【完結保証】 小物武将、木村吉清 豊臣の天下で成り上がる! (旧題)マイナー戦国武将に転生したのでのんびり生きようと思ったら、いきなり30万石の大名になってしまいました

知識チートにならない範囲の現代知識で、豊臣政権で内政無双する話
田島はる
田島はる

久しぶりに木村領

公開日時: 2022年11月13日(日) 18:33
文字数:2,414

 雪が溶けると、和賀稗貫一揆の残党を討伐するべく軍を興した。


 四釜隆秀や小幡信貞が城は占拠していたので、あとは和賀、稗貫領内に残る反乱分子の排除である。


 御宿勘兵衛に軍をまとめさせ、領内の残党狩りをしたところ、一揆の首謀者の首を挙げることに成功した。


 これにて和賀稗貫一揆の鎮圧は完了したが、依然として吉清は帰ってこなかった。


 これからどうやって論功行賞をかわしていこうか。そう考えていた清久の元に、吉清から書状が届いたのだった。


「父上から手紙が?」


 渡された書状を広げ、中身に目を通す。


 曰く、


『すまん、しばらく領地には戻れない。

 いま、京で奉行の仕事をしている。

 夏頃までには帰るから、論功行賞はそっちでうまいことやっといて』


 とのことだ。


「父上から、論功行賞をするように申しつけられた」


 清久がポツリとつぶやくと、側に控えていた荒川政光がにこりと笑った。


「ご心配なく。いつ始めてもいいよう、各々の武功をまとめてございます」


「さすがは政光。用意がいいな」


 合戦で活躍した者たちの武功が記された紙に目を通すと、ううむと首をひねった。


「しかし……こちらの出した恩賞に不満を持たれたらどうしたものか……」


「それでは、京より届いた土産を使うとしましょう」


「土産?」






 この日、登城するようにとの命を受け、四釜隆秀は寺池城に向かっていた。


「論功行賞と戦勝祝いの祝賀を行う、か……」


「それにしてはずいぶんと遅いじゃねぇか。もう年が明けちまったぞ」


 南条隆信の言葉に、一栗放牛が頷いた。


「恩賞をもらう前に、寿命でぽっくり逝ってしまうかと思うたわ」


「ははっ、じーさんに限ってそれはねぇよ」


「うむ、違いない」


 二人が笑っていると、清久の待つ寺池城が見えてきた。






 あちこちに散らばった国衆や、城下に住んでいる旧北条家臣たちは大広間へ集められると、清久が上座に座った。


 皆を見回し、清久が声を張り上げる。


「これより、先の葛西大崎の乱、和賀稗貫一揆鎮圧の論功行賞を始める。まずは小幡信貞、前へ出よ」


「はっ!」


 前に出た小幡信貞は、清久の前に平伏した。


 武功を読み上げ、感状を渡す。


「俸禄を500石に加増する」


「はっ、ありがたく頂戴します」


 感状を受け取ると、元の席へと下がっていった。


「次、四釜隆秀、前へ」


「はっ!」


 清久の前に平伏すると、感状を受け取った。


「そなたの俸禄を300石の加増とする」


「はっ、その、土地ではなく俸禄というのは……?」


「当家では土地ではなく蔵米から報酬を出すことにしている。隆秀には、毎年当家から300石分の銭を渡そう」


「……はっ」


 四釜隆秀といえば、葛西大崎の乱では氏家軍を足止めし、和賀稗貫一揆では二子城を占拠し、一揆軍が籠城するのを防いだ。


 国衆の中では、抜群の戦果と言える。


 その隆秀でさえ、恩賞がその程度とは……。


 南条隆信と一栗放牛が密かに肩を落とした。


(思ったほどでもないというか……)


(まあ、こんなものか……)


 国衆たちの落胆をよそに、清久は刀を取り出した。


「そして、これを授けよう」


 ひと目でわかる、鍛え抜かれた刀身。刻まれた銘に、思わず声がうわずった。


「こ、これは……」


「備前長船兼光だ。父上から是非隆秀にと申しつけられてな」


「はっ、ありがたく……!」


 感激のあまり、目の端に涙を浮かべる。


「次、南条隆信、前へ」


「はっ!」


 清久に呼び出され、期待に胸を膨らませた南条隆信が前へ出た。


 こうして、できるだけ家臣に領地を配分することなく、給料のような形で銭を配ることで、それとなく蔵米知行制へと移行していった。


 また、京から送られた高価な品を恩賞とすることで、武士たちの不満をかわしたのだった。






 論功行賞が終わると、戦勝祝いの宴会が始まった。


 近海で取れた魚を始め、旬の素材をふんだんに使ったご馳走が並んでいる。


 中でも、一際異彩を放つ菓子を手に取った。


「これがコンペイトウなる、南蛮菓子か」


 南条隆信が一つ口へ放り込んだ。


「うまいな。うん、イケる味だ。甘さが口の中で溶けてゆくぞ」


「では、儂も一つ……うん、うまい! いやぁ、長生きはするものじゃな!」


 各々が料理に舌鼓を打つ中、清久が立ち上がった。


「では、父上が京より取り寄せた酒を振る舞うぞ!」


「おおっ……!」


 南条隆信を始め、家臣が期待に胸を踊らせた。


 目を輝かせる家臣たちを尻目に、清久は吉清の残した秘密兵器を取り出した。


「そして、これが父上の俸禄3ヶ月分の、秘蔵の酒じゃ! 今宵はこれを空けようぞ!」


 酒瓶を高々と掲げると、あちこちから歓声が聞こえた。


 酒を注がれ、隆信が幸せそうに盃を傾けた。


「くぅ〜〜効くのぉ〜〜〜〜」


 家臣たちに酒を振る舞っていると、密かに政光から耳打ちされた。


「なに? 京より取り寄せた酒が、もう全部なくなった?」


「南条殿が、全部飲んでしまったようで」


 ちらりと隆信の様子を窺う。


「……まだまだ飲み足りなそうにしてるぞ」


「……こうなれば、入れ物はそのままに、中身に安酒を詰めておきましょう」


「頼んだ」


 政光に任せると、気を取り直して声を張り上げる。


「いやいや、良い飲みっぷり! ささ、皆も遠慮なく飲むといい」


 こうして、祝賀は一晩中行われることとなった。


 夜が明け、家路につこうと背を向ける国衆たちを、清久が呼び止めた。


「皆に土産を渡そう」


 一人ずつ小さな巾着袋を渡された。


「昨夜の酒宴で出したコンペイトウじゃ。向こうで妻子や家臣に配ってやるといい」


 土産を持たされた国衆は、意気揚々と領地へ帰っていったのだった。






 来た道を戻る傍ら、四釜隆秀がつぶやいた。


「まさか、土産まで持たせてくれるとはなあ」


「この味をどう伝えたら良いものか、悩んでおったのだ。土産に持たせてくれるのなら、話は早い」


 一栗放牛の言葉に、南条隆信が頷いた。


「しかし旨い酒だったな! さすがは殿の俸禄3ヶ月分よ!」


(途中から安酒に変わっていたが……)


(本人がいいというのなら、それでいいか)


 恩賞と祝宴の余韻を胸に、気持ちを新たに木村家に奉公しようと思うのであった。


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