異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

123、楽園への招待

公開日時: 2021年10月22日(金) 10:55
文字数:2,421

九月三日、ケルニャの日。

両親を楽園に招待する日だ。キアラを学校に送り出したら三人で北の城門から外に出る。


「マーティンさん、例の別荘に行くんですって? 休みが足りないんじゃないんですか?」


「そこはうちのイザベル任せよ。凄いぜ?」


城門付近は父上の同僚だらけだもんな。そりゃこうなるか。ついでだし、もう隠すこともないか。目の前でミスリルボードに乗り飛び立つ。母上の仕業に見えただろうか? どっちでもいいか。


両親には、少し寄り道をしながらここ数年の私の動きを改めて説明しておく。色んなことがあったもんなぁ。

初めてトビクラーを仕留めた場所、魚や貝を買ってるタティーシャ村。スパラッシュさんが名付けたスティクス湖、最近のクラウディライトネリアドラゴンとの遭遇。そして私の楽園エデン




「見えてきた。あれだよ。」


「こんな遠くからでも見える大きさか。すごいなカースは。もう領主様だな!」


「偉いわね。よしよし。」


父上は感心し母上は頭を撫でてくれた。

両親が喜んでくれてるならそれが一番だ。上空を軽く一回りしてから玄関前に着陸。コーちゃんとカムイが出迎えてくれる。


「ただいま。変わりはなかった?」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


問題なしか。いつもありがとう。父アランと母イザベルだよ。今日から十日ほど警護を頼むね。私はまた出かけるから。


「この子がフェルリル狼のカムイちゃんなのね。可愛らしいわ。私はカースのお母さんよ。よろしくね。コーちゃんは久しぶりね。」


「ガウガウ」

「ピュイピュイ」


「カースの父だ。これはお土産だ、ぜひ食べてくれ。」


父上は用意がいいな。




玄関の鍵に両親の魔力を登録して……と。これで自由に使えるようになった。内部を適当に案内したら私は用無しだ。風呂には湯船がないので、私のマギトレントの湯船を置いて帰ろう。

それから台所の魔蔵庫には貝や魚を入れておこう。両親の魔力庫にも肉や野菜はたくさんあるだろうけど、海産物はそうそうないだろうからな。


それから寝室もきれいにしておこう。この部屋は両親には関係ないけど。一応シーツを洗って乾かして。これでバッチリ。




「じゃあ帰るよ。また迎えに来るね。」


「いや、いいわよ。場所も分かったことだし、帰りは好きにするわ。ありがとうね。」


「分かった。じゃあまたね! 十三日、ヴァルの日には僕もクタナツに戻ると思うから。」


「楽しませてもらうさ。ありがとな。」


じゃあコーちゃんにカムイ、両親を頼んだよ。


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


どうやって帰るんだろうな? 母上もボードとか用意したのかな? まあ心配はいらないだろう。さーて、寄り道してから帰ろう。




「すごい場所ね。あの子ったら一人で……本当に出来た子ね。」


「ああ、俺とは大違い。どこに出しても恥ずかしくない自慢の息子だ。さあ、誰も邪魔するものはいないんだ。思いっきり楽しむとしようか。」


「ええ、貴方……//」










私は北に向かっている。

楽園用の湯船、その素材であるマギトレントを狙うためだ。今日も私のミスリルギロチンが唸ることだろう。ようやくまともな使い方をしてやることができる。最近すっかり鉄板焼き用になってたもんな。


発見、マギトレント群生地。群生と言っても木と木の間は百メイルは空いている。そのぐらい空けてないと育たないのだろう。大地の栄養や魔力をかなり吸ってそうなイメージだもんな。




おや、同業者かな。珍しいが目的は同じと見た。挨拶ぐらいしておくか。


「こんにちは。精が出ますね。マギトレント狙いですか? 僕はクタナツの冒険者、カースと申します。僕もマギトレント狙いです。」


「あ、ああ、びっくりした。俺達もクタナツだ。カースと言うと魔女の息子さん?」


「そうです。ご存知だったとは恐縮です。何本狙うご予定ですか? 邪魔にならないようにやりますので。」


「あ、ああ、五本ほどだ。俺達のことは気にせず好きにやってくれ。早い者勝ちなのが冒険者のルールなんだから。」


さすがクタナツ者。話が早い。


「じゃああっちの方に行きますね。僕も五、六本の予定ですので。お互い頑張りましょう。」






それから約一時間で終わった。小枝を払い、即納品できるところまで完了した。後はこれをクランプランドに届けるだけ。やはり湯船はマギトレントに限るよな。

さて、挨拶してから帰ろう。




「お疲れ様です。僕はこれで失礼しますね。お仕事頑張ってください。」


「ああ、わざわざありがとう。遅くなったが俺達はクタナツの六等星マキシマム、俺はリーダーのマクシミリアンだ。帰りに例の別荘に立ち寄らせてもらうつもりだ。」


「そうでしたか。ご丁寧にありがとうございます。今日から十日ほど両親が滞在しますが、中央の建物に近寄らなければ問題ないですよ。では失礼しますね。」


やはりクタナツの人間はそこいらの冒険者とはレベルが違うようだ。リーダーが話している間にも他のメンバーは周りへの警戒を緩めていなかった。マギトレント以外にもあれこれ魔物を警戒しないと危ないもんな。








「あれが魔王カースか……」

「リーダー知ってんの?」


「むしろお前が知らないのに驚きだ」

「俺だって知ってるのによ」

「魔女の息子だから魔王なの?」


「本当に知らねーのかよ。領都の城門をブチ壊して辺境伯を震え上がらせたとか、領都の武闘大会で優勝した後に参加者全員をぶちのめしたとか。魔物だって大物だろうか小物だろうが出会ったら片っ端から全滅させる凄腕らしいぜ」

「アステロイドさんやゴレライアスさん、バーンズさんなんかもかわいがってるらしいな」

「剣鬼もだぞ」


「で、なんで魔王なの?」


「知るかよ。領都ではそう呼ばれてるらしいぜ。それにブリークメイヤーの奴らも何か言ってたぜ」

「別荘に立ち寄るならお土産ぐらい用意しとこうか」



領都の件は公式には老朽化と魔物が原因とされているが、事情通の冒険者にはバレていた。ヤコビニを捕らえた件も知ってる者は知っている。カースの名は上がりつつあった。奇しくも偽勇者が苦し紛れに吐いた言葉、魔王として。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート