【完結保証】 小物武将、木村吉清 豊臣の天下で成り上がる! (旧題)マイナー戦国武将に転生したのでのんびり生きようと思ったら、いきなり30万石の大名になってしまいました

知識チートにならない範囲の現代知識で、豊臣政権で内政無双する話
田島はる
田島はる

大崎の旧臣

公開日時: 2022年11月11日(金) 07:18
文字数:3,499

 先に息子の清久を旧葛西領だった寺池城に向かわせ、自身は小田原へ急いだ。


 狙い通り、内政に優れた者や武勇に長けた者を召し抱えることに成功した。


 渋江田法という検地法を編み出し、のちに佐竹家の家老となる荒川政光を筆頭に、大道寺直英、塀和康忠などの内政に長けた者。


 武田の旧臣でもあった小幡信貞、大坂の陣で活躍した御宿勘兵衛を筆頭に、中山照守などの武勇に優れた者。


 他にも何名も召し抱えることに成功し、木村家臣団は急速に拡大した。

 そのほとんどが北条ゆかりの者とはいえ、北条家200万石を支えた名臣ばかりで、元々5000石の旗本だった自分よりも優れた者ばかりだ。


 彼らを連れ、息子の清久の入った寺池城に入った。


「父上、お待ちしておりました」


 清久が頭を下げる。


 既に奥州仕置として入った浅野長政から引き継ぎを受けていたようで、領内のことを教えてくれた。


 葛西家も大崎家も、大名とはいえ国内の豪族たちの連合体の盟主にしかすぎない、いわば旧態依然とした支配体系をとっている。


 そのため、30万石の太守と言っても、実質的な直轄地は10万石も届かない。それだけ家臣の力が強く、その家臣たちを敵に回せばどうなるのか。その結果は夢の中で見た通りだ。


 足元を固めるためにも、葛西大崎の旧臣は取り込まなくてはならない。清久に目配せをした。


「葛西と大崎の旧臣たちを招集してくれ」


「はっ!」


 理想は秀吉の治める畿内のように中央集権型にすることだが、事を急ぎすぎると夢の中の一揆が起きてしまう。


 一つずつ、着実に外堀を埋めていかなくては。






 大崎家臣であった四釜隆秀は寺池城に向かっている途中で、見知った顔が目に入った。


「南条殿!」


「おお、これはこれは四釜殿。貴殿も寺池城へ?」


「いかにも。なんでも、新たに寺池の領主となられた木村殿の顔合わせだとか」


「顔合わせねぇ……」


 南条隆信が苦笑した。


「わしゃあ今まで通りに土地を治めて、酒が飲めればそれでいいわい。ヘンなことをされるより、何もせん方がよいわ」


 四釜隆秀は何も言えなかった。たしかに、何もしないで、そのまま自分の領地を安堵してくれれば、それが一番いい。ただ、それが一番難しいこともわかっていた。


 豊臣秀吉が小田原征伐を行っているさなか、自分の主家である大崎家は混沌としていた。


 急成長する伊達政宗につこうとする伊達派と、大崎義隆の妹君の嫁ぎ先であり良好な関係を維持している最上派の二つがあった。


 そして、寵童であった新井田隆景と伊場野惣八郎との間で争いが起こるとそれぞれの派閥に飛び火し、大崎家中を二分する内乱を引き起こすこととなった。


 奥州仕置により押さえつけられているが、いつ暴発してもおかしくはない。


 事態を解決するには、どちらかを処罰するなり矛を収めさせるなりする必要がある。そこには安穏とした生活などあるはずもなく、いつ暴発するやもしれぬ爆弾を懐に抱えることを意味している。

