にはまったくもって賛成です。


「ほんとに、料理ってすごいですよね!」


 同意すると、彼女も大きくうなずく。皆さんも、ご同様のようだ。


「だから、皆さんも、世界の色んな料理を愉しんで欲しいっす。日本じゃマイナーっすけど、世界三大料理だけあって、トルコ料理も奥が深いっすよ! もちろん、自分が教えられるものなら、いつでもこうやって教室を開くのは、やぶさかではないっす!」


 ドン! と自らの胸を叩く彼女。おお、なんだろう。今日のさつきさんは、本当になんだか頼もしい。


 こうして、最後に彼女が食べ終わるのを待って、料理教室も締め。私のレパートリーに、エスニックな一品が加わりました。


 片付けを終えた後は、各自の持ってきた調理器具を洗うなどの、後片付け。


 私としては、せっかくだからもう少しくつろいでいたかったけど、お仕事も大事なので、名残惜しくもひと足早くお別れしました。白部さんやまりあさんは、もう少しゆっくりされていくようです。


 早く繁忙期を抜けて、皆さんと思いっきり遊びたいなあ。


 そのためにも、お仕事頑張るぞー!

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