いつしかお祭り騒ぎも終わり他校の面々はそれぞれの街に帰っていった。
ソルダーヌちゃんとは、後日アレクと一緒に領都の屋敷を訪ねると話がついた。
秋の大会が終わればもう冬。私は自慢の服のおかげで全然寒くない。でもせっかく作ったのだからトビクラーの純白のコートだって着ている。
サウザンドミヅチのコートもある。こちらは色こそ真っ白だが、デザイン的には落ち着いている。ごく普通の暴君が着てそうなロングコートだ。
このコートに合わせて新しく白色のパナマ帽とストレートチップを仕立てた。もちろん素材はサウザンドミヅチだ。そうなると白いウエストコートやトラウザーズも欲しくなってしまった。そのうち作ろう。
アレクもトビクラーの真紅のコートを愛用してくれている。真っ赤なコートをはだけるとエビルパイソンロードのミニスカートからおみ足が見えるって寸法だ。とてもよく似合っている。領都でのデートが楽しみだ。
そして週末、私とアレクとコーちゃんは領都に来ている。秋の大会から一ヶ月も経っていない。
「さっそくソルのお家に行ってみる? それともお姉さんの所にする?」
「ソルダーヌちゃんのとこにしようか。姉上はまたにしよう。何か面白い魔法を教えてくれるって話だったけど。」
「ピュイピュイ」
時々コーちゃんは相槌を打つかのように鳴いてくれるんだよな。かわいい。
そして私達はいかにも貴族街といった雰囲気の道を進む。何度か衛兵らしき人ともすれ違った。私達の格好は貴族丸出しではないが、いい服なので何も言われることはなかった。そして一際大きな壁に囲われた一角、これがフランティア辺境伯家か!
自宅なのにクタナツ城壁を思わせる重厚さ。クタナツ代官府より大きい建物。恐れ入った。ちなみにクタナツ代官府にあたるフランティア行政府は街の中心部にある。ここは中心部より少し北東にあり上級貴族が住まうエリアだ。
ようやく正門に到着。門番が二人もいる!
「こんにちは。私はド・アレクサンドル家のアレクサンドリーネ。ソルダーヌ様はいらっしゃるかしら?」
「少々お待ちください。」
二分もしないうちに大きな正門が開き始めた。中にはソルダーヌちゃんと執事らしき人が待っていた。
「よく来たわね! さあ入って入って。うわーいいコート着てるわね。よく似合ってるわ。まぁ! かわいいヘビちゃんを連れてるのね!」
「ありがとう。お邪魔するわね。セバスティアーノさんもお久しぶり。このヘビちゃんはカースのよ。」
「お久しぶりでございますアレクサンドリーネ様。しばらくお目にかからない間にお綺麗になられましたな。カース様もようこそいらっしゃいました。」
「お邪魔いたします。カース・ド・マーティンと申します。クタナツより参りました。このヘビちゃんは精霊コーネリアス。コーちゃんと呼んでやってください。」
「ピュイピュイ」
「カース君もようこそ。あのウリエンさんとエリザベスさんの弟さんだったのね。いっぱい聞きたい話ができたじゃない。それにしてもこの子は噂に聞くフォーチュンスネイクじゃない。初めて見たわ。とてもかわいいわぁ。」
「ピュイ」
兄上だけでなく姉上も有名なのか?
