父上を家に連れて帰った私はそのままクタナツを出発し、楽園へと向かった。眼下に見えるスティクス湖が以前の数倍もの面積に広がっているのが妙な気分ではあった。
それよりコーちゃんとカムイだ。楽園の我が家に居るのだろうか……ああ、心配だ……
自宅より先に掘っ建て小屋エリアに着陸する。だれか居るかなー。
「よう。うちの蛇ちゃんと狼を見たか?」
「ま、まさか魔王!?」
「マジで!?」
「どこから来やがった!?」
こいつらは知らない顔だな。ここも栄えてくるのかねぇ。
「まあまあ。それはともかく、で、見た?」
「いや、分からん……」
「あれだろ? フォーチュンスネイクと……」
「フェンリル狼だよな? 見てないぜ?」
「そっか。ならいいんだ。邪魔したな。」
くっ、まだ帰ってないのか。一体どこへ行ってしまったんだよー!
はぁ……居ないものは仕方ない。一応玄関前の塒もチェック。やはりいない……
仕方ない。領地を確保する作業に入ろう。今週はずっとここにいるんだし、帰ってきてくれるのを待つしかない。
まずはヘルデザ砂漠の岩石地帯で岩を限界まで収納。それをヘルデザ砂漠と北の平原との境目に規則的に配置する。これより北は私の領地だと言わんばかりに。
これを繰り返し、ヘルデザ砂漠とノワールフォレストの森を分断する平原をすっかり囲んでしまう。おっと、東の半分だけね。
ここまで四日を費やし岩を並べるだけの作業が終わった。ここから先はガチガチに城壁を築くべきか、ある程度隙間を空けておくべきか。生態系のことを考えると意外に悩ましい。だから放置する。
代わりに、楽園の外側にもう一周ほど城壁を作ってしまおう。前回大岩を配置したあそこを城壁にまで仕上げるのだ。現在の楽園の城壁は一辺が二キロル。今回のは一辺八キロルにも及ぶだろう。一大事業だな。のんびりやろう。岩なんかいくらでもあるし。かなり使ったはずだけど、全然減った気がしない。さすがは砂漠の岩石地帯だな。
岩の配置は終わった。これを城壁にまで作り上げるために……まずは基礎固めだな。楽園の城壁の下には鉄の杭が斜めに打ち込んであるが、ここにはまだ何もしていない。巨大な城壁を作るためにもきっちりと杭を打ち込んでおこう。とんでもない数の杭が必要だろうな。地道に行こう。
そして、もう週末。コーちゃん達はまだ帰ってこない。さすがに心配だ……
明日は八等星の試験があるため朝までにクタナツに着いておかなければならない。夕食を実家で食べられるように帰るとしよう。私って働いてばかりじゃない?
「ただいまー。」
パイロの日。夕方前に私はクタナツの実家へと帰ってきた。
「おかえりー。どこ行ってたのー?」
ベレンガリアさんだ。
「言ってなかったっけ? いつもの楽園だよ。はいこれお土産ね。」
道中で適当に狩った魔物だ。食事に使ってくれてもいいし、ベレンガリアさんの小遣いと化してもいい。
「あっ、ハーピーじゃん。胸肉が美味しいんだよね。いつもありがとね!」
「カー兄! 遊ぼー!」
キアラが飛びついてきた。いつもかわいいなぁ。
「よーし! 何しようか?」
もうすぐ夕方だもんな。
「水球のぶつけっこ!」
「おっ、面白そう。どんな風にやるの?」
「こんな風に水球に色を付けてー、手で投げるの! たくさん汚れた方が負けー!」
なん……だと……?
水球に色を付けるだと……?
考えもしなかった……水なんだから透明でいいじゃんって……当たり前だと思い込んでいた……
しかし大勢で遊ぶ時とか、チーム分けをする時なんかはすごく便利だ。汚れ具合で勝ち負けが一目瞭然だもんな。くっ、やはりキアラは天才か……
「私がピンクだからカー兄は青ねー!」
くっ……私が使えて当然だと思ってるな? 疑いもしてない! これはいかん! 兄の沽券にかかわる! 魔力だ。魔力があれば何でもできる! 落ち着け……落ち着いて錬魔循環から始めるんだ……私ならできる!
高まれ私の魔力よ! そして水に色を付けるんた!
『水球』
「うわー綺麗な水色だねー!」
くっ、もっと濃い青にするつもりだったのに……しかも普通の水球より三十倍は魔力を消費してしまったぞ……
「よーし、じゃあやろうか。適当に離れたらいいのか?」
「そうだよー。じゃあ開始!」
結論から言うと私が勝った。大人気ないような気もするが油断すると負けそうなほど、キアラはこのゲームの熟練者だった。うーむ、これは剣や魔力感誘の稽古にも最適だ。
「やっぱりカー兄強ーい! みんなはちょっとしか投げてこないのに!」
「はは、みんなとは普通の水球を使ってもいいと思うぞ?」
当たり前だ……キアラの同級生達には負担が大きすぎるぞ……
でもこの魔法は上手く使えば楽園の城壁に絵とか描けるかも。今は今で打ちっ放しコンクリートみたいなもんだから悪くはないんだけどね。
「よーしキアラ、濡れたことだし先に風呂に入ろうか。風邪ひくといけないからな。」
「かぜってなぁに?」
「おっと間違えた。風邪病のことな。まあキアラが病気になるわけないけどさ。」
「ふーん、入る入るー!」
キアラはいつまで私と風呂に入ってくれるものだろうか。今思えば、父上とは数回入ったが、母上と入った記憶がないぞ? まあいいか。今さら母上と風呂に入るのはきついもんな。
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