 いつ家中を二分する内乱が起こってもおかしくないわけで、そんな家を取りまとめる新任の領主の苦労はいかばかりか。


 そこまで考えて、四釜隆秀が目を細めた。


「……うん? あそこにおられるのは、一栗放牛殿ではないか?」


「……本当だ。おーい、一栗の爺さーん!」


「む?」


 南条隆信に呼び止められ、老齢の武将が足を止めた。


 一栗放牛。齢90にして未だ現役、大崎を支え続けた歴戦の猛将である。


「隆信殿に隆秀殿か。主らも木村殿のところへ向かう途中か?」


 二人が頷いた。


「それは良かった。時に隆秀殿。少しばかり銭を都合してもらいたいのだが……」


「また博打に興じておられたのですか」


 呆れた様子の四釜隆秀に、南条隆信が肘で小突いた。


「いいんだよ。爺さんは負けた分を戦で取り戻すんだから」


「カッカッカ! わかっておるではないか!」


 南条隆信の肩を抱き、快活に笑った。






 家臣一同に向き直り、吉清は軽く咳払いをした。


「新たにこの地を治めることとなった、木村伊勢守吉清にござる」


 四釜隆秀、南条隆信、一栗放牛を始め、旧葛西・大崎家臣たちが一人ずつ挨拶をした。


 四釜隆秀が一歩前に出て。


「本日はいかなご用向きで?」


「そなたら葛西、大崎家臣の知行を安堵する書状を出す。これで、そなたらは以前と変わりなく、各々の領地を治めるがよい」


 家臣一同が吉清に平服した。心なしか、ホッとしている者も多いように見える。


「これより、我が木村家に忠誠を尽くすように」


「「「「はっ!」」」」


 これにより、葛西、大崎家臣の吸収は終わった。ひとまず一揆が起きる未来を遠ざけることはできたが、まだ足りない。


「忠誠の証として、人質を出してもらう。そなたらの正室と嫡男を寺池城に集めておけ」


「「「「はっ!」」」」


 家臣一同が返事をするも、どこか固くなっているように見える。口では忠誠を誓えても、行動に移すとなると難しいということか。


 吉清は辺りを見回して、


「まずは、我が木村家に掟を定めたいと思う。これはお主らのみならず、儂も守るべき掟となり、ひいては木村家に代々残ることとなる。大事なものゆえ、家臣一同で決めようと思う。各々意見を出してほしい」


 家臣たちと新たに定める分国法の磨り合わせをおこなうことにした。


 とはいえ、一から作るわけではないので、大した手間ではない。元々北条の中にあった規則や、伊達晴宗の定めた塵芥集、他にも様々な分国法をつなぎ合わせた寄せ集めにすぎない。


 これを定めることで家臣を裁く基準を設けることができ、組織の中に決まりを作ることで統率も取りやすくなるだろう。


 話し合いが思いの外長丁場になりそうだったので休憩を設けた。と、ふと四釜隆秀と目があった。


 側に寄ると、軽く会釈をされた。


「……殿は不思議な方ですな。家臣となったばかりの我らに、領国の決まりを作らせるとは。こういうものは、殿が内々で定めたものを、我らに下知されるものとばかり思っておりましたが」


 もっともな反応に、吉清は苦笑した。


「実のところ、儂は元は5000石の旗本でな。これほどの領地を切り盛りするなど初めてのことで、右も左もわからぬのだ。蒲生殿に家臣をまとめ、領地を良く治める秘訣を尋ねたところ、『上も下もなく意見を募り家臣や領民の意見に耳を傾ける』ことだと教わってな。それを真似することにしたのだ」


「なるほど」


 四釜隆秀が納得がいったように頷いた。


 葛西大崎家臣の中で、何人か前世でプレイした某歴史ゲームの中で聞いたことのある名前があった。四釜隆秀もその一人で、序盤から中盤にかけて世話になった記憶がある。


 それだけ優れた武将なら、懐柔しておいて損はない。


 わざとらしく咳払いをすると、半歩距離を詰めた。


「時に隆秀。そなたは知勇に長けており、なんでも、あの伊達政宗を一度は退けたというではないか」


 まさか知っているとは思わなかったのか、驚きと困惑が混ざったような顔をした。


「え、ええ、ですが、あれは私だけの手柄ではございません。隆信殿の奮戦あってのことです」


 隆信とは、大崎家臣の南条隆信のことだ。評定を振り返り、顔を思い浮かべた。彼もゲームで世話になった覚えがある。


 吉清はうんうんと頷いた。


「功を誇らないところも、そなたの美徳じゃ。今後も頼りにしておるぞ」


「殿のご期待に沿えますよう、精一杯お仕えいたしまする」


 少し熱の籠もった言葉に、知行を安堵した時以上の手応えが感じられた。やはり、配下に目をかけるだけでこうも違うものか。






 その後、話し合いは夜まで続いた。


「外も暗くなってきたゆえ、本日はこちらに泊まるがよい。こたびのために上方から馳走を用意したゆえ、遠慮なく食べるがよい」


 家臣たちから歓声が湧いた。中でも南条隆信がひときわ大きな声で喜んでいた。


 食事をする傍ら、家臣の心を掴むべく武功の話に耳を傾け、妻の愚痴に心を寄せ、ふとした小噺に大いに盛り上がった。


 話もきりのよいところまで来ると、吉清は立ち上がった。


「わしは席を外すゆえ、そなたらはそのまま呑んでいてくれ」


「どちらに行かれるので?」


 顔を赤くした南条隆信が尋ねると、少し照れくさそうに答えた。


「風呂の支度だ。皆も今日は疲れたであろうからな。存分に汗を流してほしい」


「と、殿自ら風呂の支度をされるのですか!?」


「うむ」


 家臣たちに動揺が走った。


 主君自ら風呂を用意するのは、この時代では最上級のもてなしとされている。


 現代日本とは違い、この時代では風呂を沸かすのは重労働とされている。ましてや、湯船を張った風呂というのは、限られた身分の者しか味わうことのできない贅沢なことだ。


 窯に火を付け、息を吹き込みながら、吉清は内心せせら笑っていた。風呂焚きは重労働だが、この程度のことで一揆が防げるのなら、安いものだ。

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