王城を出て一人で歩く。特に当てはない。
スピオスライド商会で買い物ぐらいはするかも知れない。ダークエルフの村に持っていく香辛料を用意しておかないとな。開いていればいいのだが……
営業していた。
えらく感謝され、たんまり買うことができた。白金貨一枚で三枚分ぐらい買えたのではないか。ラッキー。
次に以前おじいちゃんと行った賭場、王立賭博場に行ってみた。こんな時なのにもう復旧していた。さすがに私ぐらいの歳の人間は少ないな。
よーし、手本引きをやるぞー!
手本引きはローランド王国において勇者が愛した賭博として長い歴史があり、手本引きを極める者は博打を極めるとも言われている。勇者は博打も強かったのだろうか。
手本引きは一から六のうち親にあたる『胴』が選んだ数を当てる博打。シンプルな読み合いがクセになるのだ。
今日の胴は女性か、珍しい……ん? ナーサリーさんじゃねーか! 何やってんだよ!
「入りました」
さて、凄腕治癒魔法使いのナーサリーさんは何を選んだのだろうか……
まずは三点賭けで様子見かな。いつか領都でやった手本引きは手札の置き方によって倍率があれこれ変わったが、ここでは違う。三点賭けなら賭け金の十五割、十割、三割いずれかが配当となる。
さあて、どうなるか……
「勝負!」
「小戻りの三」
「中も三、三がない方は札をあげておくんなさい」
私は一番手前の張札をひっくり返す。一番配当の低い所で当てたのだ。金貨一枚賭けたので、銀貨三枚の儲けとなる。
さあ、次々行こうか。
「これにて胴を洗わせていただきます。勇者に感謝を」
ナーサリーさんが終了を宣言した。あぁ、ここは廻り胴か。客が順番で胴をやってるんだな。王立なのに?
「子供がこんなとこで何してるのさ?」
「遊んでるんですよ。たまには一人でね。」
「どうせならイザベル姐さんを連れて来てくれりゃあいいのに」
「母上には会いましたか?」
「あぁ。訪ねて来てくれたさ。びっくりしたよ。あの人は変わらないねぇ……」
「変わらない? 二十年ぶりとかなんでしょ?」
「あぁ、それぐらいだねぇ。年々強く美しくなるところが変わらないのさ。なんであの歳で魔力が増えてるのさ……」
二十年前、母上は多分二十歳前後。一般的に魔力の上昇は十五歳で止まる。しかし、母上は十五からも伸び続けた。そして二十歳を過ぎ、四十前後の今に至るまで伸び続けていたのか……
凄いな……うちの母上は一体どうなってんだ? いや、すでにそんな母上の十倍以上の魔力を持つ私はどうなんだって話ではあるが……
そんな話をしながらもナーサリーさんと手本引きを楽しんだ。その上私にも胴が廻って来たのでやってみた。やはり博打というものは張子より親をやる方が儲かるらしい。
手つきは拙かったが、どうにか私の胴を果たすことができた。これはいい土産話になるか。楽園で冒険者達を相手に手本引きができそうだな。
「カース、勝ったんだろ? 一杯奢りなよ」
「いいですよ。僕も飲みたいと思ってました。」
ナーサリーさんに連れられて行ったのは同じ王立賭博場のビップルームだろうか。金持ちや貴族はここで酒を飲むのかな。
「あんたも飲むんだろ?」
「ええ、ナーサリーさんのオススメをください。」
注文は任せた。どんな酒が運ばれてくるのやら。
透明だ。かすかにフルーティーな香りがする。旨そうだ。
「乾杯」
「乾杯。」
美味しい。果実の旨味と言えばいいのか? 非常に飲みやすく女の子が好きそうな味わいだ。アレクに飲ませてやりたいな。
「これは何というお酒ですか?」
「これは『サークル・ドラゴニア』こいつの前にはドラゴンだって輪になって仲良く酒を飲むって意味らしい」
ドラゴンが好むにはアルコール度数が足りない気もするが、旨いことに間違いはない。
「旨い……ですね。初めて飲みました。」
でも私はやはりディノ・スペチアーレの方が好きだな。
「スペチアーレ男爵の師匠筋、センクウ親方の酒さ。名声では弟子に抜かれてしまったが、私はこれが好きなのさ」
「美味しいですもんね。このお酒はどこで買えますか?」
「ん? あぁ、そんなもんセンクウ親方の所に行けばいいさ。今から行くかい?」
「ぜひお願いします。」
この味わいはアレクも母上も好きそうだからな。ぜひ買っておかないと。ちなみに勘定は金貨十枚だった。二杯ずつしか飲んでないのに……手本引きで勝った分が飛んだどころか赤字となってしまった。
ナーサリーさんに連れられ王都を歩く。
「ところでナーサリーさんと母上はどうやって知り合ったんですか?」
「あー、話が長くなるからパス。イザベル姐さんに聞きな。要はまあ姐さんは私の恩人なのさ」
なるほど。きっとあるあるな出会いがあったんだろうな。
「いよぉナーサリぃー、なーにやってんだぁ?」
いきなり何だこの頭の悪そうな大男は。
「見て分かんない? 若い男を連れてデートしてんのさ。邪魔すんじゃないわよ」
「俺よりこんな若僧がいいってのか!」
「アンタみたいな薄らバカに靡く女なんかいるわけないでしょ!」
「なんだとぉ! やろうぶっ殺してやる!」
急展開だな。問題はこの男が私に襲いかかってきたことだ。だから麻痺をかけて放置している。
「さすがカースね。こんな怪力脳筋男をたちまち無力化するなんてさ」
「いいんですか? こいつ、僕が騎士団に突き出したら奴隷落ちですよ?」
「ああ、構やしないさ。モテる女は辛いねえ」
いや、まあ面倒だからそんなことはしないが。取り敢えず有り金は全部奪っておく。銀貨五枚しか持ってない……
「貧乏な男に言い寄られるとは、辛いですね。」
「アンタも金を抜く動きが手慣れてるね。小悪党かい?」
「いやいや、この程度で勘弁してやるという寛大さを評価してくださいよ。」
「まあいいさ、ほれ、あそこだよ」
着いたか。まさに酒蔵と言った雰囲気の大きな建物だ。これは色々と期待してしまうな。
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