日本に帰国すると、名護屋に滞在していた秀吉に目通りすることとなった。
「此度の遠征、ご苦労であったな」
秀吉の労いに、吉清と亀井茲矩が平伏した。
「ははっ!」
褒美に関しては既に決まっていたのか、三成が淡々と読み上げた。
「殿下より、木村殿には引き続き高山国の北部と中部を、亀井殿には南部を任せることとなった。ルソンについては臣従させた木村殿に任せるとのこと」
「ははっ、拝領仕ります」
「ありがたき幸せ」
平伏する吉清に、亀井茲矩がおずおずと頭を上げた。
「恐れながら、殿下よりさらなる褒美を賜りたく……」
「領地に飽き足らず、まだもらう気か……」
呆れる三成の言葉を制し、秀吉が扇子を向けた。
「よい。申してみよ」
「ははっ、それがしは呂宋守の官位を賜りたく存じます」
当然、そんな官位は存在しない。
日本の官位は古代の律令制の国名を元にしているため、そんな官位があるはずがない。
しかし、見方を変えればルソンを日ノ本に加えると提言しているようで、秀吉の支配心をくすぐった。
元来、奇抜なものや人とは違うものを好む秀吉の琴線に触れたのか、にっこりと笑った。
「よいぞ」
「ありがたき幸せ」
感極まった様子で平伏する亀井茲矩に、吉清は少し冷めた目を向けていた。
本当に欲しいのか、これ?
首をかしげる吉清に、ゴキゲンな秀吉が扇子を向けた。
「吉清、そなたは…………樺太? なる島を持っていたな。高山守と樺太守の官位を授けよう。好きな方を名乗るがよい」
自分に飛び火するとは思わず、吉清は固まった。
存在しない役職名を名乗るなんて、架空の役職を名刺に書くようなものだ。
田舎では官位を自称することも多いが、それが可愛く見えてくるほど痛々しい。
できるのなら断りたい。
しかし、秀吉がわざわざ授けると言ってるものを、無下にもできない。
吉清は少し考えて、
「はっ……それでは、樺太守を……」
諦めて受け入れることにしたのだった。
「うむ。木村樺太守吉清、亀井呂宋守茲矩。今後も豊臣のために尽してくれ」
「ははっ!」
「……はっ!」
こうして、吉清の官位は伊勢守から樺太守と変わったのだった。
領地に戻るのための船に乗ると、清久が出迎えた。
「父上、樺太守の叙任、おめでとうございまする」
笑いを堪えた様子の清久に、吉清はムッとした。
吉清とて、名乗りたくて名乗ってるわけではないのだ。
何が楽しくて厨二病官位を名乗らなくてはならないのか。
イライラした吉清は反撃に出ることにした。
「………そういえば、清久にも官位を貰ってきたぞ」
「まことにございますか!? して、私の官位は!?」
「高山守じゃ」
「……………………高山守?」
清久が固まった。先ほどまで笑っていた厨二病官位を、今度は自分が名乗る番になってしまった。
「うむ。今日より、そなたは木村高山守清久じゃ」
「…………はっ」
照れと羞恥の混ざった顔で、清久は受け入れるのだった。
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