「お嬢様、例の物件はこちらに。」
「ありがとう。もうすぐお昼だし、食べてからお家を見に行きましょうか。三軒ほど用意してあるわよ。」
昼食はソルダーヌパパかママが居るのかと思ったら私達だけだった。少しほっとした。そして美味しかった。満足だ。やはり眠たくなったが、ここで寝るわけにはいかない。
「じゃあ行くわよ。近い順に行くからね。」
こうして私達は辺境伯家の馬車に乗り移動を開始した。
車内にて、ふと気になったので聞いてみた。
「今日は護衛の人はいないの? セバスティアーノさんがいるから?」
「あら、クタナツで護衛がいたのに気付いていたのね。今日はセバスティアーノがいるから護衛の必要がないの。」
なるほど。やはり執事は凄腕なのか。これはもはや常識だな。
「護衛と言えばアレク、最近ファロスさんは? もう護衛しないの?」
「カースがいたら護衛なんていらないじゃない。そ、それから邪魔者は、い、いない方がいいでしょって母上が……」
「やっぱりカース君かなりやるのね。あのおば様からそんな風に言われるなんて。」
「カースなら当然よ。あっ、着いたのかしら?」
そこにあった家はどう見ても貴族の邸宅だった。
「へぇいい家じゃない。カースに相応しいわ。」
「いやいや待ってよ! 金貨百〜二百枚って言ったじゃない。ここは一体いくらするの!?」
「金貨千枚よ。安くする約束だから五百枚でいいわ。」
こっちの話なんか全然聞いてないってか。払えなくはないけど。
「金貨千枚でもかなり安いわね。でも何があったらこんなに安くなるのかしら? 教えてくれるわよね?」
「大したことじゃないわ。ここの前の持ち主がヤコビニ派だったってだけ。正確にはヤコビニ派に踊らされた愚かな貴族ね。そんな物件に住んで万が一にも父上に睨まれたら堪らないから誰も買わないの。」
そんなこともあるのか。建物に罪はないし次の住人にも罪はなかろうに。
「じゃあ保留で。春まで待ってくれるんなら払えるけど今はないからね。小さい家って言ったのに……」
「あら、愛の巣じゃなかったのかしら? うふふっ。」
なるほど。それもそうだな。一理ある……かな?
そして二軒目。
貴族街の外れ、下級貴族の屋敷かな? 私にピッタリではないか。
「ここは相場の半額で金貨三百枚。内装は普通の下級貴族が住む程度だから見るまでもないと思うわよ?」
そりゃそうだ。我が家と同じ感じがするものな。庭といい佇まいといい。
そして三軒目。
平民街かな?
ごく普通の家だ。
「ここなら金貨二十枚でいいわよ。ただし平民向けの家だから内装はよく見ておいた方がいいわね。」
平民の家に初めて入って分かったことがある。
・寒い。断熱やら暖房が何も考えられてない。隙間もある。きっと夏は暑いのだろう。
・風呂がない。私のマギトレント風呂を置くスペースもない。
・塀がない。だから庭で露天風呂もできない。
・トイレがない。近くの共同トイレまで行かなければならない。
・暖炉がない。ますます冬は寒い。
私も贅沢になってしまったものだ。長所より短所に目が行ってしまう。
これは二軒目にするか、冬に稼いで一軒目にするか……
「魔法学校に近いのはどれかな?」
「一軒目ね。中心部に近いんですもの。」
なるほど。よし決めた。
「一軒目にしたいけど春まで待ってもらえる? それまでに売れたら売れたで構わないから。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんもそれがいいようだ。
「いいわよ。春休みの中旬までなら私もまだ領都にいるし。それまでなら待つよう言っておいてあげるわ。」
ついに私も家を持つ身分となるのか。すごいぞ私。
「ところで税金ってどうなるの? 僕は冒険者としてクタナツに税金を払ってるけど。」
「さあ? 知らないわ。セバスティアーノ分かる?」
「今回の場合は買われた後に売主が税金を払います。そしてあの物件は貴族街ですし、カース様は貴族なので税金はかかりません。」
そいつはいいな。さすが貴族、特権ズブズブだ。
「じゃあまた買う時に防犯やら注意点など教えてもらえるかな。何だかあの程度の勝負でここまでしてもらって悪いね。役に立つかは分からないけど、困ったら言ってね。」
「ふふふっアレックスの前でそんなこと言っていいのー? 知らないよー?」
「カ、カースは誰にでも親切なの! べ、別にソルだけに優しいわけじゃないんだから!」
心配しなくても私は浮気などしないさ。まったくアレクはいつもかわいいぜ。
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