現在、木村家には大きく三つの派閥があった。
一つ目は、旧北条家臣で構成された小田原衆だ。吉清の着任当初から支えており、吉清から頼りにされているという自負がある。
その反面、在郷の国衆の我が強いおかげで検地や刀狩りといった改革が進まなかったこともあり、在地の勢力に対しては反感を抱いていた。
二つ目は、旧大崎家臣によって構成された、大崎衆だ。四釜隆秀、南条隆信、一栗放牛らが旗頭となり、旧大崎領を中心に力を持っている。
古くからこの地に勢力を構えていたこともあり、自分たちを差し置いて、新参者で木村家中において高い発言力を持つ小田原衆に対しては良い感情を持っていない。
三つ目は、旧葛西家臣によって構成された、葛西衆だ。基本的には大崎衆とスタンスは変わらないが、古くから両家が対立していた経緯もあり、独立した派閥となっている。
また、領内で反乱を起こした者の多くが葛西衆であったことから、規模が小さく、発言力も低い。
それでも、葛西の旧領であった沿岸部の土地を持っており、未だに強い影響力を持っていた。
これらの派閥との兼ね合いから、家老には小田原衆と大崎衆をそれぞれ同じ数だけ任命するに至った。
しかし、これに葛西衆が反発したのだ。
「やはり、葛西衆の者も家老に任じた方が良いのでしょうか……」
四釜隆英の言葉に、吉清がううむと唸った。
大崎衆である四釜隆英らを重用したのは、彼らが当初から吉清に協力的だったことや、合戦や政務において活躍した功績が大きかった。
しかし、葛西衆の面々は家老職に任ずるほどの功績は積んでおらず、家中における勢力図のバランスを取るためだけに任命しては不公平な気がした。
「やはり、家老は今のままでよかろう。……でなくては、他の者に示しがつかん」
「しかし、それでは火種を残したままとなりましょう」
本来、対立する派閥に位置する四釜隆英がここまで言うのだから、領内で起きた軋轢は相当なものであると言えた。
現在、葛西衆と石巻奉行として政務を取り仕切る荒川政光の間で軋轢が生じていた。
葛西衆にとっては、石巻も元は葛西領であり、差配するのなら自分たちが、という思いがあった。
しかし、元々吉清に対して従属的ではなかっただけに重用もしづらい。
一方で、荒川政光は吉清の着任当初から内政面において多大な貢献をし、木村家の重鎮として筆頭家老の責務をまっとうしている。
また、奥州木村領における政治と経済の中心地となった石巻を、彼らに任せることもできない。
石巻奉行の仕事には、新たに建設した景宗船の造船所が含まれており、木村家における要となっていたのだ。
「それでも、何かしらの要職につけなければ、やつらも納得しますまい」
「ううむ、そこなのだがな……」
国衆としての我が強すぎる故か、葛西衆はなかなか領地から離れようとしなかった。
そのため、郡を治める代官──郡代に任命するに留め、他の役職は任せていない。
「ですが、このまま放置していては、お家騒動にまで発展しかねません」
「……………………」
せっかく葛西大崎一揆を防いだというのに、家臣同士の諍いが原因でお家騒動にまで発展し、改易となってしまっては笑えない。
吉清は自分の保身に関しての行動は早かった。
「とにかく、一度石巻へ帰ろう。ここで話しておるより、向こうへ行った方が何かと進めやすかろう」
「はっ!」
こうして、四釜隆英を伴って石巻へ帰還したのだった。
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