京都、聚楽第。
天下統一を成し遂げた秀吉は奉行衆を集めると、次の目標を宣言した。
「明へ攻め込むぞ」
普段は冷静な三成が珍しく狼狽した。
「お、お待ちください! 現在、明とは友好的な関係を築いており、戦をする理由などございません。どうか、いま一度お考え直しを!」
「治部の言うとおりです。日ノ本は未だ統一を果たしたばかり……。まずは国内の開発をするべきかと」
自分に意見した三成と吉継を、秀吉がじろりと睨む。
「わしの言うことが聞けぬと申すのか?」
「いえ、そのようなことは決して……」
「ならば、すぐに支度せい!」
いきり立つ秀吉を、小西行長が制した。
「お待ちください。まずは降伏の使者を送ってみてはいかがでしょうか」
明らかに秀吉を思いとどまらせるための、時間稼ぎを意図した提案だったが、秀吉は真に受けたらしい。
「そうだな。そうしよう」
機嫌を良くした秀吉に、三成や吉継は頭が痛くなった。
(そんな話……)
(誰が受け入れるというのだ……)
数週間後。明から返書が届いた。
曰く、
『何寝ぼけたこと言ってんだ? 普通、立場逆だろ? むしろそっちが朝貢するんなら認めてやってもいいけど』
とのことである。
返書を手にした秀吉がわなわなと震えた。
「……これはわしを侮辱しておるな」
返書を破り捨てると、顔を真っ赤にした。
「三成! 兵を出せ。明王の首を獲ろうぞ!」
こうして、全国の大名に明征伐の号令が出された。
世に言う文禄の役である。
侵攻計画を練るべく、奉行衆で会議が始まった。
三成が呆然とつぶやく。
「大変なことになった……」
「殿下は明へ攻めろと仰せか。あまり大声では言えぬが、殿下ももう歳……。耄碌されてもおかしくないな……」
「口を慎め、刑部。どこで聞き耳を立てられているかわからぬぞ」
「明まではどう攻めますかな? 朝鮮から攻めますか」
小西行長の問いに、三成が地図を広げた。
西日本、中国大陸、台湾まで入った、東アジアの地図である。
大坂から北九州を経由し、朝鮮まで指でなぞった。
「明までの行軍経路は朝鮮、黄海、高山国が考えられるが、一番現実的なのが朝鮮からの侵攻だ。
対馬を経由し、朝鮮を制圧しながら陸路で進軍する。現地で略奪をすることも考えれば、兵糧の不安も少ない。
黄海を経由し沿海を通るのだとすれば補給線が長くなりすぎる。沿海部を通らず近海通ったとしても、兵站が寸断されることも考えると、楽観視できない。
何より、船で移動する時間が長くなるほど、大軍を移動させるのは難しくなる。
高山国へは一度外洋に出なければならず、
大軍を送るにはあまりにも航路が長すぎる」
一通り説明する三成に、吉清が口を挟んだ。
「されど、高山国は沿岸部を倭寇が占拠しているだけですので、制圧自体は難しくないかと。朝貢もしておらず、明の支配地域でもありませぬゆえ、明からの援軍も来ますまい」
史実でも、倭寇の拠点となって以降、スペイン、オランダの拠点になったりと、ヨーロッパのアジア進出の重要な足がかりとなった。
スペインは元より、オランダは人口の少ない国である。
人的リソースが少なく、地球の裏まで兵を送るコストも馬鹿にならないというのに、あっさりと高山国──現在の台湾は制圧できてしまった。
「ただ、内陸部では首狩り族がいるとのことで、注意が必要だ。
高山国全土を支配する勢力もなく、稲作も進んでおらぬゆえ、兵站にも不安がある。港や街道も一から造る必要があろうな」
もっとも、それは制圧したらの話だが。
一通り話を聞いて、大谷吉継が頷いた。
「では、高山国の侵攻は木村殿に任せて、我らは朝鮮侵攻の計画を立てるとしよう」
「えっ、それがしが!?」
「これほど高山国の事情に精通している者も、そうはおるまい」
浅野長政も吉継に同調する。
「聞くところによれば、北蝦夷島に兵を送り、またたく間に港を造ってしまったとか。木村殿こそ、まさに、今回の役目にうってつけではないか」
三成が頷いた。
「では、高山国の侵攻は木村殿に任せるとしよう」
こうして、吉清は高山国──現在の台湾の侵攻を任されることになるのであった。
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