【完結保証】 小物武将、木村吉清 豊臣の天下で成り上がる! (旧題)マイナー戦国武将に転生したのでのんびり生きようと思ったら、いきなり30万石の大名になってしまいました

知識チートにならない範囲の現代知識で、豊臣政権で内政無双する話
田島はる
田島はる

幕間 関白メシと政宗シェフ1

公開日時: 2022年12月16日(金) 12:08
文字数:2,526

 吉清、政宗、義光の三人は、無言で政宗の料理に舌鼓を打っていた。


 器を空にすると、吉清は息をこぼした。


 ご馳走になっておいてなんだが、少々物足りない。これしきの量では前菜ではないか。


 そう思ったところで、秀次が台所から戻ってきた。


 ──なぜか、手に鍋を持って。


「実はな、政宗にならい、私も料理を作ってみたのだ」


 秀次の持ってきた鍋を開けると、この世のものとは思えぬ色をした汁に、動物の骨や草が入っていた。


 野趣溢れる香りに、政宗、義光が固唾を飲む中、吉清が恐る恐る尋ねた。


「殿下、こちらに入っているのは……」


「虎の骨だ。珍しいものゆえ、良いダシが取れると思ってな」


 なるほど、と吉清と義光が引きつった笑みを浮かべる中、政宗が小声でつぶやいた。


(取れ、骨は! そのまま鍋に入れてはダシではなく具であろう……!)


 謎骨の正体がわかると、吉清は鍋の中に浮かぶ草を差した。


「こちらの野草は……」


「薬草だ。曲直瀬道三の元を訪れた際、いくつか譲ってもらったのだ。そなたらの健康を案じてな」


 秀次の余計な配慮に吉清と義光が苦笑いを浮かべる中、政宗は小さくつぶやいた。


(入れるな、薬草を! なぜ料理を作ったこともないのに、薬膳に挑戦しようとする!)


 吉清がお玉杓子で軽く掬うと、粘性の高い汁がぼとぼとと鍋に戻った。


 とてもではないが、人が食べるものとは思えない。


「…………殿下、こちらは味見はされたので……?」


「うむ。小姓の万作に味見をしてもらった。こんなにうまい物は食べたことがないと絶賛されたぞ」


 誇らしげに胸を張る秀次に、誰もが「そりゃそうだろうな」と思った。


 政宗、義光を見ると、同じように目が合った。


 どうやら吉清と同じように、誰を生贄にするか考えていたらしい。


 水面下で牽制が始まったところで、秀次の元に使いの小姓がやってきた。


「おっと、すまぬな。少し用事が入った。しばし、ここで待たれよ」


 秀次が去ると、後には鍋と、鍋を囲うように座る男三人が残された。


 政宗と義光が虎視眈々と生贄を探す中、吉清が政宗に向き直った。


「お主は殿下の隣で料理をしておったのだろう!? なぜ殿下を止めなかった!」


「止められるはずがなかろう! 相手は関白だぞ!」


「であれば、もっと色々とできたであろう! 料理に口を出すなどして、これよりマシな物を作るとかな!」


 うっ、と政宗が怯んだ。


 政宗としても、そこを責められると痛い。


 様子を覗っていた義光も、政宗が劣勢と見るや、いかに政宗に処理させるか思案しているように見えた。


 ……このままではまずい。


 そう思った政宗は吉清に顔を近づけた。


(木村殿。ここは、殿下の親戚となられる伯父上に食べていただくのが筋というもの。是非とも伯父上に食べていただこう)


 吉清としても、自分さえ助かればそれで良かった。

 義光を犠牲にして自分が助かるのなら、むしろ願ったり叶ったりであった。


(うむ。そうしよう)


 吉清と政宗、初めて両者の思惑が合致すると、二人で義光を挟むように座った。


 困惑する義光をよそに、政宗がわざとらしく咳払いをした。


「関白殿下お手製の料理となれば、それがしが口にするなど畏れ多い。……となれば、殿下の親戚となられる伯父上にこそふさわしい!」


「まったくそのとおり! 伊達殿のおっしゃる通りよ!」


 突如歩調を合わせ、陥れようとしてくる二人に、義光は困惑した。


「お主らいつの間に仲良くなったのだ……!」


 さすがに2対1は分が悪い。


 すかさず、義光が吉清に耳打ちした。


(お主は政宗に借りがあると聞く……。儂も、政宗には借りがあるのだ。あやつのせいで太閤殿下への挨拶が遅れ、庄内を上杉に盗られてしまったからの……)


 義光の言葉に、吉清が頷いた。

 たしかに、政宗に美味しい思いをさせるというのも、気分がいい話ではない。


(では、我らの思惑は一致しておりますな)


 吉清は立ち上がると、義光と共に政宗を挟むように座る。


 義光が咳払いをした。


「伊達家は奥州の名門! 伊達殿こそ、我らを代表して殿下の料理を賜るにふさわしかろう!」


「まったくそのとおり! 儂も最上殿と同じ意見じゃ!」


 2対1。劣勢と見た政宗が、すかさず義光に耳打ちした。


(木村吉清は奥州でも新参者……。居なくなっても困らぬであろう。……伯父上も、吉清が倒れた方が大崎家再興の望みが繋がると思うのだが……?)


 政宗の言葉に、義光が頷いた。

 たしかに、大崎家が再興するよう手を回していただけに、吉清は邪魔な存在である。


 義光が政宗と共に吉清を挟むように席を変えると、政宗が咳払いをした。


「聞けば、木村殿は関白殿下にたいそう気に入られているという……。木村殿こそ、此度の料理を賜るにふさわしかろう」


「まったくそのとおり! 此度のお役目、木村殿ほどの適任はおらん!」


 政宗の言葉に義光が同調する。


 二人に詰め寄られ、劣勢になった吉清は、ターゲットを政宗に絞ることにした。


「この場はやはり、伊達殿に召し上がって頂くのがよいと思う。日頃から健康には気を使っておるようだし、これくらいで死にはせんだろう」


 吉清に挑発され、先ほどから苛立っていた政宗が立ち上がった。


「なんだと! また貴様の領地で一揆を起こしてやろうか!?」


「おう、やれるものならやってみよ! ただし、そのときには米沢だけでは済まぬだろうがな!」


 この期に及んで続けられる吉清と政宗の不毛な争いに、辟易した義光が二人を諌めた。


「落ち着け、二人とも。ここは、三人で知恵を絞ってなんとかやり過ごそうではないか」


 義光の提案に、吉清が異を唱えた。


「知恵を絞ってどうするというのじゃ」


「時に、政宗は料理が達者であったな。これをうまく作り直すことはできるか?」


 政宗は鍋の蓋を開けると、箸でかき混ぜた。


「ふむ、具はすでに煮えているな……。汁だけ作り変えて、軽く煮込めばなんとかなるやもしれん」


 吉清、義光が政宗の料理眼に感心した。


 これで、誰も犠牲にすることなくこの場を上手く切り抜ける、一縷の望みができたのだ。


「では、政宗が作り直している間、儂が関白殿下の足止めをしよう」


 義光の申し出に、吉清は頷いた。


「では、儂は伊達殿の手伝いをしよう」


 役割分担を決めると、三人は顔を見合わせ頷いた。


 こうして、奥州を代表する三人の大名が、初めて手を取り合うこととなるのだった。

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