【完結保証】 小物武将、木村吉清 豊臣の天下で成り上がる! (旧題)マイナー戦国武将に転生したのでのんびり生きようと思ったら、いきなり30万石の大名になってしまいました

知識チートにならない範囲の現代知識で、豊臣政権で内政無双する話
田島はる
田島はる

和賀稗貫一揆

公開日時: 2022年11月12日(土) 12:28
文字数:2,233

 南部領と木村領の間に和賀(わが)郡と稗貫(ひえぬき)郡があり、そこを治めていた和賀氏と稗貫氏は小田原に参陣しなかったことから改易された。


 その後は豊臣領の代官地となっており、浅野長政が検地を行っていたのだが、それが在地の武士たちが蜂起する引き金となってしまった。


 史実では南部信直によって代官であった浅野重吉が救出され、吉清が手を下すまでもなく事態は収拾するのだが、どうしてもこの戦に介入したい理由があった。


 自力で鎮圧したとはいえ、葛西大崎で反乱を引き起こしてしまったことに変わりなく、秀吉から罰を受ける可能性もある。


 吉清には和賀稗貫一揆鎮圧の功を挙げれば、葛西大崎一揆の分と相殺できるのではないかという思惑があった。


 言うなれば、この戦いは吉清にとっては保険としての意味合いがあった。


 先に救援に駆けつけていた南部軍と合流すると、すぐさま戦列に加わった。


 南部軍と連携して一揆勢を蹴散らすと、城に篭っていた浅野重吉を救出して、南部信直の元へ訪れた。


「南部殿、此度の鎮圧まことにご苦労にござった」


 労いの言葉に、信直は嬉しそうに手を振った。


「なんのこれしき……。太閤殿下の家臣として、当然のことをしたまでです」


「南部殿のご活躍、必ずや太閤殿下にお伝えしましょう」


「かたじけない」


 信直が深々と頭を下げた。


「一揆勢に囲まれていた浅野殿を助け出せたので、あとはやつらを壊滅させるだけだが……」


「しかし、ここは和賀や稗貫の土地。ついこの間までやつらの土地で、地の利は彼奴らにあります。また、この辺りももうすぐ雪が降ります。雪の降る中、敵地での戦となると、こちらの分が悪いかと……」


「うむ。では、城だけ確保しておくか。一揆勢に占拠されでもしたら、面倒なことになる」


「そうですな。たしかに鳥谷ヶ崎城を奪われると、落とすのは苦労するでしょうなあ」


 鳥谷ヶ崎城は浅野重吉が篭っていた城で、木村、南部軍が救出に向かうまで、100余りの寡兵で一揆勢を食い止めていた堅城だ。ここを取られたとなると、多大な犠牲を出すのは目に見えている。


「では、鳥谷ヶ崎城は当家が、二子城は南部殿が固めるというのでいかがか?」


 吉清の提案に、信直は顔をしかめた。


「ううむ、それなのですが……」


「九戸政実、ですかな?」


 なぜそれを知っているのか、と言いたげな様子で信直が目を見開いた。


「よ、よくご存知で……」


 南部晴政が没し、南部家当主を継いだ南部晴継が同年13歳で急死すると、九戸家と石川家の南部宗家後継者争いが勃発した。


 以前から対立していた両家であったが、石川信直が九戸実親を退けて半ば強引に南部家当主となったのが南部信直だ。


 これを面白くないと思ったのが実親の兄・九戸政実で、南部信直との関係は一触即発であった。


「お恥ずかしい話なのですが、政実は私を快く思っておらず、私を南部家の当主と認めた殿下も軽んじている始末……。いつ反乱を起こすか、気が気でないのです」


 どこか落ち着かない様子の信直に、吉清はどこか既視感を感じていた。


 九戸政実といえば、南部一族では猛将として知られ、九戸家も南部家拡大に貢献した精兵揃いである。

 そんな政実の影に怯え、恐れている。


 これでは、まるで昔の自分を見ているようではないか。


 不安を打ち消すように、吉清は胸を叩いた。


「そういうことなら、ここは私が引き受けましょう。家中に火種を抱えておる中では、長陣もできますまい」


「かたじけない」


 信直を励まし、吉清は南部軍の陣を離れた。


 鳥ヶ谷城、二子城の守りに小幡信貞、四釜隆秀を残し、吉清は寺池に帰城した。


 論功行賞もそこそこに、この後に控えた戦後処理に頭を抱えていた。


 さて、どうすれば伊達政宗を追い詰められるだろうか。


 反乱した国人たちを確保した今、彼らを証人台に立たせれば、反乱が伊達政宗の手引きに寄るものだと証明できる。


 現に、助命と引き換えに伊達政宗が首謀者という証言をとりつけることに成功した。


 だが、それだけであの伊達政宗を追い詰められるだろうか。


 反乱の失敗が明るみになった今、何らかの策を講じている可能性は高い。豊臣家中への手回しか、あるいはもっと別のことか。


 思案に暮れていると、家臣たちが血相を変えて飛び込んできた。


「殿、一大事でございます!」


「どうした」


「氏家、宮崎ら、反乱に関わった者を入れた牢で火の手が上がっております!」


「なっ、何!?」


 吉清の額を汗がつたった。


 彼らには秀吉の前で伊達政宗を追い詰めるべく、証人になってもらうつもりだったのだが、当初の目論見が破綻してしまった。


「放火されたのか?」


「まず間違いないかと。今、若君が下手人を捕まえるべく指揮を取っております」


 吉清は頭を抱えた。


 戦の直後ということもあり、城内は人の出入りが激しい。それもあって、忍び込むのは容易い。


 しかし、元を正せば、ひと月前はここにいる全員が赤の他人であった。


 新しい領地。新しい城。新しい家臣。


 すべてが新たに手にしたもので、気心も知れてなければ、完全に信頼できるとは言いがたい。


 考えたくないが、家中に裏切り者がいる可能性だってあるのだ。


「…………」


 いずれにしても、伊達政宗の関与は疑いようもない。


 吉清に残された武器は伊達政宗が彼らに出した、反乱を促す書状のみ。


 史実では書状を手に入れた蒲生氏郷が伊達政宗を追い詰めるのだが、ホンモノの書状にはセキレイの目に穴が空いていたとされ、改易には至らなかった。


 このままではいけない。


 そう感じた吉清は、同僚である石田三成を頼ることにした。


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