現代日本の知識で台湾のことを説明した結果、大変なことを任されてしまった。
この時代、現代ほど情報の伝達が発達していないため、情報が十分でないことはままある。
そのため、自分の知識が奉行衆の一助になればとの思いで進言したのだが、まさか台湾侵攻を丸投げされるとは思わなかった。
それだけ信頼されているのか、能力を買われているのかわからないが、任されたからにはやらねばなるまい。
高山国侵攻にあたり、家臣の誰を連れて行くべきか、思案にくれていた。
まずは、水軍を率いる将として梶原景宗が必要だ。兵站や補給路の確保、倭寇との戦いが予想されるため、今回の主力と言ってもいい。
そして、上陸後に港を建設するため、土木技術に優れた大道寺直英も連れて行こう。
樺太では、上陸後またたくまに港を完成させた実績もある。
旧大崎家臣で構成された、大崎衆の中からは、四釜隆秀を連れて行くことにした。大崎衆の中でも特に忠誠が高く、思慮深いところも気に入っている。
あとは個人的な護衛のために御宿勘兵衛も連れて行くとしよう。内陸部では首切り族も出没するため、武芸に秀でた者は必要だ。
他にも武勇に優れた者を選別しつつ、家臣の中からは、彼らを連れて行くことにしたのだった。
さっそく領内に文を送り、出陣の支度をさせる一方、直臣以外の差配も行わなくてはならなかった。
九戸政実の乱以降、吉清は松前慶広、津軽為信、南部信直、秋田(安東)実季などの東北の大名の取次役を任されていた。
平時では豊臣政権内でのパイプ役でしかないが、今回の遠征では彼らを与力につけるようにと言われていた。
大規模な戦闘が予想されるのなら積極的に動員したのだが、今回はそれほど兵力は必要ない。
それよりも、兵站の確保が大変である。沿岸部は倭寇の勢力圏で、内陸部は首狩り族の領域であり、稲作が行われているとも考えにくい。
こんな状況ではまともに略奪も期待できるはずはなく、日本から継続的に食料を運んでくる必要性があった。
そうなると、指揮系統のバラバラな軍を大量に連れて行ったところで食料の消費が激しくなるだけである。
また、大名同士の喧嘩や諍いの起きる可能性も高い。
豊臣が天下を取るまでは争っていた間柄で、いきなり「今日から過去のいざこざは全部忘れて仲良くやりましょう」などと言われても、土台無理な話である。
現に、津軽為信も松前家の軍が領内を通過するとあって難色を示していた経緯もある。
そのため、彼らを連れて行くメリットはあまりにも低く、デメリットが大きすぎた。
それならいっそ、金や米だけ出させて軍役を免除した方が、まだ役に立つというものである。
さっそく、吉清は彼らに向けて文を出した。
曰く、
『高山国に侵略することになったけど、君たちはうちの軍の与力になったよ。
でも、東北から軍を出すのは大変だから、金と米だけ出してくれればいいよ。
とはいえ、全国の大名が出払ってる中、君らだけ自分の国に篭ってると外聞が悪いから、最低限の兵だけ持って名護屋城に参陣しておいてね』
といった具合である。
与力である外様大名の他に、奉行衆から人事権も任されたので、豊臣譜代の大名から与力として欲しい者がいれば言えと言われていた。
そう言われたものの、はたして誰を連れて行けばいいだろうか。
制圧にはそれほど武力は必要ないため、多くの兵を連れて行く必要はない。
一番欲しかった、小早川隆景や小西行長、九鬼嘉隆などの水軍を率いる将は朝鮮に連れて行くのでダメだそうだ。
この辺りは、新たに創設したばかりの石巻水軍を使うしかなさそうだ。
豊臣家譜代の家臣で、野心の高くない者。内政的な手腕もあればなお良いが。いるだろうか。そんな者が。
そんなことを考えながら歩いていると、前から見知った顔が歩いてきた。
亀井茲矩が、きょとんとした様子で首を傾げた。
「どうしましたか。難しい顔をして」
「…………」
「なんでしょうか? 人の顔をジロジロ見て」
吉清の記憶に間違いがなければ、亀井茲矩はかねてより東アジアに関心があったはずだ。
秀吉に琉球制圧を申し出た際は、島津の妨害でかなわなかったが、琉球守の官位をもらっている。
琉球は律令制に組み込まれていないため正式な官位ではないのだが、秀吉からもらったジョーク官位を名乗り、のちに朱印船でシャム王国と貿易を行うまでになるのだから、筋金入りと言えた。
改めて亀井茲矩に向き合うと、
「亀井殿、高山国侵攻に際して貴殿を高山国に連れて行きたいのだが、どうだろうか」
「私で良ければお供しましょう!」
亀井茲矩は興奮した様子で頷いた。
行軍の際は、茲矩も船を出すことにしたという。
なんでも、交易をするために用意していた、遠洋航海仕様のものがあるらしい。
頼もしい限りである。
二人で侵攻計画を練る中、亀井茲矩がふとつぶやいた。
「高山国制圧の恩賞として、高山守の官位を頂きたいものですなぁ」
当然、そんな官位はない。
高山国を日ノ本に組み込んだ暁に、新たに作ってもらうつもりだろうか。
「亀井殿は、他に連れて行きたい者はおるか?」
「商人ですが、原田喜右衛門がいいでしょう。南蛮貿易をしてきた者ゆえ、向こうの事情にも明るい。きっと何かの役に立ちましょう」
「あいわかった」
こうして、連日連夜、高山国侵攻に向けた話が行われたのだった。
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