今日一日とことんブーストして下書きを一気に仕上げてしまうことも考えたけれど、マイペースを崩さないというのがモットーなのもあり、アメリの自転車練習のため、お昼すぎにかくてるハウスのお庭にお邪魔しています。
アメリが早く自転車に乗りこなせるようにならないと、いろいろ不便だしね。ミケちゃんも補助輪付きで一緒にトレーニング中。優輝さんもご一緒です。
さすがに明日中には下書きを終えないと、芦田さんのスケジューリングにご迷惑をかけるので、それまでには終わらせるつもりだけど。
「優輝~。補助輪とかカッコ悪いわ! 妹が二人も補助輪なしなのに!」
「もうちょっと慣れたら、外してあげるからね。それまでは、まず自転車そのものにきっちり慣れよう」
不平をこぼすミケちゃんに、笑顔で答える優輝さん。
「すみません、今日もお庭を借りた上にお付き合いいただいてしまって」
「いえいえ。ミケもちょうど練習が必要ですしね。それに、いい気分転換になるってもんです」
うーんと伸びをしながら、そう仰る。本当に、「屈託がない」とは彼女のためにあるような言葉だ。
「逆にこちらこそ、昨日ミケがお世話になりまして」
深々とお辞儀される。
「いえ、プリンとかそう難しい物ではないですし、子供たちに楽しんでもらえたのが一番ですよ」
こちらもお辞儀。
視線をアメリに戻すと、やはり飲み込みの早さは一級品で、すいすい……まではいかないけれど、もうだいぶ不安定な感じはなくなった。
「この調子なら、もうちょっと練習すれば公道走らせても大丈夫そうですね」
優輝さんも太鼓判を押してくださる。
「白部さんが猫耳人間の習熟速度によく言及されますけど、我が子ながら本当にすごいですね……」
思わず、感心のため息を吐いてしまう。
「そうですねえ。ミケも、本当に物覚えが早いですよ。びっくりですよね」
猫は一歳であっという間に成猫になってしまうけど、そういう「成長の早さ」が形を変えて、猫耳人間になっても引き継がれているのかもしれない。
「そういえば、そちらのお仕事の塩梅はどんな感じですか?」
「割と順調ですよ。メインのキャラデザも決定稿が出揃いました。あとは、あたしがプロット組まなきゃなんですけど、まあこうして気分転換というか息抜きしている次第です」
なるほど。
「完成までどれぐらいかかるお見通しでしょう?」
「そうですねー。今年もちゃんと夏のコミットに出したいんですよね。絶対、間に合わせたいです」
コミット! 超有名な同人誌即売会のアレね! 私、漫画家やって永いけれど、同人界隈というのはいまいち食指が動かなくて、遠く話に聞くだけの存在だったりする。
「よろしければ、皆さんもサークル枠でご招待しましょうか?」
「サークル枠とかいうのだと、何かいいことがあるんですか?」
「入場がすっごく楽です。コミットの一般入場って、地獄ですよ」
ひょえー。そういや、小耳に挟んだことがある気がするなあ。
「そうですねー……。お仕事次第ですけど、考えておきます」
同人界隈に興味がないと心の中で言ったばかりだけど、自分の世界を広げることには強い興味がある。アメリのことで生活環境が一変してから、特にそういう思いが強くなっているようだ。
「楽しみにお待ちしています。まあ、まずは当選しなきゃですけどね。実績上、大丈夫だとは思うんですけど」
そんな感じで何気ない会話を交わしながら、子供たちの練習を見守る私たち。しばし時間が経ち、そろそろお暇したほうがいいかなという頃合いに。私も仕事に戻らないといけないしね。
優輝さんたちに別れを告げ、アメリと一緒に帰宅するのでした。
◆ ◆ ◆
下書き再開。やっぱり気分転換をすると、筆のノリが違うね! 息抜きって大事!
今日のアメリちゃんズホビーはぬいぐるみ遊びの模様。そちらを見ると、ずいぶんと海産物ファミリーも大所帯になったもんだなあと、思わず感心する。
話に耳を傾けながら筆を走らせていると、どうもほえほえさんを巡って、男の子たちが料理勝負をする模様。ほえほえさん、罪深いオンナね……。
そんな雑感を抱く最中、不意にLIZEのメッセージ着信音が鳴りました。どちら様でしょうと見てみると、送り主は優輝さん。
「桜の見頃予測が出ましたよ! 東京は下旬だそうです! F公園でお花見しましょう!」
バンザイ猫スタンプで、相変わらずテンションがお高い。
しかし、お花見かー。福井時代に家族やご近所さんとしたっきりで、何年ぶりかしらね。私までテンション上がっちゃうわ。
「ぜひ参加したいです! 楽しみですね!」
とお返事。皆さんも、めいめいご参加のお返事をされる。
「アメリちゃーん。下旬にお花見するよー」
彼女のほうを向き、呼びかける。
「おお? お花見ってなーに?」
「満開の桜の花を見て、美味しいもの食べて楽しむの」
お酒も飲めるといいんだけど、車だからね。
「おおー! 楽しみ!」
「美味しいお弁当作るからねー」
そういえば、アメリは桜を見るの初めてなんだな。映像では見たことあるかもしれないけれど。
花びらがたーくさんひらひら舞い落ちてくるのを体験したら、感動するだろうなー。
ふふ、と思わず顔がほころんでしまう。
本当に、猫だったアメリと戯れて漫画描いてただけの生活が一変したなー。そう、しみじみ思うのでした。
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