【完結保証】 小物武将、木村吉清 豊臣の天下で成り上がる! (旧題)マイナー戦国武将に転生したのでのんびり生きようと思ったら、いきなり30万石の大名になってしまいました

知識チートにならない範囲の現代知識で、豊臣政権で内政無双する話
田島はる
田島はる

数ヶ月後

公開日時: 2022年11月23日(水) 12:29
文字数:2,267

 高山国を制圧して、数ヶ月が経過した。


 開発も順調に進み、名護屋城に後詰めとして控えていた清久を呼び寄せることにした。


 中華風の建物が建ち並び、想像以上の発展に驚きつつ、清久が膝をついた。


「木村軍後詰め2000、ただいま参上しました」


「よく来たな。ちょうど今見せ物をやっていたところだ。お主も見ていくといい」


「はぁ……」


 吉清に連れられやってきたのは断崖絶壁だった。倭寇の一人の腕に、刃が突き立てられる。


「助命懇願! 我悪行皆無! 誠実的人間性! 真面目的勤務間違無!」


 喚き散らす男に、周囲の倭寇が手足を掴み刃を押し当てる。


「悪逆非道! 無慈悲!」


 手足の腱を切られ、男は手足が動かせなくなった。抵抗ができなくなるのを確認すると、他の男たちが海へと放り投げた。


 水面に広がる血液。海面を滑る三角形の背ビレが、あの男の運命を教えてくれた。


 あまりの凄惨さに清久は顔をしかめた。


「あの者は何をしたのですか!?」


「明から略奪した財宝を横領したのだ。儂に献上するはずのものをな」


「略奪!? えっ献上!?」


 戦場であれば、略奪くらいはどこでも行われている。ただ、ここに献上という言葉もつくと、別の意味に聞こえてならない。


 略奪したらしい金銀や骨董品を手に、吉清がほくそ笑む。


「さすがは明だな。よい財宝がゴロゴロしておったわ。これで当家の財も潤うぞ!」


 見回すと、木村軍の兵士に混ざって、見慣れない者も働いていた。


 明の者のようで、どこか海賊のようにも見える。


「……まさか、父上は倭寇を従えているので?」


「そうだ」


 敵地の兵を登用し自軍に加えるとは、さすがは父上。そう思いながらも、どこか違和感。


 なんなのだろうか、この妙な感じは。


「我らを呼んだということは、いよいよ明へ攻め込むのですね」


「いや、お主らを呼んだのは、奴隷や倭寇どもが反乱を起こしてもいいように、目を光らせておくためだ」


「……では、倭寇たちを使って明へ攻め込むということですか?」


「いや、倭寇には略奪だけさせている。明船と明の港を中心にな」


「…………それでは、いつ明へ攻め込むので?」


「10年後くらいじゃな」


「………………父上は何をしにここへ来られたので?」


「高山国を制圧するためだ」


「明を征服するためでしょう! 父上はそのための足がかりとして高山国へ来たのではなかったのですか!?

 略奪ばかりして……これでは賊と変わりませぬ!」


 家臣一同が「よくぞ言った」という目で清久を見る中、吉清は遠く海を眺めた。


「……それでは、朝鮮に攻めていった者たちはどうしていた?」


「……皆疲弊しておりました。慣れない土地に道も整っておらぬとのこと。

 さらに、豊臣軍が来る前から飢饉が起きていたらしく、略奪で兵糧を賄うはずが、それもままならないと。

 また、朝鮮兵は戦うまでもなく逃亡するため、進軍が順調すぎるのも兵糧が前線まで行き渡らない原因になっているようで」


「我らが明へ攻めば、この状況が変わるか?」


「……微力ながら、役に立てるのではないかと」


 弱々しくつぶやく清久に、吉清はハッキリと告げた。


「豊臣軍15万でも、明はおろか朝鮮でさえまともに侵攻できていないのだ。

 儂の軍が1000、亀井殿の軍が1000、清久の軍が2000。合わせて4000だ。これでどうやって明と戦えというのだ。

 いたずらに兵を減らすくらいなら、ここで明攻略の足がかりでも作っていた方がよほど有意義というものよ」


 清久ががっくりとうなだれた。


「…………父上のおっしゃるとおりです。私が浅はかでした」


 己の考えの浅さを知り小さくなる清久に、吉清はうんうんと頷いた。


「清久も若い。……まだまだこれからよ。そんなお主には……ほれこれをやろう」


 そう言って、吉清は明で略奪した宝剣を渡した。


「は、はぁ……」


「遠慮するでない。お主だけでなく、他の家臣にも財宝の分け前は渡しておる」


 清久が彼らに目を向けると、バツが悪そうに目を逸らした。


 さては、父上の蛮行を見逃す代わりに賄賂をもらっていたな。


 彼らには後で事情聴取をするとして、乱雑に積まれた財宝に目を向けた。


「……そういえば父上、これほど大量の財があるのですから、殿下には何か献上されたので?」


「えっ!?」


 吉清は腕を組むと、少し考えるふりをした。


 当然、考えるまでもなく何も献上してはいないのだが。


「ど、どうだったかのぅ。献上したような、してないような……。うん、いい機会だ。殿下にも何か献上しておくか」


 金銀財宝を漁り、その中で一際大きな中華風の壺を手に取った。


「これなどどうだろうか」


「少し地味ではないでしょうか? 殿下は派手なものを好むお方。もっと豪奢なもので良いでしょう」


「そうか……」


 再び財宝を漁ろうとした吉清の元に、息を切らした様子で小姓が駆け寄ってきた。


「大変です! 当家の倭寇が南蛮船と交戦しました!」


「何っ!?」


 倭寇の襲った港に、偶然イスパニアのガレオン船が停泊しており、倭寇に対して艦砲射撃を行った。


 それによって、倭寇の船が次々と大破し、甚大な被害が出ることになったのだ。


「ええい、イスパニアめ。余計なことばかりしよるわ!」


 これに対し、吉清は木村軍の編成を見直した。新たに機動力に優れた水軍を用い、陸から迂回して停泊しているガレオン船に攻撃を仕掛けた。


 そうして、乗船を果たした木村兵とイスパニア兵で、船上での白兵戦に突入した。


 兵数に不利を抱えるガレオン船は劣勢に追い込まれ、敗北を悟った船長は降伏を申し出た。


 こうして、鹵獲したガレオン船は秀吉に献上され、イエズス会に野心ありと判断した秀吉によって、ルソン侵攻の命令が下されるのだった。

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