急速に領地が拡張した木村家では、深刻な人手不足に伴い、新たな人材の登用を進めていた。
高山国、ルソン侵攻をまたたく間に成功させた勢いのある家として認知され、大名のみならず武士や浪人からの覚えも良くなっている。
そうした背景もあり、予想を上回る量の浪人が集まることとなった。
木村家の屋敷に押しかける浪人を眺め、大道寺直英がつぶやいた。
「ずいぶんと集まりましたな……」
「数だけではダメじゃ。質も選りすぐらなくてはならん」
史実の葛西大崎一揆では、適当な家臣を登用してしまったばっかりに領民に乱暴狼藉を働き、一揆を招く結果となってしまった。
今回、木村家の領地や石高が急速に上昇したこともあり、まさに史実と似た状況が揃ってしまっている。
人材を募りつつ、慎重に選考を進めていかなければ。
「殿、この者など、なかなか見どころがありますぞ」
木村家に就職希望する者のリストを広げ、直英が指した名前を見た。
「川村重吉か……」
知らない名前だ。
だが、大道寺直英が言うのであれば間違いないだろう。
そうして、吉清直々に会ってみることにしたのだった。
「お初にお目にかかり、恐悦至極に存じます。それがし、川村重吉と申します」
「お主が直英の言っていた者か……」
貧しい身なりの男──川村重吉が頭を下げた。
「直英から、見どころのある者と聞いたが?」
「それがしは治水や土木技術に自信がございます。それがしの力、木村様の元で発揮したく存じます」
「ふむ……」
口で言うだけならいくらでもできる。
現に、倭寇の中にも忠誠心の高さをアピールした者がいたが、実際には横領の罪でサメのエサとなった。
あの男のように口だけは達者なビッグマウスの可能性もあるが、こいつはどうだろうか……。
吉清が迷っているのを察したのか、川村重吉が遠慮がちに口を開いた。
「時に、木村様の領地である石巻は、大きな川の流れる平地だとか」
「よく知っているな」
「そうした土地は、川が土砂を運び平野が造られていきまする。ゆえに、水も豊富でいくつもの支流が流れ、海に注ぎましょう」
吉清が頷いた。たしかに、そんな感じの土地がひろがっている。
「平時では豊かな米どころとなりましょうが、一度大雨が降れば、川が氾濫し平地の大部分が洪水を起こしまする。
そうした災害を防ぐべく、支流を一つにまとめ、危うきところには堤防を築きます。豊富な水量を活かし、城下に用水路を築きますれば、物の流れも良くなりましょう。
さらに、支流が減ることでその分の土地が空き、農地にできる土地が増やせます。今まで開拓の行き届かなかった湿地や荒れ地も、同じように水の流れを変えることで、良き田畑となりましょう」
「ほう……」
吉清が感心した様子で頷いた。
「森羅万象の前に人の力など無力なものです。
されど、水を治めることで災禍の備えとし、実りを増やし営みを助けることこそ、治水のあるべき形であると思っております」
ひとしきり話を聞いた吉清がニヤリと笑った。
「面白い……。直英、こやつを配下につけ、領内の川を改修せよ」
「はっ!」
川村重吉が嬉しさと困惑の混じった顔で連れていかれると、吉清は再び人事に戻った。
のちに、川村重吉が北上川の治水工事を進めたことで、領地の石高は大きく上昇することとなるのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!