【完結保証】 小物武将、木村吉清 豊臣の天下で成り上がる! (旧題)マイナー戦国武将に転生したのでのんびり生きようと思ったら、いきなり30万石の大名になってしまいました

知識チートにならない範囲の現代知識で、豊臣政権で内政無双する話
田島はる
田島はる

葛西大崎の乱、勃発

公開日時: 2022年11月11日(金) 22:33
文字数:2,755

 挙兵の知らせを聞いて、すぐに各地の家臣たちに知らせを送った。


 多くの葛西大崎の旧臣たちが服属を誓ったとはいえ、信が置ける者は少ない。現に、知行安堵の書状を出した者の中にも兵を興した者がいる。


 一月前に人質を出すようふれを出したというのに、未だに出さない者も少なくはない。


 表向きでは従っているふりはしているものの、腹の中ではこちらを疎ましく思っているのか。

 とはいえ、急造の家臣団ではそういった不確かな存在に左右され、場合によっては彼らに縋らなければならない。


 比較的に信用できる者となると、いち早く人質を出してきた四釜隆秀や南条隆信、一栗放牛くらいのものか。


 他の家臣たちに寺池城参集の命令を出しつつ、四釜隆秀らには別の命令を出すことにした。


 挙兵したのは、伊達、最上領にほど近い宮崎の地を治める宮崎隆親。南部領にほど近い胆沢の柏山明吉。木村領の中央に位置する岩手沢の氏家吉継。寺池城から遠くない、気仙の浜田広綱の4名。


 同時に挙兵したことから、ある程度繋がってはいるだろうが、実質的には分断されている状況だ。であれば、各個撃破が可能であると言える。


 知らせを聞いてすぐさま徴兵のふれを出すと、5000弱の兵が集まった。港の建設にあたっていた住民を連れて来ただけあって、さすがに早い。


 ほとんどの者が着の身着のままとはいえ、この時に備えて武具は用意してあった。彼らに持たせれば、即席足軽の完成だ。


 家臣たちにも自領での徴兵を命じており、集まった兵は3000。各々の居城を守るだけの兵を残すよう伝えたので、これだけ集まるだけで上等だ。


 ここに先程の5000を足して、木村軍は8000にまで膨れ上がった。


 集まった兵たちを見回し、吉清はぽつりと溢した。


「儂なりに善政を敷いたつもりであったが、やはり一揆が起こってしまったか……」


 側に控えていた荒川政光が首を振った。


「……いえ、一揆というより、新たな領主をよしとしない反乱でしょう」


「……そうなのか? 一揆ではないのか?」


「ええ、殿の統治に非はありませんでした。現に、直轄地では反乱どころか、不満らしい不満もないと聞いております」


「……儂に忖度しておるのではないか?」


 ジロリと睨むと、大袈裟に首を振った。


「滅相もございません。それがしも無用な一揆を起こすまいと心血を注いでおりました故、これだけは断言できまする。これほど困難な地で、殿はよく統治されました。ここまで手を尽して乱を防げなかったというのなら、それはもう天命と言わざるをえません」


「そうか……」


 本来であれば、荒川政光は他家出身でありながら佐竹家の家老となり、内政において活躍をした武将だ。のちに江戸幕府も参考にしたと言われる渋江田法を作り出し、久保田藩の基礎を築くことになるのだが。


 それほど内政に手腕を発揮した男にここまで褒められたとなると、どことなく自信が湧いてくる。自分の統治は、間違っていなかったのだと。


「おぬしが言うのなら、そうかもしれぬな」






 集まった諸将を前に、軍議が始まった。北条家より吸収した家臣である、小幡信貞が口を開いた。


「宮崎にて宮崎隆親が。岩手沢にて氏家吉継が。胆沢にて柏山明久が。気仙にて浜田広綱が挙兵。続々と兵が集まっているとのよし」


 ううむ、と吉清が唸った。


 おそらくこの状況は、正史よりもよい結果となっているだろう。ただ、それでも依然として予断を許さない状況に変わりはなかった。


 8000の兵がいるとはいえ、それだけの兵を賄うための兵糧は不足している。港の建設地には5000人を食わせるだけの物資があったはずだが、この騒ぎで放置されてしまっている。


 また、この辺りは雪が降ることもあり、できるだけ時間をかけたくはない。現に、史実の一揆鎮圧は積雪のせいで年を跨いでしまっている。


 最も困るのは、港の建設地に最も近い浜田広綱に食料を奪われ籠城されることだ。


 そうなれば、雪深い地で攻城戦を余儀なくされ、春までの落城は絶望的と言える。


 命令を与えるべく、ぐるりと辺りを見回した。


「放牛は宮崎へ、隆秀は岩手沢へ向かえ。無理に攻める必要はない。連中を合流させず、足止めするだけで十分だ」


「はっ」


「かしこまりましてございます」


「隆信は胆沢を任せる。…………南部の動きがきな臭いゆえ、注意を怠るなよ」


「はっ!」


「その他の者は港の兵糧を城内に運び入れ次第、気仙へ向かう」


「「「はっ!」」」


 各々が席を立つのを見届けると、同じように立とうとした垪和康忠を捕まえた。


「おぬしに急ぎ使いを頼みたい」


「どちらまで行けばよろしいでしょうか」


「黒川城の蒲生殿のところだ。此度の反乱は裏で伊達政宗が扇動している恐れがある、とな」


 これは賭けだ。証拠もなく、未来の知識で先読みしているだけにすぎない。言うならば、過程を無視して結果だけを求めようという行為だ。


 それでも、何らかの形で伊達政宗が噛んでいるのは間違いないと思っていた。


「確たる証拠があるわけではないが、下手に手を出されても困るゆえ、くれぐれも伊達政宗から目を離さないでほしい、と」


「かしこまりました。必ずや蒲生様にお伝え致しましょう」


 垪和康忠を見送ると、吉清はため息をついた。


 自分が一揆勢を打ち倒し、伊達政宗が関与した証拠を掴めば自分が勝ち。

 一揆勢に敗れるか、伊達政宗が関与した証拠を見つけられなくても自分の負けとなる。


 もしも負けたら……。


 弱気が鎌首をもたげ、慌てて首を振った。


 自分は出来るだけのことはやった。この地で善政を敷き、万一の時に備えて軍備も整えた。バックアップをさせるべく、蒲生氏郷に報告もした。これ以上ないくらい備えに備えを重ねた。


 その上で失敗したとして、いったい誰が自分を責められようか。いったい誰が自分を糾弾できるというのだろうか。


 ふと、先程の荒川政光の言葉が脳裏によぎった。


「天命、か……」


 荒川政光は、この乱は天命であり吉清に非はないと言った。


 では、仮に吉清が破れることになれば、それも天命と言えるのではないだろうか。というより、正史ではこの一揆がきっかけで失脚するのだから、むしろ自分が失脚することこそ天命なのではないか。


 そうならないよう、様々な準備をしてきたつもりではあったが、すべてが天命で決まるというのなら、それさえも無駄であったというのか。


 ともあれ、自分はやれるだけのことはやった。民を苦しめないように努め、葛西、大崎の旧臣たちも重用した。それでも反乱が起きてしまったのなら、これ以上考えても仕方がない。起きてしまった以上、あとはもう祈ることしかできないのだ。


 軍議が終わり、忙しなく働く家臣達を見て、吉清はなんとも言えない気分になった。


 人事を尽くして天命を待つという言葉があるが、その意味を身を持って理解した。なるほど、人はこれ以上手を尽くせぬ時に、天に祈るのか。

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