週始め、ヴァルの日。
キアラが学校に行くと、家には私とベレンガリアさんの二人きり……
「じゃあ僕は道場に行くから。夕方には戻ると思うよ。」
二人きりにはならない。
「えー? せっかく二人だけなんだからどこかに遊びに行こうよー。」
「行かないよ。少しサボると腕ってすぐ落ちるんだよ?」
それは剣も魔法も同じなのだ。
「カース君って時々マジメなのね。」
「いつも真面目だと思うよ。ヒマなら来る? 結構ハードだけど。」
「行く。私も運動しないとね。」
結局ベレンガリアさんはアッカーマン先生の奥さんであるハルさんと走ったり、狼ごっこをしたり、ストレッチをしたりして過ごしていた。お互いいい運動になったらしい。
こんな風に過ごしていたら、ついに週末ケルニャの日。今日の放課後、やっとアレクに会える。
「じゃあベレンガリアさん、また来週ね。」
「惜しいことをしたわね? もう私に手を出すチャンスはないわよ?」
「出さないから大丈夫。エロイーズさんみたいに妖艶になったら分からないけど。」
「あと五年もしないうちになるわよ? 旦那様がそうしてくれるもの。」
聞きたくなーい。行こう。
昼下がり。私は領都に来た。
まずは行政府だな。買い物をしよう。
「お勤めご苦労様です。時の魔道具を購入したいと思ってます。どのようにしたらいいでしょうか?」
「ではこちらへ。白金貨五枚かかるが大丈夫かな?」
「ええ、問題ありません。」
案内された場所は見覚えのある部屋だった。
「小僧、お主か。」
「モーガン様、お久しぶりです。いつぞやはお世話になりました。」
「時の魔道具か。お主なら払えぬということもあるまい。来週末ぐらいに取りに来るがいい。代金は今から会計で払っておけ。」
「分かりました。いつもありがとうございます!」
完全受注生産か。高いもんな。
さて、放課後までもう少し時間があるかな。何しようかな。
よし、ギルドに行こう。魔物素材がたくさんあることだし、納品しておくかな。
だいぶ魔力庫の中身がすっきりしたかな。今から向かえば放課後にちょうど良さそうだ。
道中で数人の不審者に絡まれた、いや襲われた。ギルド以外でとは珍しいこともあるものだ。
『麻痺』
この上なく雑魚が五人。街中で何やってんだ?
いつも通り聞き出してみると、私に掛かった賞金が目当てだそうだ。あれから二週間と少ししか経ってないのに、もう領都まで情報が来てるのか。闇ギルドのネットワーク恐るべしだ。
それはともかくこいつらは貴族に対する殺人なので容赦なく奴隷落ちだな。代金は一人金貨五枚……安っ。騎士団詰所に突き出してから魔法学校へと向かった。
校門前にはアレクが待っていた。発信の魔法で遅れると伝えてはいたが、待たせてごめんよ。今日も取り巻きが多いなぁ。
「遅くなってごめんね。変な奴らに絡まれてさ。」
「いいのよカース、会いたかったわ。」
人目も気にせず私に飛びついてくる。普段より一段といい香りが漂ってくる。たまらん。
「盛り上がっているところを申し訳ないが、今日は君にお願いがあるんです。」
確か彼はナルキッソス君だったかな?
「何事かな?」
「僕らに魔法を教えてもらえないだろうか? もちろん一人あたり金貨一枚払う。」
それは困る。どうしよう……
「ごめん、教えるのは苦手なんだ。アレクにすら教えてないぐらいなんだよね。」
「だから言ったでしょう? カースってそうなのよ。対戦したり見本を見せてもらう方がいいわよ。」
「それに僕の魔法はほとんどが魔力によるごり押しだから、あまり参考にならないと思うよ。」
よく言えば横綱相撲なのだろうか?
