神奈さんとアメリちゃん

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第十六話 幸せだなあ

公開日時: 2021年4月17日(土) 09:31
文字数:2,637

「お見舞い、ありがとうございました」


「どういたしまして。アメリちゃん、ほとんど治ったようで、本当に良かったです」


 クロちゃんと手を繋いでいるまりあさんと、お辞儀し合う。


 あれから四日、アメリの具合もだいぶ良くなり、アメリの病状について相談していたまりあさんが、お見舞いにメロンを持ってきてくれた。


 お呼びしてばっかり&もらってばかりでは申し訳ないので、こちらからなにか持って伺おうとしたのだけれど、アメリが病み上がりだしということで、ご厚意に甘えさせていただくことに。


 アメリはクロちゃんと距離を取りつつ魚トークをしていたけれど、まだ本調子ではないためすぐにベッドに戻ることになってしまった。そのようなわけで、お見送りは私一人。


「では、失礼します」


「はい。今度は伺わせてください。お疲れ様でした。クロちゃんもバイバイ」


 二人にお辞儀して手を振ると、クロちゃんが「さようなら……」と、ぺこりと小さく頭を下げる。


 さて、と。片付けしないと。リビングに戻り、メロンの皮が載った食器とティーカップを片付ける。


 キッチンの時計を見ると、もうすぐ晩ごはんの時間。


「アメリー。今日の晩ごはんもおかゆでいい?」


 寝室に行き、ベッドの上で横になって文字勉強タブレットで遊んでいる彼女に問う。


「んー……なんか別のがいい~」


 ほほう、アメリが食べ飽きる日が来るとは。なんとも感慨深いなー。


 あまり重たくなくて、アメリが好きそうなもので、フォークかスプーンで食べられるものかー。


 まあいいや、スーパーで考えましょ。


「ちょっとお買い物してくるよ。いい子でお留守番しててねー」


 「はーい」という言葉を受け、いざいつものスーパーへ。



 ◆ ◆ ◆



 店内BGMと冷房のお出迎えを受けて、スマホでチラシチェック。あら、卵が安い。さっそくかごへ。あとはおなじみ牛乳でしょー。ほかには何が安いかな。トマトときゅうり。そういえば、最近野菜が不足してる気がするなー。千切りキャベツと一緒にイン。


 肝心のメニューだけど、どうしましょ。オムレツとかオムライスにしてもいいけど。


 考え事をしながら店内を練り歩いていると、ホットケーキミックスが目に入る。ホットケーキか。アメリ喜んでくれそうだなー。


 よし、お夕飯はホットケーキにしよう! 夜にホットケーキとか変な気もするけど、食べちゃいけないって法律もないよね。


 となると、使い捨てタイプのメープルシロップも買って……。バターはいつものチューブ入りでいいか。


 あとは明日の朝だけど、アメリの味覚が良くも悪くも肥えてきたようだ。となると、トーストじゃないの食べたいって言うかな?


 うむ。すぐ腐るものでもなし、シリアルも買ってみよう。


 今日はこんなものかな。ホットケーキ自体がおやつみたいなものだから、おやつは要らないよね。さっきメロン食べたし。



 ◆ ◆ ◆



「ただいまー」


 買い物袋を手に帰宅する。寝室の方からアメリの声と思しき音が聞こえる。「おかえりなさい」って言ってくれてるのかな。冷蔵庫に一通りしまってから、寝室に向かう。


「ただいまー。調子はどう?」


 相変わらず熱心に勉強していたようで、タブレットから視線を上げる。


「おかえりなさい! アメリいい子にしてたよ!」


 笑顔を向けてくる彼女の頭をよしよしと撫でる。調子もいいみたいね。


「今日はねー、ホットケーキとサラダだよー」


「ほっとけーき?」


「甘くて美味しいの。あと、サラダも付けるからそれも食べようね。アメリ、お風呂は入れそう?」


 入浴の意思を問うと、笑顔でこくこくとうなずく。あのお風呂嫌いがこんなに立派になって……。お姉さん嬉しくて泣いちゃう! お魚くんちゃん、ありがとう!


「じゃあ、まずホットケーキだけ用意しちゃうね。すぐ終わるから待っててね」


 そう言い残してキッチンへ。


 さてさて、三分でクッキングする例のBGMが脳内で鳴る中、ホットケーキミックスと卵に牛乳、サラダ油と調理器具を用意。


 まずは、うちで活躍が控えめな炊飯器くんの出番でーす! お釜にサラダ油をハケで塗りまーす。


 続いて、お釜にホットケーキミックスを三百グラム、卵二個、牛乳二百ミリリットルを入れてハンドミキサーで混ぜ混ぜ~。


 お釜を叩いて空気抜きしたあとは炊飯器に入れて炊飯ボタンを押すだけ! わあ、かんた~ん! 文明の利器って素晴らしいわ。


 お風呂からあがる頃には出来上がってるはずだから、アメリと一緒に入ってこよーっと!



 ◆ ◆ ◆



「さっぱりしたねー。じゃあ、お腹空いてるだろうしすぐサラダ作っちゃうね」


 アメリも「うん!」と上機嫌。


 サラダを作るといっても、トマトをカットしてきゅうりをスライスして、小鉢の千切りキャベツの上に乗せてマヨかけるだけだけどねー。お手軽でも、愛の量は変わらないのです!


 ホットケーキもいい感じに出来上がってたので、菜箸で少し隙間を作った後、ミトンでお釜を掴んでひっくり返してポン! と叩くとお皿の上にケーキが出現! アメリが「おお~!」と声を上げる。


「じゃあアメリ、新しいことにチャレンジしてみよう~!」


 バターとシロップをかけて、ホットケーキを切り分け小皿に移した後、刃をこちら側に向けてアメリにプラスチックナイフを手渡す。


「おお~?」


 不思議そうに角度を変えながらナイフを見回す彼女。


「こうやってね、左手のフォークで押さえて、右手のナイフでぎーこぎーこって引くと切れるんだよー」


 お手本として、金属ナイフでケーキを切ってみせる。


「すごい! やってみる!」


 一生懸命ナイフを引くアメリ。


「おお~! 上手上手!」


 実際はちょっとぼろぼろな切断面だけど、子供は褒めて伸ばさなきゃね!


「食べるのはフォークで」


 そう言って食べてみせると、アメリも真似して食べ、「おいしい!」と瞳を輝かせる。気に入ってもらえたようで何より。良きかな良きかな


「サラダの食べ方はわかるよね?」


 こくこくとうなずく彼女。「パルの木々オムライス屋さん」で、うらやましそうに見てたものねえ。


「これもおいしいね、ご主人様!」


 ぱくぱくと勢いよく口に運んでいく。そうやって、いかにも美味しそうに食べてくれると嬉しいわあ。何より、元気になってきた証拠よね。ほんとに、一時は気が気じゃなかったもの。


「ごちそーさまでした!」


「はい、よくできました。私ももうすぐ食べ終わるからねー……ごちそうさまでした!」


 お釜はたわしで洗った後、食器と一緒に食洗機へ。後は歯を磨き、私は例によってコーヒー牛乳片手にお仕事。アメリはさすがにお勉強は本日終業して、ベッドでおなじみ南海映像を見ながら魚介ぬいぐるみ遊び。


 幸せだなあ。

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