「じゃあ魔法対戦をお願いできるかい? ハンデとして開始一分ほど何もしないというのはどうだろう?」
「うーん、三十秒でどう? さすがに一分は長すぎるかな。」
これだけの人数相手に一人一分もかけるなんて嫌すぎる。一分で金貨一枚はそりゃあかなり美味しいけどさ。アレクとの時間が削られるのは困る。早く自宅に、寝室に行きたいんだ。
「ありがとう。それでお願いするよ。」
そうして彼らは一列に並びアレクに金貨を払っていく。私は儲かるからいいけど、何と勿体ない金遣いなのか。
何人目かの相手にアイリーンちゃんが混ざっていた。わざわざ金貨を払ったのか……
アレクの友人にそれは申し訳ないので、勝負がついた後にこっそり胸元に返しておいた。もちろん触ってなどいない、金操で金貨を動かしただけだ。
いい運動になったかな。さあ帰ろうすぐ帰ろう。帰心矢の如しだ。
自宅に帰った私達はマーリンに挨拶もそこそこに寝室に直行してしまった。マーリンの微笑ましいものを見る目が印象的だったな。
アレクは「汗が……お風呂に……」などと言ってたような気がするが聞こえない。洗濯魔法を使ってもいいけど使わない。全力をアレクを感じたいのだ。
数時間後、ノックと共にマーリンが入ってきた。少しは待てよ……
「さあさあ夕食のお時間ですよ。せめてこれぐらい食べてくださいな。」
そう言ってカートを部屋に運び込み、テキパキとテーブルに並べていく。
「それでは今夜は私はこれで帰りますから。明日は昼過ぎに参るとしましょうね。」
言うだけ言ってマーリンは帰っていった。私達は気恥ずかしさもあり、一旦休憩して夕食をいただくことにした。風呂も入ろうかな。
それから……結局朝方まで互いを求め続けた私達は昼、マーリンが来るまで起きることはなかった。目が覚めた時、ちょうど昼食が準備できているという周到ぶり。さすがマーリン。私達のことをよく分かっている。
「おはようございます。お目覚めですね。今日もいい天気ですよ。」
「おはよ。昨日の夕食美味しかったよ。」
「おはようマーリン。いつもありがとう。」
「勿体ないお言葉です。私もお二人のご成長を嬉しく思っておりますわ。」
ふふ、成長ね。性徴でもあるのか。部屋にも鍵をつけるべきか……でも、そしたら延々と寝室にこもってしまいそうだ……
昼からはいつも通り、アレクと狩りに出かけた。私は後ろから見守るだけだが、時折ミニスカートからのぞく白い布がチラチラと私を誘惑するのだ。タイトなスカートなのに! もう我慢できない!『氷壁』
アレクは嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしているな。我ながらいいのか? こんな魔物がひしめくムリーマ山脈で……
ふぅ……
おかしいな? 私の氷壁は透明なはずだが、いつの間にか白くなっている。溶けたり曇ったりなんかしたことないが……
魔力反応はある。少し大き目なのが一匹だけ。
「これってメガシルクスパイダーね。獲物をぐるぐる巻きにして保管しておく大蜘蛛よ。私達を捕らえたつもりみたいね。」
「それはいいタイミングだね。この糸が欲しかったんだよ。どうやって集めたらいいかな?」
「本来なら地道に巻き取るべきなんだけど、カースだし氷壁ごと収納すれば? メガシルクスパイダーは適当に退治すればいいし。」
「それもそうだね。」
でもどうやって外に出よう?
そうだ、氷壁を少し浮かせて下から出よう。
出てみれば、なんじゃこりゃ?
あちらこちらに白い繭のようなものが転がっている。あの大蜘蛛の仕業か。『狙撃』
あっけなく仕留めた。最近狙撃が効かない敵が増えたから少し心配だったんだよな。でもマリーの言う通り弱かったな。
では氷壁ごと収納……できない!?
なぜだ!? 糸の一本一本が生きているとでも言うのか? いや、それは考えにくい。
メガシルクスパイダー本体も収納できないことにヒントがありそうだ。明らかに死んでいるのだから。
試しにそこら辺の繭を収納しようとしてもできない。これは中の獲物がまだ生きているからと考えれば不思議ではない。魔力反応はなかったのに。
『浮身』で持ち上げてみると……他の繭まで持ち上がった。なるほど、繭同士が繋がっているのか。てことは……
氷壁を高く浮かせてみると、他の繭や蜘蛛本体まで浮き上がってしまった。やはり全部繋がっていたのか! 納得だ。したがって、氷壁から垂れ下がった糸を切れば……収納できた! 水着一着にどれぐらい糸が要るのか分からないので他の繭も収納しておこう。落雷でとどめを刺してから。
「お待たせ。これでバッチリだよ!」
「レインコートでも作るの? カースには必要ないと思うけど?」
「ふっふっふ。アレクへのプレゼントだよ。詳しくは内緒。いい物だよ。」
「うふふ、いつもありがとう。楽しみにしてるわ。」
ふふふ楽しみだ。スクール水着だけでなくビキニも作ってもらおうかな。
思うに、メガシルクスパイダーの糸を採取するのが難しいのは待たないといけないからではないか?さっさと仕留めてしまったら糸が取れないので、ある程度糸を吐くまで耐えないといけないのでは?直接糸袋、糸腺をえぐり出すのはだめなのだろうか?
まあいいや。来週にでも早速マリーに頼むとしよう。楽しみだなぁ。
楽しみなのは今夜もだ。早く帰ろう。アレクも早く欲しいって顔をしていることだし。
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